Fire Shut Up in My Bones [鑑賞メモ] に続いて Terence Blanchard の “an opera in jazz” 作品が Met Opera Live in HD でかかったので、観てきました。 2013年初演の Blanchard 初オペラ作品で、演出は Fire Shut Up in My Bones や Porgy And Bess [鑑賞メモ] と同じく Opera Theatre of Saint Louis 芸術監督 James Robinson です。
アメリカ諸島ヴァージン諸島セント・トーマス島出身のプロボクシング王者 Emile Griffith の生涯を描いた伝記的な作品です。 叔母に虐待気味に育てられたセント・トーマスでの子供時代、母を追ってニュー・ヨークに出て帽子工に、プロボクサーに、そしてついに王者になります。 生涯悔いることになる対戦相手の死、そして、引退後のゲイバーを出た後での瀕死の暴行を受けるという事件、 さらに、老後の死なせた対戦相手の子との対面、と、長い一生を、認知症で自宅介護を受ける老王者の回想という形で描いていきます。 回想という形を取っているのでその進行は複雑です。 回想している老王者の部屋を可動式の小舞台として舞台上に置くという The Hours [鑑賞メモ] でも見られた力技で解決していました。 伝記的な物語という意味で似ている Fire Shut Up in My Bones ではシンプルな物語進行となったのは、その反省でしょうか。
バイセクシャルの黒人がタイトルロールにボクシングやゲイバーが描かれるなど従来のオペラとは縁遠そうな題材に取り組むところは意欲的とは思うのですが、 Fire Shut Up in My Bones もそうですが、興味深いという以上のものを感じられませんでした。 リアリズム的な表現と相性が良い伝記という題材とリアリズム的になり難いオペラという形式の相性の悪さなのでしょうか。