恒例の東京都写真美術館1Fホールの上映企画 『世界の秀作アニメーション2022秋編』で、 この4本 (含む短編特集1本) を観てきました。
ロマン派の小説作家 E. T. A. Hoffman の様々な作品を元に、その幻想的な作風を生かして人形アニメ化した物です。 主人公は Hoffman で、Hoffman 自身の伝記的エピソードと、 学生 Anselmus (この作品では Hoffman の夢の中の姿とされる) と蛇の精霊 Serpentina の恋物語 Der goldne Topf (1814) が物語の核となっています。 そこに、バレエ Coppélia (1870) の元となった Der Sandmann (1817) や バレエ Щелкунчик [The Nutcracker] (1892) の元となった Nußknacker und Mausekönig (1816)、 Hoffman の3つの小説をベースとしたオペラ Les Contes d'Hoffmann (1881) などに登場するキャラクターやオマージュ的な場面が織り交ぜられていました。 19世紀近代ではなく少し遡った近世的な衣装や背景の美術に、 鼻をデフォルメして性格付けしたかのような人形造形やその動きを楽しみました。 Hoffman の小説はほとんど読んでいないものの、バレエやオペラでお馴染みのネタも多く物語はとっつきやすく感じられましたが、 現代的な解釈があまり感じられ無かったのは少々物足りなかったでしょうか。
フランスのアニメーション・プロダクション Autour de Minuit の手がてた短編アニメーションのオムニバスです。 アニメーション・スタジオではなく個性的な作家をプロデュースするプロダクションということで、作風は多様でしたが、 全体としてはグロテスクだったり毒を感じさせる大人向けの作風です。 前半はスペイン出身のアニメーター Alberto Vázquez の3作品です。 キャラクターのベースは可愛らしいのですが、 Sangre de Unicornio ではヒーローとアンチヒーローをグロテスクに対比し、 Decorado では舞台装置の上を生きていると感じている酒に依存しがちで仕事も無い主人公のディストピアを描き、 Homeless Home では大量殺戮の戦争から戻った帰還兵と戦争で荒廃した故郷のポスト・アポカリプスをファンタジーの皮をかぶせて描いていました。 後半、宇宙や生命の歴史をラフな筆捌きの下や中から見せるように描く Bevure、 実写の街をモノクロのフレームセルで変換することで現実の裏の暗い世界を見せるかのような Ghost Cell、 ポップアートのような単純化した鮮やかな色で形態で人が忽然と消えた街を描く Empty Places と、スタイリッシュな作風が続きます。 ラスト Logorama は公的組織から企業の商品まで様々なロゴを駆使しして荒唐無稽なアクションコメディに仕上げた怪作でした。
アフガニスタン出身の主人公の少年が戦争を逃れてデンマークに居場所を見つけるまでの実話を、 歴史的な出来事に関しては実写のニュース映像を交えて作られた、ドキュメンタリー色の強いアニメーション作品です。 その内容に合わせてか、抽象化された表現を控えめに交えるものの、基本的にデフォルメの少ない絵によるアニメーションで描いていきます。 21世紀に入ってからのタリバン政権下の抑圧的状況を描いた Les Hirondelles de Kaboul [鑑賞メモ] や The Breadwinner [鑑賞メモ] と違い、 この映画で描かれるアフガニスタンはタリバン登場以前の1980年代から1990年代初頭です。 航空機パイロットをしていた主人公の父は人民民主党政権 (ソ連の支持していた政権) に拉致されて行方不明となったようですが、 1992年の人民民主党政府の崩壊によるカブールの混乱の際にアフガニスタンを脱出します。 そこから、モスクワ経由でスウェーデン・デンマークへ逃れる逃避行が1990年代前半のソ連崩壊後の状況と交えて描かれます。 この作品のもう一つのテーマとして、デンマークへ来ることで主人公の同性愛という性的指向が受容されるというものがあるのですが、 こちらは順調な展開なので、困難な難民逃避行の方がどうしても強く印象に残ってしまいました。
アイルランドのアニメーション・スタジオ Cartoon Saloon の Tomm Moore 監督の “Irish Folklore Trilogy”「ケルト三部作」の第2作です。 都会暮らしの祖母とそこから離れて田舎の港町の外れの島で灯台守をする父の対立と和解の物語を、 祖母の家から父の家への兄妹の冒険行として アイルランドのフォークロアのキャラクターを交えた壮大な冒険ファンタジーとして描いていました。 都市と自然の対立と和解というテーマも感じましたし、 あえて遠近法を排したドローイングによる絵本を動かしたかのよう。 WolfWalkers [鑑賞メモ] のような動きもある壮大なアニメーション絵巻は、この時点で十分完成の域にあったと知ることができました。 しかし、WolfWalkers から遡ってみると、 イングランドのアイルランド侵略のような大状況が無いことや、 ヒロインの女性の行動の主体性というか内的動機の弱さが、物足りなく感じられてしまいました。
東京都写真美術館1Fホールの上映企画 『世界の秀作アニメーション』は 2021年秋編、2022年春編 [鑑賞メモ] に続いて3回目になります。 上映機会の少ない日本、アメリカ以外のアニメーション映画を観ることのできる有り難い企画なので、引き続き続けて欲しいものです。 秀作が揃った魅力的な企画だと思うのですが、今まで自分が観た回はいずれも観客が少なく、次があるのか気がかりです。 早めの告知や、あまり詳しく無い人でも観ようと思える作品紹介など、もう少し工夫の余地もありそうに思うのですが。