版画・印刷物を通して20世紀初頭の戦間期の欧米や日本のモダンな文化の諸相を見る展覧会です。 Gazette du bon ton のような20世紀初頭のモード挿絵本 (ファッションプレート)、 Cubism, Abstruction-Création や Surrealism などの作家グループの作家性の高い版画作品から、 ワイマール時代ドイツの Neue Sachlichkeit の社会主義色濃い風刺画、ソヴィエト・ロシアの絵本やプロパガンダ印刷物まで、 多面的にこの時代を浮かびあがらせるような展覧会でした。
戦間期の文化が好きということもあり、 Art Deco の高級挿絵本 [鑑賞メモ]、 ワイマール時代の風刺画 [鑑賞メモ]、 ソヴィエト・ロシアの絵本 [鑑賞メモ] など個別の展覧会もそれなりに観てきていますが、 所蔵作品を中心とした構成ながら、見応えある展示でした。
展示は、関係する作家の第一次大戦前 Belle Époque 期の仕事に始まるのですが、 この時代の André Hellé の L'Assiette au Beurre での風刺画の色濃い作品をある程度まとまった形で見ることができました。 また、Erik Satie: Sports et Divertissements 楽譜 Charles Martin 挿絵も見ることができました。
1923年にフランスで設立された Société des peintres-graveurs indépendants (独立版画家協会) 関連作品を集めたコーナーがあり、 この協会の設立した Jean-Émile Laboureur の20世紀初頭の版画が一つの展示の軸となっていました。 George Barbier らのモード挿絵の華美とは違った、Laboureur のモノトーンの優美さに気付くことができました。
ドイツの印刷物の中では、やはり Neue Sachlichkeit の作風のものの存在感がありましたが、 1922-1924年に発行されたドイツのモード挿絵本 Styl の展示が目を引きました。 いかにも Art Deco 期のモード挿絵ですが、他と違い Lieselotte Friedländer や Anni Offterdinger といった女性作家が活躍している点に興味を引かれました。 また、同時代の日本の雑誌として『婦人グラフ』が、元ネタの Art Goût Beauté と並置されて展示されていました。 モード挿絵本の展示の充実には、デザイナー/研究者として知られる 伊藤 和之 氏のコレクションが大きく寄与していました。
展示が焦点を当てているのは戦間期ですが、戦中戦後への繋がりを意識した最終章が設けられていました。 その中では、1933年にパリで設立され、第二次世界世界大戦勃発でニューヨーク移転し、Surrealism と Abstruct Expressionism を繋いだ Stanley William Hayter の版画工房 Atlier 17 を取り上げている点に、版画・印刷物を対象としたこの展覧会らしい着眼点を感じました。