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Review: 伏水 修 (dir.) 『青春の気流』 (映画)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2021/08/15
『青春の気流』
1941 / 東宝東京 / 白黒 / 86min.
監督: 伏水 修. 脚色: 黒澤 明. 原作: 南川 潤 『愛情の建設』『生活の設計』より.
原 節子 (由島 槇子), 山根 壽子 (馬渕 美保), 大日方 傳 (伊丹 径吉), 藤田 進 (テストパイロット村上), 中村 彰 (美保の弟 章), 進藤 英太郎 (由島専務), etc

戦前のモダンで自立した女性像を描いた『東京の女性』 (東宝東京, 1939) [鑑賞メモ] と同じく、 東宝東京による 伏水 修 監督 で 原 節子 が主要な役を演じた映画です。 流石に太平洋戦争開戦後で『東京の女性』に比べ戦中色は濃くなりますが、 まだ戦前モダンの雰囲気を楽しめる映画でした。

航空機製作所の気鋭の若手設計技師 伊丹を主人公に、 積極派対消極派の社内政治に巻き込まれつつも最新旅客機を設計から完成に導く話を軸に、 伊丹を挟んで庶民の女性の恋人 美保 と伊丹に好意を寄せる専務のご令嬢 槇子 の 三角関係からなるのメロドラマを絡めた物語です。 仕事は出来るが女性には素っ気ない男性を挟んでご令嬢と庶民的な女性を対比させる展開は当時のメロドラマの典型で、 吉村 公三郎『暖流』 (松竹大船, 1939) [鑑賞メモ] や 大庭 秀雄『花は僞らず』 (松竹大船, 1941) [鑑賞メモ] も連想させられます。 大日方 傳 演じる伊丹は松竹メロドラマでの 佐分利 信 の役ほど朴念仁ではないですが、 ご令嬢 原 節子 は 高峰 三枝子 に被りますし、 何より、控えめな恋人役の 山根 壽子 が 水戸 光子 にとても似ているように感じられました。

松竹メロドラマではたいていヒロイン2人が直接対面する場面などを作って、それぞれの女性の心理が繊細に描かれるわけですが、 この映画ではラスト近くの伊丹の結婚式の場面まで、2人のヒロインが直接合いませんし、その場面では既に2人の心の揺らぎは無い状態です。 エンディングもご令嬢が振られたことを知る涙の場面でヒロイン視点でメロドラマチックに終わりません。 その場面から、さらに引っ張って、伊丹と美保の結婚式、そしてハネムーン飛行で終わります。 恋の成就としての結婚と航空機開発の成功という伊丹の視点からのハッピーエンドです。 そういう点では、あくまで伊丹が主人公の映画です。

メロドラマ部分の展開や演出はさすがに松竹メロドラマに比べ見劣りしますが、 その一方、航空機開発の場面はさすが東宝です。 航空機開発の工程は特撮も駆使してその現場を具体的に描きます。 『花は僞らず』での発明のいいかげんな描写など比べ物にもなりません。 航空機開発の現場はもちろん、ご令嬢、設計技師やテストパイロットたちのモダンな服装など モダンなディテールは楽しめたのですが、 積極派対消極派の社内政治の描写は図式的でしたし、メロドラマ的要素も弱いので、 『東京の女性』に比べると不完全燃焼気味になってしまいました。期待が大きすぎたでしょうか。

『青春の気流』は脚色 黒澤 明 ということで 黒澤 明 DVD コレクションというシリーズの中で2019年にDVD化されています。 今回は、それを入手して観たのでした。 その一方で、そういうきっかけも無い『東京の女性』がDVD化されていないというのは、残念な限りです。