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Review: デイヴィッド・ホックニー展 [David Hockney] @ 東京都現代美術館 企画展示室 (美術展); 『あ、共感とかではなくて。』 @ 東京都現代美術館 企画展示室 (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2023/09/24
David Hockney
東京都現代美術館 企画展示室3F/1F
2023/07/15-2023/11/05 (月休;7/17,9/18,10/9開;7/18,8/19,10/10), 10:00-18:00.

イギリス出身ながら1970年代にアメリカ・ロサンゼルスへ拠点を移したポップアートの文脈で知られる 美術作家 David Hockney の、 1996年の東京都現代美術館での展覧会 [鑑賞メモ] 以来、 27年ぶりとなる大規模な回顧展です。 フライヤ等から得られた事前情報が比較的初期の作品が中心で、 前回の回顧展とあまり変わらないのではないかと期待していなかったのですが、 展示の後半2/3は21世紀に入ってイギリスに戻ってから (ロサンゼルスも拠点としていますが) の作品。 好きなフォトコラージュ作品があまり無かったのは残念でしたが、 フォトコラージュ以降の展開といえるiPad絵画 (iPad drawing) やマルチスクリーンのビデオ作品など、 最近の活動を楽しみました。

フォトコラージュの直の系譜としては、方形の写真を継ぎはぐのではなく、 画像編集ソフトウェアで多視点のままシームレスに繋いだ “photographic drawing”。 ロサンゼルスのスタジオ内を撮った3000枚の写真をはぎ合わせた In the Studio, December 2017 (2017) など、画面の歪みも面白いものでした。

しかし、最も良かったのは、マルチスクリーンビデオインスタレーション作品 The four seasons, Woldgate Woods (Spring 2011, Summer 2010, Autumn 2010, Winter 2010) (2010-11) [公式の紹介動画]。 春夏秋冬の4回、3×3の9台のカメラを使いイングランド北部ウォルドゲイトの林を抜ける道を少しずつ進みながら撮ったビデオを使い、 55インチ・モニターを横3台×縦3台に並べた壁で四面を囲み、 四面を四季に対応させて、四季ごとに9本の、全36本のビデオを同期させて上映するビデオインスタレーションです。 綺麗に継ぎ合うようにしていない四季ごとの9枚のビデオから多視点を、四季に対応した四面で時間展開を感じさせますし、 ごちゃごちゃした猥雑な被写体を使ったり進行方向を変化させたりしない抑制的な表現で、林の美しさも堪能できる、そんな作品でした。

iPad絵画 (iPadのドローイングソフトウェアで描いた絵画) としては、 複数のiPad絵画を合成して幅1m長さ90mの「絵巻物」として出力した A Year In Normandie (2020-21) も圧巻でしたし、 The four seasons, Woldgate Woods (Spring 2011, Summer 2010, Autumn 2010, Winter 2010) と共通するテーマ (多視点、時間経過=四季の移ろい) が使われていることにより、 メディアの差異が際立つ点も興味深く感じられました。 また、横2×縦3で6枚のiPad絵画を組み合わせた描く経過も含めて「液晶絵画」的 [関連する鑑賞メモ] なビデオ作品とした 10th - 22nd June 2021, Water Lilies in the Pond with Pots of Flowers (2021) にも、多視点と時間経過のヴァリエーションを興味深く感じました。

1970-80年代の版画作品などその色彩の軽さもアメリカ西海岸を思わせるものがありましたが、 21世紀に入ってイギリスで制作したiPad絵画など、 その色面といい、「液晶絵画」的なビデオのセンスといい、むしろ Julian Opie [鑑賞メモ] に近いものが感じられ、 Hockney はイギリス人だったのだと改めて認識させられました。

How I feel is not your problem, period.
東京都現代美術館 企画展示室B2F
2023/07/15-2023/11/05 (月休;7/17,9/18,10/9開;7/18,8/19,10/10), 10:00-18:00.
有川 滋男, 山本 麻紀子, 渡辺 篤(アイムヒア プロジェクト), 武田 力, 中島 伽耶子.

現代アートの文脈で活動する日本の5人の作家によるグループ展です。 中で興味を引かれたのは、有川 滋男。 見本市企業ブースのパロディ的なインスタレーションなのですが、 職業を取材し、関係者の出演するビデオ作品を制作し、各ブースでビデオに登場する物と合わせてビデオが上映されています。 そのビデオだけでなくブースの展示も職業をわかりやすく紹介するものではなく、 かといって謎かけをして観るものを引き止めるようなものでもなく、 形式性を強調した淡々とした作りで不条理感を際立たせます。 何の職業に着想したものかは結局分かりませんでしたが、そんな不条理感を楽しみました。