19世紀末から20世紀初頭にかけて、主に第一世界大戦前のベルエポック期に活動したフランスの女優の展覧会です。 Collection Daniel Ladeuille や Musée d'Etampes (エタンプ市) のコレクションを中心に構成されていました。 舞台衣装だけでなく街着姿のポートレート写真や私生活での資料も多め、 副題の「ミュシャ、ラリック、ロートレックとともに」とあるように、関連する同時代の Art Nouveau の美術、デザインも併置することで、 Sarah Bernhardt を入り口に Belle Époch の時代を感じるような展覧会でした。 彼女の出演した作品、率いた劇団や根拠地とした劇場に関する資料なども少しありましたが、 当時の演劇シーンを描き出すようなものではありませんでした。 文学・演劇の博物館ではなく美術館での企画ですし、これは仕方ないでしょうか。
20世紀初頭のフランスで主に資産家階級を対象に限定もしくは予約頒布で作られた高級挿絵本の展覧会です。 この時期に活動した4人の挿絵作家 (この展覧会では「アール・デコ四天王」と呼んでる George Barbier, André-Édouard Marty, Charles Martin, George Lepape に焦点を絞っていました。 その一方、タイトルで Art Deco と謳っていますが、第一次世界大戦前夜 Ballets Russes が登場してきた1910前後から、 post-Art Deco な1930年代、さらに、第二次世界大戦後のものも数点と、時代は広めに取られていました。
1910年代前半、Barbier が Ballets Russes のNijinsky や Karsavina を描いた作品など、 Art Deco というより、まだまだ世紀末ぽい Aubrey Beardsley などと地続きと感じつつも、 直前に観た Sarah Bernhardt の展覧会の出展品と比べるとやはり斬新に感じられました。 1920年代、Bauhaus や Russian Avant-Garde のグラフィックデザインの仮想敵の一つは、 こういう高級挿絵本だったのだろうな、と。 しかし、対照的というだけでなく、共有している時代の空気というのも感じられました。 キュビズムや構成主義の影響も感じる直線的な描線のモダンさといい、ユーモアのセンスといい、 4人の中では Charles Martin が最も好みでした。
Gasette du BonTon – Art, Modes et Frivolités (1912-1925) など服飾の流行を挿絵版画で紹介するファッション・プレートが展示の中心となっていましたが、 以前にも似たようなものを観る機会もあったので [鑑賞メモ]、 挿絵作家という視点が加わったものの、新鮮というほどでもさほどなく。 むしろ、Charles Martin の挿絵に Erik Satie に曲を添えたピアノ小曲集 Sparts et Divertissements の楽譜 (1914/1919) に惹かれました。 全21曲、挿絵と曲が組みになっているので、全ての曲を聴きながらそれぞれの絵を観てみたいものです。
今までも、鹿島 茂 コレクションに基づく展覧会は、 『19世紀パリ時間旅行 -失われた街を求めて-』 (練馬区立美術館, 2017) [鑑賞メモ]、 『フランス絵本の世界 — 鹿島茂コレクション』 (東京都庭園美術館, 2018) [鑑賞メモ] と観てきましたが、 今回のこの展覧会も含めハズレがありません。