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Review: 畠山 直哉 (Naoya Hatakeyama): Natural Stories @ 東京都写真美術館 (写真展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2011/11/06
畠山 直哉 (Naoya Hatakeyama)
東京都写真美術館
2011/10/01-2011/12/04 (月休;月祝開,翌火休), 10:00-18:00 (木金 10:00-20:00)

2007年の神奈川県立近代美術館 鎌倉での個展 Draftsman's Pencil [レビュー] に続く 畠山 直哉 の個展だ。 今回の展覧会は人間の営みと自然の接点で生じる 秩序的を感じる線と不定型な形状が混じり合いせめぎあうような 静かな緊張感のある形状を捉えた写真を集めていた。 建築や都市が描き出す線に焦点を当てていた2007年の個展と重複する作品は無く、 その時とは別の面を堪能できる展覧会だ。

1980年代後半に撮られた初期の Lime Hills 連作や、 1995年に始まった Blast 連作を除くと、2000年代の作品。 Draftsman's Pencil よりも最近の作風とも言えるかもしれない。 Atmos [レビュー]、 Two Mountains (この展覧会では Untitled (Another Mountain)) や Zeche Westfalen I/II Ahlen [レビュー]、 Ciel Tombé [レビュー] など、 観たことがある作品が多く、 それらの初めて作品を観た時から Blast との類似点を感じていた。 そういう意味では、展覧会構成も含めて新鮮さや意外さを感じる所は多くなかった。 しかし、好きな作品だけに、こうしてまとめて観るだけでも、充分に楽しめた。

今回の展覧会で初めて観た作品の一つは、 今回展示された一連の作品の原点ともいえる Blast シリーズを動画化した Twenty-Four Blasts 2011 (2011)。 既発表の Blast を撮った際の高速連続写真を繋げて、 石灰岩採掘場での発破の瞬間をコマ送りスローモーションの動画としたものだ。 スチルの写真作品として発表されている所で少しタメを作るような送り方で、 飛び散る岩が作り出す形状の面白さを見せつつも、 スチルではあまり感じられなかった岩が飛んで迫ってくるような迫力を作り出していた。

初めてみたもう一つの作品は『陸前高田』 (Rikuzentakada, 2011)。 畠山 の出身地であり、3.11東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた街、陸前高田を捉えた連作だ。 建物がさらわれ土台跡のみが広がる様子を Lime Hills での石灰岩採掘場のように、 積み上げられて山となった瓦礫を Terris でのぼた山のように、 破壊されひしゃげ歪んだ家屋を Zeche Westfalen I/II Ahlen での爆破された廃工場のように捉えている。 しかし、一連の作品を見ていて、被災地の状況を美のネタにしているような作品とも、 自分の故郷を襲った悲劇を撮っているという感傷的な作品とも、感じられなかった。

今回の展覧会で展示された一連の作品の画面から感じる秩序を感じる線と不定型な形状がせめぎあうような静かな緊張感は、 単なる形式的な問題というだけではなく、 人間の営みと自然の接点にある種の緊張感の反映といえるのかもしれない。 そして、津波の被災地というのも、石灰岩採掘場などと同様、そんな緊張が露になった場所ということなのかもしれない。 そんな事に気付かされた展覧会だった。 『陸前高田』は60点を展示するためか一枚のサイズが小さかったのが、少々残念。 大判のプリントでこれだけの展示を観てみたい。

一方、意外だったのは、『気仙川』 (Kesengawa, 2002-2010)。 震災前の気仙川、そして、陸前高田の様子を捉えた一連の写真をスライドショーで展示していた。 川を行く船の明かりを Slow Glass のように捉えたものもあったが、 祭の様子を捉えた写真など人物を大きく撮った写真も多かった。 震災が無ければこれらの作品をこういう形で展示することもなかったのではないかとも思ったが、 これとの対比によって、『陸前高田』の形式性が際立ったのかもしれない。

今回の Natural Histories にも 2007年の Draftsman's Pencil にも出展されなかった主要な作品に、 Slow Glass [レビュー] がある。 今回の展示の中にも何点かはあったけれども、 不定形な形状やテクスチャにむしろ焦点をあてたような写真作品も少なからずある。 次はそんな作品を集めた展覧会を観てみたい。