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Review: サファリ・P 『悪童日記』 @ ロームシアター京都 ノースホール (演劇)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2025/06/29
2025/06/07, 13:00-14:10.
原作: アゴタ・クリストフ 『悪童日記』 (Ágota Kristóf: Le Grand Cahier, 1986; 堀 茂樹 訳, ハヤカワ文庫, 1991/2001)
脚本・演出: 山口 茜; 出演: 芦谷 康介, 佐々木 ヤス子, 達矢 (以上 サファリ・P), 辻本 佳, 森 裕子 (Monochrome Circus).
初演: 2017年.

2015年から京都を拠点に活動するカンパニーの、2017年の第2回公演で初演して以来 リクリエーションを繰り返している作品の公演です。 ストレンジシード静岡2024で観たことがある程度の予備知識でしたが、劇場公演を観る良い機会かと、足を運びました。

原作は、枢軸国に加わりドイツ軍の影響下にあった第二次世界大戦中からソ連軍占領を経てハンガリー動乱までのハンガリーの20世紀半ばを、 夫殺しを疑われ町外れで独居する祖母の家に疎開で預けられた男子の双子の視点からミクロに描いた小説です。 その双子の日々を記したノートという形式の小説なのですが、少々アレンジされていたもの舞台作品中でも度々引用されていた 「作文の内容は真実でなければならない、というルールだ。ぼくらが記述するのは、あるがままの物事、ぼくらが見たこと、ぼくらが聞いたこと、ぼくらが実行したこと、でなければならない。」 という作文のルールに従った、登場人物の内面描写を排した文体で書かれています。

その舞台の演出は、この作文のルールを置き換えたかのようなものでした。 6台の踏み台と後方への字幕投影程度の舞台美術に衣裳もモノトーンのミニマリストティックなもの。 複数人で一人の役を演じるようなことは基本的になく役と演者の関係こそ固定的でしたが、 リアリスティックな感情の演技は排され、ダンスやマイムをベースに様式的な動きと 5人の演者によって6台の踏み台の配置を変えていくことで状況を抽象的に描きだしています。 そんな演出を通して、社会の不条理さや双子の少年の心情をうっすらと浮かび上がらせていました。

個性を見出しづらいミニマリスト的で抽象度の高い演出ということもあると思いますが、 Simon McBurney / Complicite [鑑賞メモ] や 小野寺 修二 / カンパニーデラシネラの原作のある作品 [鑑賞メモ] などの マイム/フィジカルシアター的な舞台作品を連想する所も少なからずありましたが、 様式的な動きをベースとしたミニマリスト的な演出と内面描写を排した原作との相性も良く、好みの舞台作品でした。 むしろ、ストレンジシード静岡でも、この舞台作品に近い演出でスタイリッシュに上演してもよかったのでは、と。