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Review: 『ファッション イン ジャパン 1945-2020 ― 流行と社会』 @ 国立新美術館 (デザイン展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2021/06/27
Fashion in Japan 1945-2020
国立新美術館 企画展示室1E
2021/06/09-2021/09/06 (火休), 10:00-18:00 (金土 -20:00)

20世紀以降の日本のファッションを辿る大規模な展覧会です。 20世紀をメインとしたファッション史の大規模な展覧会というと京都服飾文化研究財団コレクションに基づき東京都現代美術館で開催された 『身体の夢 ファッションORみえないコルセット』 (1999) [鑑賞メモ] や 『ラグジュアリー:ファッションの欲望』 (2009) を思い出します。 個別のデザイナや19世紀ヨーロッパのものであれは最近も観ていますが、 丁寧に20世紀以降をたどる大規模なファッション展は久しく無かったかもしれません。 それも日本に焦点を当てており、そういう点で見応えのある展覧会でした。

タイトルは1945年からとなっていますが、 プロローグとして、戦間期のモダン文化での洋装の受容、銘仙によるモダンな和装など戦間期のファッションから始まります。 戦後の動きと繋ぐものとして、1930年にヨーロッパで Bauhaus 人脈の下で学び、 戦後 田中千代学園 (現 渋谷ファッション&アート専門学校) を設立することになる 田中 千代 のデザインした 『パジャマ・ドレス』 (1930) という Art Deco 期らしいストンと直線的なドレスが目に止まりました。 戦時下の服装を挟み、1945-1950年代は「戦後、洋裁ブームの到来」ということで、 「洋裁学校」や洋裁雑誌 (『装苑』など) に焦点が当てられていました。 田中千代学園、文化服装学院、ドレスメーカー女学院、桑沢学園など、 現在でも影響力がある日本のファッションの教育機関が出そろう時期だったのだな、と。

1960年代になると洋裁から既製服の時代へと変わるわけですが、 既製服のブランドやそのデザイナーの層が厚くなり海外への進出も果たしていくのは1970年代以降。 松田 光弘、菊地 武夫、金子 功、コシノジュンコ、花井 幸子、山本 寛斎 のトップデザイナー6 (TD6) の結成が1974年。 さらに 川久保 玲、山本 耀司 らの加入により、東京ファッションデザイナー協議会が組織されるのが1985年。 ここまでは、柏木 博 『ファッションの20世紀 —— 都市・社会・性』 (NHKブックス, 1998) [読書メモ] や 成美 弘至 『20世紀ファッションの文化史 — 時代を作った10人』 (河出書房新社, 2007) [読書メモ] のような本を通して世界的な動向も含めて基本的な所は知る機会もありましたし、 1980年代のDC (デザイナーズ&キャラクター) ブランド・ブームに至る流れは、 比較的単線的に発展し、層が厚くなり多様化するという流れも見えて、捉えやすく感じました。

しかし、 1990年代以降も10年ごとに時代を区切られその時代を特徴付けるタイトルも付けられているものの、 実際に展示されている服を見ていても多様性が1980年代で飽和した感もあって目に見えるような展開が無くなり、 時代が止まったかのように感じられました。 バブルが崩壊してDC (デザイナーズ&キャラクター) ブランド・ブームが終焉した後は、 デフレ下で消費が縮小し、ファストファッションが興隆します。 (海外ではラグジュアリー・ブランドのコングロマリット化も進展しますが、日本国内への影響はあまり無かったでしょうか。) 確かに、ファストファッションへの言及はあり、 「ユニクロはファッションか?」という特集のあった『装苑』2001年1月号と合わせて ユニクロの服が展示されていたのも印象に残りました。 しかし、展示の中心はデザイナの作家性が強く出た服で、展示からはファストファッションへの変化が見取り辛くなっていたかもしれません。

1950年代の映画の中の衣装、1970年前後のオリンピックや万博のユニフォーム、1980年代のアイドルの衣装、 2000年代以降のファストファッションや「ゴス・ロリ」「kawaii」「ノームコア」など、 作家性より時代性を意識したキーワードの言及と関連展示もありましたが、 全体としては、やはりデザイナ中心史的な歴史記述だったでしょうか。 1980年代中頃から2000年前後まで『装苑』や『ハイファッション』といった雑誌を時々手に取り、 2000年代以降、2020-21秋冬をもっての休止まで Issey Miyake Men 一択になってしまいましたが、 当時は comme des garçons や Y's 〜 Yohji Yamamoto の homme 物とかも着ていたくらいなので、 このようなデザイナ中心史的な歴史記述自体には一定の意義はあると思っています。 (少なくとも、こういう主流の歴史記述があってこそ、そこからこぼれ落ちるものを想定しやすくなる。) しかし、デフレ下でファッション消費が縮小する1990年代半ば以降に対しては、 また違ったファッション史の記述方法が必要なのかもしれない、なんてことを漠と感じた展覧会でした。