1960年代から活動する写真家 (2012年没) の60年代から90年前後にかけての写真に焦点を当てた回顧展です。 カラスの群れを暗い空を背景に影のように捉えた〈烏(鴉)〉シリーズ程度の予備知識しかかなったのですが、 むしろ、早逝した妻を撮影した〈洋子〉シリーズなど、1960年代末のアングラの雰囲気を捉えるような〈遊戯〉シリーズなど、 被写体だけでなく白黒の粗めの画面の作風からもカウンターカルチャー以降の「私写真」の時代を感じました。
「ありふれた日常の何気ない一瞬を撮影した作品など」を4つのテーマ (「しずかな視線、満たされる時間」「窓外の風景、またはただそこにあるものを写すということ」「ふたつの写真を編みなおす」「作品にまつわるセレンディピティ」) にそって展示したコレクション展です。 本展覧会には出ていませんでしたが、特に前半は、今年頭に観た 野口 里佳 [鑑賞メモ] を思い出させられるところもあり、 このような写真表現が写真をメディアとする現代美術の文脈で一定の層があることに気付かされました。 その一方で、メタか観点から取り上げられていたそのような傾向からは外れる 本城 直季 [鑑賞メモ] や 畠山 直哉 [鑑賞メモ] が集められた 「作品にまつわるセレンディピティ」のコーナーが良いなと、自分の好みを再確認させられもしました。
地下1階展示室では『土門拳の古寺巡礼』 (2023/03/18-2023/05/14)。 刊行60年を記念した展覧会です。 アクリルパネルへのプリントを中心とした展示だったのですが、デジタルリマスターされたクラッシック映画のようで、 被写体と同じくらいその発色や描画の鮮やかさが印象に残ってしまいました。