COVID-19とは関係なくリニューアルのため2月から休館していた 国立映画アーカイブですが、 7月に再オープンしました。 上映企画のニューアル後第一弾 『松竹第一主義 松竹映画の100年』が始まったので、 さっそく、戦前の小津 安二郎の映画4本をまとめたプログラムを観てきました。
今回観た4本の中で唯一、以前に映画館で観たことのある作品でした [鑑賞メモ]。 それから戦前松竹映画をいろいろ観たせいか[鑑賞メモ]、 小津らしいというより、むしろ貧乏長屋物コメディの王道のような作品だったのだな、と。
人攫い (斎藤 達雄) が子供 (青木 富夫) をさらおうとして、なんとか人攫いの親玉 (坂本 武) の所まで連れて行くも、 持て余して帰すことにする、というストーリーのコメディ短編です。 人攫いを怖がらず腕白を通す「突貫小僧」に人攫いが振り回される様子を、ユーモラスに描いています。 戦前松竹の名子役 青木 富夫 の芸名が「突貫小僧」となるきっかけとなったことで知られる映画です。 しかし、主役よりも、子供に振り回される大人を情けなくもユーモラスに演じる 斎藤 達雄 の演技 (無声なので特に顔芸) が楽しめました。
歌舞伎を海外へ紹介するためのプロモーション用記録映画で、 小津の撮った唯一の記録映画にして、小津の初のトーキー映画です。 前半は歌舞伎座の劇場の様子などを紹介するパート、 後半は『春興鏡獅子』のお小姓弥生の女型の舞と、獅子の姿での激しい舞を 六代目 尾上 菊五郎 が踊る様子をとらえています。 戦前の東京歌舞伎座の様子などが窺える興味深さはありましたが、小津の作家性は感じられませんでした。
あらすじ: 金沢の中学校の数学教師 堀川 周平 は男手一人で息子 良平を育てている。 引率していた修学旅行中に起きた生徒の事故死に対して責任を取り、堀川は教師を辞め、郷里の信州上田に戻った。 息子が中学校に進学し、寄宿舎に入ると、堀川は息子の進学のため、単身東京へ働きに出た。 その後、息子良平は仙台の帝大を出て、秋田の工業学校で化学の教師となった。 ある休日、父子は上田で一緒に過ごす。 良平はなったばかりの教師を辞めて東京に出て父と暮らしながら働こうかと言うが、周平は反対する。 それからまたしばらく経ち、良平は徴兵検査合格の報告に上京し、父 周平としばらく過ごしていた。 周平は、東京で再会した金沢時代の同僚 平田 の娘 ふみを、結婚相手として良平に勧めた。 良平が上京して5日目、周平は急に体調を崩して亡くなってしまった。 そして、良平はふみと秋田に戻るのだった。
『父ありき』の現存するフィルムは ロシア Госфильмофонд で見つかった32mm版 (ゴスフィルムフォンド版) と16mm再編集版 (国内版) があると言います。 国内版は、16mm縮小時にノイズを焼き込んでおり音質が悪く、また、戦後連合軍占領下での検閲を経ていると言われています。 今回は、戦時中公開時の編集を反映していると言われるゴスフィルムフォンド版での上映で、 音質は良好というほどではないものの、セリフが聞き取りづらい時がたまにある程度でした。
良平が中学へ進学する前後の子供時代 (周平が金沢の中学校を辞め上田に戻り上京するまで) と、 良平が秋田の化学教師になってからの大人時代の、 周平、良平の父子関係、父 周平の人柄を、日常を描くように淡々と描いて行きます。 さりげない日常的な会話、一緒に釣りをする姿などを通して、父子の情をうっすらと浮かびあがらせるようです。 ラストの父の急死の場面こそ比較的ドラマチックではありますが、悲劇的な結末へ大転換することなる、 それ以前の話の通り良平はふみを連れて秋田に帰る様子を描きます。 そこで、列車内での回想を通して描かれる父への思いも淡く感傷的。 そんな父子の情の淡々とした描写を堪能しました。
一時期、戦前松竹映画をよく観ていましたが、最近は少々遠ざかっていて、 振り返ると、約2年ぶりでしょうか [関連する鑑賞メモ]。 戦前松竹のお馴染みの俳優たちが出演している映画を映画館で観て、また映画館で戦前の松竹映画を観たくなってしまいました。