Ivo van Hove が2007年に創作した William Shakespeare によるローマ(悲)劇3作品、 The Tragedy of Coriolanus 『コリオレイナス』、 The Tragedy of Julius Caesar 『ジュリアス・シーザー』、 Antony and Cleopatra 『アントニーとクレオパトラ』の 3作品をオランダ語訳で一挙上演するという作品です。 その上演形態も特異で、 観客席と舞台を明確に区別しない空間で上演し、観客は移動可という、イマーシヴなもの。 6時間近い長丁場ですが、約30分毎に約5分の休憩が入ります。 そして、スマートフォンは使用可で写真・動画を撮影してSNSへシェアするのも可、 さらにはバーカウンターまで用意され飲食も可です。 COVID-19下の2021年、オランダ公共放送VPROがこの作品を無観客での上演をライブ収録、放送し、 ITA Live でストリーミング配信されました。 今回、東京芸術祭2022の上映企画『ワールド・ペスト・プレイ・ビューイング』の中でそれが上映されたので、それを観てきました。 上演形態とは異なり、途中で1回の休憩のみ、席移動やスマートフォン/SNS、飲食は不可の通常の形態での上映でした。
オリジナルのローマ時代ではなく、現代に舞台を置き換え、 衝立のような視界を遮るようなものは無いもののニュース番組やドラマを収録するTVスタジオを思わせるセットを用意し、 時に手持ちカメラなども使い、撮影スタッフも映し込むような形で収録しています。 そんな舞台裏も含めて見せるようなスタイルは、 Opening Night [鑑賞メモ] や All About Eve [鑑賞メモ] に近く感じられました。
前半は Coriolanus、 そして続けて Julius Caesar。 登場人物の服装も欧州の政治家のような濃紺のスーツ姿で、 現代欧州の戦争や政治のニュースや公開討論番組を思わせるセッティングで、 例えば死を伝える場面など監視カメラで捉えた死体のような象徴的な形で表現するものの、 しかし要所要所の演技は自然主義的に、古代ローマの政治劇を演じていきます。 2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まって以来、 それにまつわる欧州メディアのニュースをチェックすることが多かったので、 そこでのイメージと Coriolanus や Julius Caesar での 政治的な駆け引きや戦争の推移を伝える報道のイメージに重なるところが多く、 とても面白く感じられました。
後半の Antony and Cleopatra は、 前半のような政治劇ではなく、むしろ、家庭劇的な面が強くなるのですが、 セレブな美男美女のメロドラマではなく、むしろ、 少々冴えない所もある普通の中年男女の悲劇として演じていました。 比較的頭の方の場面で、アントニーはパンツ一丁でソファーに横になってタブレットで動画を観ているくらいでかつての覇気を失った中年のようですし、 クレオパトラもちょっとヒステリックな所のある中年女性。 その演技もあって絶妙な俗っぽさのリアリティが面白く感じられました。
上演時間が長いこともあり最後まで集中が持つ自信が無かったのですが (ITA Live のストリーミングがあったときは、これに加え、日本時間で未明という時間帯もあって、観ませんでした)、 途中での演出の変化もあり、意外に飽きずに最後まで楽しむことができました。
この Roman Tragedies は、 2020年11月に東京芸術祭のプログラムとして東京芸術劇場で上演が予定されていたもののCOVID-19で中止になったのでした。 その時も代替の映像上映プログラムがあった [鑑賞メモ] があったのでした。 その後2021年に映像化されたので、今年上映されたといったところでしょうか。 La Ménagerie de verre [The Glass Menagerie] は2年越しで海外招聘公演を実現しましたが [鑑賞メモ]、 Roman Tragedies はそのイマーシヴな上演形態もあって、 実現はまだまだ難しいのでしょうか。