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Review: Àlex Ollé (prod.), George Bizet (comp.): Carmen 『カルメン』 @ 新国立劇場オペラパレス (オペラ)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2021/07/18
新国立劇場オペラパレス
2021/07/17, 14:00-17:20.
Original by Presper Mérimée. Libretto by Henri Meilhac / Ludovic Halévy. Music by Georges Bizet.
Conductor: 大野 和士. Production: Àlex Ollé. Set Design: Alfons Flores. Costume Design: Luc Castells. Lighting Design: Marco Filibeck. Stage Manager: 高橋 尚史.
Cast: Stéphanie d'Oustrac (Carmen), 村上 敏明 (Don José), Alexandre Duhamel (Escamillo), 砂川 涼子 (Micaëla), 妻屋 秀和 (Zuniga), 吉川 健一 (Moralès), 町 英和 (Le Dancaïre), 糸賀 修平 (Le Remendado), 森谷 真理 (Frasquita), 金子 美香 (Mercédès).
合唱指揮: 冨平 恭平. 合唱: 新国立劇場合唱団, びわ湖ホール声楽アンサンブル. 児童合唱指導: 米屋 恵子, 伊藤 邦恵. 児童合唱: TOKYO FM 少年合唱団.
芸術監督: 大野 和士.
制作: 新国立劇場; 提携: びわ湖ホール.
2021年7月3日新国立劇場プレミエ

新国立劇場の新演出による Carmen です。 Royal Opera House cinema の Norma [鑑賞メモ] や 新国立劇場のストリーミング「巣ごもりシアター」で観た Turandot [鑑賞メモ] で興味を引かれていた La Fura dels Baus の Àlex Ollé 演出のオペラを 生で観る良い機会と、足を運びました。

舞台を現代に置き換えた演出で、Carmen は男性社会のショービジネスの中で破滅する女性スターとして描かれていました。 第一幕は Carmen のライヴ会場で Don José は会場を警備する刑事。 ファンサービスの花を受け取った Don José がライヴ中の暴力沙汰で勾留した Carmen を逃してしまいます。 第二幕はショービジネスに関わるヤクザの根城となっている酒場かライヴハウスという設定で、 Escamillo もそこに出入りするセレブな闘牛士といった所でしょうか。 ここで Don José は嫉妬から喧嘩沙汰を起こしてしまい、ヤクザ達に合流することになります。 第三幕前半はツアー中の Carmen の楽屋。Escamillo が Carmen に面会に来て Don José と喧嘩になり、その後 Don José を連れ戻しに Micaéla が現れます。 ラストはセレブの集う闘牛場。そこに、ストーカーのように Don José が現れ、Carmen を殺害して終わります。

2011年に27歳でアルコール中毒で亡くなったイングランドの女性歌手 Amy Winehouse をモデルにしたというのこの現代版 Carmen を、 Stéphanie d'Oustrac が立ち振る舞いも移り気だが自立した女性として熱演。ハマっていてとても良かった のですが、それに比べて、男2人の造形がイマイチ甘かったような。 原作に引きづられているようにも思いましたが、Don José も特に Micaëla の前など良い人過ぎで、 もっと我儘なDV拘束男感を出して欲しかった。 Escamillo も第2幕の登場場面も人気あるセレブという設定はわかるものの 妙にモッサり感じられる上、最後の場面が闘牛士姿。 マッチョなロックスターかスポーツセレブのような明確な設定にして Carmen が惹かれるという説得力を出して欲しかったです。 なんてツッコみたくなる程、楽しんで観ました。 ロックフェスのステージを意識した鉄骨の櫓が組まれたステージもビジュアル的に強く、 手持ちカメラの投影なども効果的でした。

そんなストーリーの翻案と音楽や歌詞の間のギャップに違和感が全くなかった訳ではありません。 第1幕の “Habanera” は Carmen のステージでの歌として演じられるのですが、 妙にスローなテンポで違和がむしろ強調されていたようにも感じられました。 第2幕の “Couplets du toréador” もライブハウスの客を盛り上げるような歌として 演じて欲しかったように思うのですが、これも妙に地味に。 と、やはり、よく知っている歌ほど違和が強く感じられたのは確かなのですが、 多くの場合はBGM的に受け流せるよう。 現代翻案版の Medea を観たばかりだったので [鑑賞メモ]、 ストレート・プレイに比べて音楽という面を持つオペラの強みを実感しました。

首都圏はCOVID-19感染急拡大中という事で、いつどこで感染してもおかしくない状況。 15日木曜には公演関係者1名に発熱の症状が出て、 急遽15日、16日の高校生のためのオペラ鑑賞教室2021 Carmen 公演が公演中止。 17日の公演もPCR検査結果次第。結果は陰性で開催と16日晩にはアナウンスされたようですが、自分がその事を知ったのは当日の朝でした。 開催となって良かった、とつくづく思った公演でした。