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Review: 本城 直季 『(un)real utopia』 @ 東京都写真美術館 (写真展); 『TOPコレクション 光のメディア』 @ 東京都写真美術館 (写真展); 『写真発祥地の原風景 幕末明治のはこだて』 @ 東京都写真美術館 (写真展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2022/04/03
本城 直季 『(un)real utopia』
Honjo Naoki: (un)real utopia
東京都写真美術館 B1F
2022/03/19-2022/05/15 (月休; 3/21,5/2開; 3/22休). 10:00-18:00 (木金-20:00)

パンフォーカスの望遠写真ではなく、 大判写真機のアオリを利用してまるで焦点深度の浅いミニチュアのクロースアップ写真のような効果を出して撮られた空撮写真、風景写真で知られる 2000年代から活動する写真作家 本城 直季 の個展です。 作品はそれなりに観る機会はありましたが、美術館レベルの個展でまとめて観たのは初めてです。

ビルや家屋が立ち並ぶ都会を撮った写真という印象が強かったのだけど、被写体の多様さに気づくことができました。 リゾートや校庭で遊ぶ人々を撮ったものは、ミニチュア写真ぽさという点では共通しますが、人々の疎な感じは密集した都市建築物の写真とは対照的。 また、ぎっしり建物が並んだ状態だけでなく、京都で緑の中に浮かぶ寺社仏閣を撮ったり、工場の大規模設備を浮かび上がらせたり、ケニヤでサバンナの中で野生動物を撮った写真にも、 周囲がピンボケで対象だけに焦点が当たって浮かび上がるような効果に、ミニチュア写真のようという以上の、視点誘導効果の面白さを感じました。

宝塚歌劇の舞台写真を宝箱 “treasure box” として撮ったシリーズや、 COVID-19による緊急事態宣言下に撮ったのではないかと思われる照明が落ちた夜の繁華街など、 ミニニュア写真風空撮写真以外のアプローチにも将来の可能性を感じないわけではありませんでしたが、 手法へのこだわりと対象の多様さが面白い展覧会でした。

Light as Medium: The TOP Collection
東京都写真美術館 2F
2022/03/02-2022/05/22 (月休; 3/21,5/2開, 3/22休). 10:00-18:00 (木金-20:00)

雲を雲としてではなく抽象的な心象風景として撮った Alfred Stieglitz: Equivalent (1929) を起点に、 Stieglitz をメンター的な存在として Minor White らが1952年に創刊したアメリカの写真雑誌 Aperture に関係する写真作家や、それらと同じ系譜に乗るような作風の写真を集めたコレクション展です。 多重露光やフォトグラムなどの技法も使った作品も多く、 被写体そのもの記録としての写真というより、抽象的な心象を被写体からの光で描くような写真が集められていました。

初代編集者の Minor White 、創刊に関わった Barbara Morgan、Ansel Adams、 Aperture 誌に写真を発表した Edmund Teske や Walter Chappell など、 直接に関わった作家が展示の核になるのですが、その中で印象に残ったのは Barbara Morgan。 ポスターやフライヤにも使われた Pure Energy and Neurotic Man (1940) の光の軌跡と手のコンポジションや、 ダンサー Martha Graham を撮った Martha Graham - Letter to the World, Kick (1940) など、 タイトルの付け方も含めて気に入りました。

類似の傾向を持つ写真としては、Man Ray の写真のシュールなイメージや、László Moholy-Magy のフォトグラムや新即物主義な写真なども取り上げられていました。 日本の写真家では、瑛九 (Ei-Q) の1950年代の「フォト・デッサン」や杉浦 邦恵の最初期1960年代の特殊なエフェクトを使った写真 [鑑賞メモ]。 より最近では、佐藤 時啓 のライトペンと長時間露光による風景写真 (出展されていたのはポラロイド写真によるもの) [鑑賞メモ] や 田口 和奈 [関連する鑑賞メモ] による目の部分だけちぎり出した写真を写し込んだ写真作品など。 もちろん、典型的な写真だけではなく、関係付けられるギリギリの線を狙ったものもあって、 そんな中では報道写真作家と知られる W. Eugene Smith の写真なども取り上げられていました。

観たことのある写真も結構ありましたが、単にキュレータの指向/嗜好というだけでなく、 Aperture 誌に関係するという写真史的なしっかりした軸も感じられ、 こういう切り口があったかと新鮮に観ることができました。 素直に線形に並べられているというより直感的に順路が捉えづらい入り組んだ展示構成も、 年代順や関係を読み解くような面白さ。 コレクション展示ということによる油断もありましたが、見応えのある展覧会でした。

Geneses of Photography in Japan: Hakodate
東京都写真美術館 3F
2022/03/02-2022/05/08 (月休; 3/21,5/2開, 3/22休). 10:00-18:00 (木金-20:00)

2018年の第一弾、長崎編 [鑑賞メモ] から 少々間が開きましたが、『写真発祥地の原風景』は はこだて (箱館/函館) 編です。 黎明期写真だけでなく同時代の錦絵などの資料も使い、ロシア船来航やアイヌに関する資料を交えて、 幕末開国時の開港5港の一つという西洋へ早くに開かれた湊町という、 写真史的にも面白いポジションだったということを浮かび上がらせるよう。 函館へはこの10年くらいの間に2回ほど行っていることもあり土地勘もそれなりにあり、 当時のパノラマ写真などから現在の風景を思い浮かべることもそれなりにできたことも、楽しめた一因でしょうか。