TFJ's Sidewalk Cafe > 談話室 (Conversation Room) > 抜粋アーカイヴ >

デイヴ・トンプソン 『2トーン・ストーリー』 について

デイヴ・トンプソン 『2トーン・ストーリー ― スペシャルズ〜炎に包まれたポスト・パンク・ジェネレーション』 (Dave Thompson, Wheels Out Of Gear: 2 Tone, The Specials And A World In Flame) に関する発言です。 リンク先のURLの維持更新は行っていませんので、 古い発言ではリンク先が失われている場合もありますが、ご了承ください。 コメントは談話室へお願いします。

[1229] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Sun Apr 17 23:01:26 2005

読書メモ。

デイヴ・トンプソン 『2トーン・ストーリー ― スペシャルズ〜炎に包まれたポスト・パンク・ジェネレーション』 (シンコーミュージック, ISBN4-401-61922-6, 2005; Dave Thompson, Wheels Out Of Gear: 2 Tone, The Specials And A World In Flame, 2004) は、1980年前後のイギリス (UK) の post punk を取り巻く状況を、 2 Tone レーベルを軸に描く好著です。 タイトルが 2 Tone の曲ではなく、TV Smith (ex-The Adverts) の曲 "Wheel Out Of Gear" (1981, unreleased) から採られていることから判るように、 2 Tone より広く様々なバンドを取り上げてており、 また、当時の UK の社会状況を詳しく記述しています。 2 Tone ファン向けの本ではなく、 2 Tone にあまり思い入れが無い人でも興味深く読めるドキュメンタリです。 お薦めです。

2 Tone は、バンド The Specials が1979年に設立したレーベルで、 またその界隈の音楽ムーブメントを指す言葉です。 ska と punk を掛け合わせた音楽性と白人黒人混成のバンド編成、 白黒市松糢様に "Walt Jabsco" のキャラクターを配したデザインで知られています。 直接的に関わったバンドとしては、中心の The Specials の他に The Selecter、The Bodysnachers、Madness、The (English) Beat などがいます。 この本では、The Specials はもちろん、Madness の扱いが大きいように思います。

この本は 2 Tone 周辺のシーンの記述も豊富です。2 Tone と微妙に距離のあった The (English) Beat や UB40 のようなバーミンガム (Birmingham) 一派や Linton Kwesi Johnson、Steel Pulse、Misty In Roots といった British reggae はもちろん、 The Adverts / TV Smith や The Ruts のような punk や、 4 Skins のような Oi! なども出てきます。 特に興味深かったのが、The Jam や Dexy's Midnight Runners といった Mod のバンドも 2 Tone と密接な関係があったこと。 2 Tone や Mod の界隈のシーンについては関係があまりよく判っていなかったこともあり、 この本を読んですっきり見取図が描けたように思います。

この本が良い点は、1980年前後の UK の 1979年の保守党 Thatcher 政権成立、極右台頭、高失業率といった 社会状況の記述にかなりを割いている点です。 Linton Kwesi Johnson や UB40 の歌、 それに Jon Savage や Greil Marcus のエッセーなどを通して、 人種差別に基づく一連の事件があったことや1981年夏に大規模な暴動があったこと、 RAR (Rock Against Racism) という組織があったことなどは知ってしました。 しかし、この本で初めてそれなりに具体的な経緯を読んだように思います。 それから、スキンヘッズや Oi! が極右というイメージが それほど単純な話ではない (むしろ誤解に近い) ということについても、 記述があります。 そして、その場で同時代的に聴いていた人の間では共有されていたはずの 歌と当時の社会状況の関係について、 この本で判ったことも多かったです。

原題と違い 2 Tone をメインに押し出した邦訳のタイトルは、 ファン本であるかのような誤解を生むもののように思います。 また、他の本を読み進めレコードを聴き進める妨げになるので、 固有名詞はカタカナ表記だけでなく元の綴も並記して欲しかったように思います。 しかし、それでも、原著から1年で翻訳が出たことは評価したいです。 1980年前後のイギリスの「社会派リアリズム」寄りの post punk のドキュメンタリとして、 『2トーン・ストーリー』はお薦めです。

[1230] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Mon Apr 18 23:09:24 2005

デイヴ・トンプソン 『2トーン・ストーリー ― スペシャルズ〜炎に包まれたポスト・パンク・ジェネレーション』 (シンコーミュージック, ISBN4-401-61922-6, 2005; Dave Thompson, Wheels Out Of Gear: 2 Tone, The Specials And A World In Flame, 2004) のような本を読んでいると、本に出てくる曲を聴きたくなるものなのですが、 実は、2 Tone のレコードを ほとんど持っていません。2 Tone 関連で家にあった (発掘できた) のはアンソロジー This Are Two Tone (2 Tone, TT5007, 1983/?, CD) と、 The (English) Beat のベスト盤 What Is The Beat? (I.R.S., CD70040, 1983/?, CD) くらいでした。 UB40 や British reggae 関連はそれなりに揃えてますが、 この本に出てくる mod や punk でCDを持っているのは The Ruts くらい。

The Specials、Fun Boy Three、Madness、The Jam、Dexy's Midnight Runners あたりは、中学高校時代に図書館やレンタルレコードで借りて カセットテープで聴いていたのですが、 5年くらい前にカセットデッキが故障した際に 当時のカセットテープのコレクションも一緒に廃棄してしまったのでした。 1990年代にはほとんど聴かなくなっていましたし、 今後聴きたくなったときにCDが入手困難ということは無いだろうということで。 しかし、これを機会に中古でいいから少しずつ集めておこうかしらん。

思えば、先日まで話題にしてきた Rough Trade Shops Box Set (Mute, RTBOX1, 2004, 10CD) には、この本で取り上げられているようなミュージシャンの音楽は、 ほとんど全く収録されていません。この住み分けも興味深いです。 punk は "arties" (アーティスト気取り) と "social realists" (社会派リアリスト) に分離したと、 Jon Savage は England's Dreaming (1991) で指摘するわけですが、 Rough Trade Shops Box Set に収録されているのは "arties" の後を継いだ post punk で、 Wheels Out Of Gear で取り上げられているのは "social realists" の後を継いだ post punk だと言えるのではないかと思います。

そして、Wheels Out Of Gear 関連盤がコレクションの中にほとんど無い 自分の趣味は、明らかに "arties" 寄りなのでしょう。

[1233] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Thu Apr 21 23:18:26 2005

二晩空きましたが、そんなわけで、 デイヴ・トンプソン 『2トーン・ストーリー ― スペシャルズ〜炎に包まれたポスト・パンク・ジェネレーション』 (シンコーミュージック, ISBN4-401-61922-6, 2005; Dave Thompson, Wheels Out Of Gear: 2 Tone, The Specials And A World In Flame, 2004) を読む際の B.G.M. としてヘビーローテーションしていたのは、 British reggae の1980年前後の録音、特に、 Linton Kwesi Johnson, Independent Intavenshan: The Island Anthology (1979-1984; Island, 314 524 575-2, 1998, 2CD) と Steel Pulse, Sound System: The Island Anthology (1978-1980; Island, 314 524 323-2, 1997, 2CD) だったのでした。 どちらのアンソロジーも、Island レーベルに残した全アルバム全曲+αを収録した 内容になっており、これから聴くならアルバムを揃えるよりもこちらがお薦めです。

Linton Kwesi Johnson や Steel Pulse だけでなく、 もちろん、UB40 もヘビーローテーションでした。 彼らが好きだったのは Labour Of Love (DEP International, DEP5, 1983, LP/CD) の頃までで、 最近は全くフォローしていませんが、初期の曲は大好きで今でもよく聴いています。 1978 年にバーミンガム (Birmingham) で結成された UB40は 2 Tone ではないもの、関係のあったバンドでした。 ただし、彼らは ska よりダウンテンポな roots reggae のリズムを選んでいました。 バンド名の UB40 は失業保険 (unemployment benefit) の記入用紙から採られていて、 彼らのデビューアルバム Signing Off (Graduate, GRADLP2, 1980, LP; Virgin, CDOVD439, ?, CD) のジャケット・デザインにはその用紙が使われています。 歌詞も人種差別や貧困、失業に関するものがほとんどでした。 "Burden Of Shame" のような冷たく重い reggae のリズムと物憂げな歌声という印象が強いアルバムですが、 デビュー曲の "Food For Thought" や、 "Tyler"、 それに "Little By Little" のような シャキシャキした攻撃的とすら感じるリズムの曲も好きです。 ちなみに、今から聴くなら、Signing Off ではなくて、 このアルバムを全曲含む Graduate 音源を集めた The UB40 File (Graduate / Virgin, VGDCD3511, 1995, CD) がお薦めです。 (追記) The UB40 File のアナログ盤では Signing Off 音源を全て収録していたのですが、 CDでは数曲削られていました。失礼しました。この部分については削除します。

攻撃的な感じというでは、続くアルバム Present Arms (DEP International, DEP1, 1981, LP/CD) の方が楽しめるかもしれません。 軍楽隊マーチングドラムのオープニングから、タイトル曲 "Present Arms" へ突入するあたり、ゾクゾクきます。それに名曲 "One In Ten"The UB40 FilePresent Arms、そして、初期のライブ盤 UB40 Live (DEP International, DEP4, 1982, LP/CD) が、これから初期の post punk な UB40 を聴こうという人にお薦めです。 Present Arms にはUB40 唯一の dub アルバムの Present Arms In Dub (DEP International, DEP2, 1981, LP/CD) もあります。これも次いでお薦めです。

僕が最も好きな UB40 の歌は、Present Arms からシングルカットされた "One In Ten"。 1981年のイギリスの失業率が10%に達した状況を 「僕は十人中一人のまさにその一人だ」 と歌ったこの歌は、その年の夏のイギリスの一連の都市貧困地区での暴動 (inner-city riots) と関連付けられ、 インディーチャート1位はもちろん全英7位にまでチャートを上る一方、 当時、暴動を煽る歌として一部で放送禁止/自粛にもなったとも伝えられました (例えばここ参照。 しかし、『2トーン・ストーリー』ではこの話の裏は取れませんでした)。 そういう曰くがありながら、というより、そういう曰くがある曲だからこそだと思いますが、 後にいろんなミュージシャンに取り上げられる曲にもなっています。 有名なところでは、reggae から techno へとリズムを置き換えた 808 State vs UB40, One In Ten (ZTT, ZANG39, 1992, 12&Prime/CDS; in Gorgeous, ZTT, 4509-91100-2, 1993, CD) があります。この techno ヴァージョンもお薦めです。 また、聴いたことは無いのですが、このミリタントな "One In Ten" のリディムは Jamaican reggae でもよく使われるようになっているようです (Buju Banton, "Why Must We Suffer" とか Lukie D, "One In Ten" とか)。

ちなみに、Present Arms の表題曲 "Present Arms" は、「仕事が無いなら / 収入が無いなら / 入隊しよう / 今日手続きだ」という歌詞です。 このような歌詞は、去年末に話した Gang Of Four, "I Love A Man In Uniform" や Robert Wyatt, "Shipbuilding" とも共通するものです。