国立映画アーカイブでは上映企画『撮影監督 三浦光雄』が開催中。 1920年代サイレント期の松竹蒲田、1931年には松竹を離れ、1937年以降はP.C.L.〜東宝、 戦後も主に東宝で1950年代半ばまで活動した撮影監督です。 そんな中から、入江 たか子 主演作品を観て来ました。
『月よりの使者』 (入江ぷろ, 高田稔プロ, 新興シネマ, 1934) [鑑賞メモ] と同じく、 当時の人気女優 入江 たか子 と人気男優 高田 稔 を主演にした映画です。 佐渡から上京し大学を出てサラリーマンとなった工藤 (藤田 進) と、その妻 三千代 (入江 たか子)、工藤と同郷の学友で科学者の 新庄 (高田 稔)を巡る物語です。
貧しい出自という劣等感から失敗にかかわらず株にのめり込み新庄へ嫉妬する工藤、 佐渡の保守的な家と折り合わず実家へ帰ってしまった自分の妻と工藤の妻との間で心が揺らぐ新庄に対し、 三千代 はよく出来過ぎなほど気が回って心優しく、新庄に対して親切で工藤に対して貞淑で従順な女性として描かれます。 裕福ながら学者らしいリベラルさと優しさを持つ新庄に対し、ルサンチマンが強く女性観も保守的な工藤というのはバランスが悪いうえ、三千代がブレないので、 女性を挟んで2人の男性を配したメロドラマとして観ようとすると、その点がとても物足りません。
その一方で、モダンな資産家である新庄の妻の神戸の実家、裕福だけれど保守的な新庄の佐渡の実家、 妻の実家ほどではないが裕福でリベラルな新庄、苦学した東京のサラリーマン工藤、 というそれぞれの価値観やライフスタイルが鮮やかな対比で描かれていて、その点では興味深い映画でした。
この企画上映では 成瀬 巳喜男 (監督) 『女人哀愁』 (P.C.L., 入江ぷろ, 1937) [鑑賞メモ] も観たのですが、 『妻の場合』で三千代を通して描かれる女性のあり方を強いられる女性の葛藤を、『女人哀愁』は成瀬ならではのきめ細かな演出で描きます。そんな『女人哀愁』の良さに気付かされました。 『妻の場合』が作られた1940年は、ヨーロッパで第二次世界大戦が始まり、日中戦争は泥沼化し、太平洋戦争勃発前年という時期です。 『妻の場合』の中の直接的な戦時の描写は子供の歌くらいにしか見られませんでしたが、この映画の女性像はそんな時代の反映なのでしょうか。
鈴木 重吉 (監督) 『雁來紅(かりそめのくちべに)』 (入江ぷろ, 新興キネマ, 1934) [鑑賞メモ] も再見しましたが、 間があまり空いていないこともあり、見え方が変わった、新たな気付きがあったというほどではありませんでした。
併せて、この展示を観ました。
1970年代末のいわゆる「アニメブーム」以降も取り上げられていますが、 それ以前の1960年代までのアメリカと1970年代までの日本のアニメーション映画のポスターで 展示の約半分を占めているというのは、国立映画アーカイブでしょうか。 その一方で、『1930s-1980s ヨーロッパ、社会主義諸国のアート・アニメーション』が約1割しか無かったのは、 日本でポスター宣伝するほどの上映機会が少なかったということの反映でしょうが、少々残念でした。
一時期生成AIで作られたジブリ・アニメーション風の絵がSNSを賑わしていましたが、 このようなジブリの画風のルーツは東映動画にルーツがあるとよく言われます。 しかし、展示されていた1960sの東映動画のポスター見ると、確かにルーツと思われる要素はあれど全体としては多様さを感じました。 むしろ、『アルプスの少女ハイジ』および以降の世界名作劇場の日本アニメーションの方が画期かもしれません。