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Rough Trade Shops Box Set について (2005/3-4)

Rough Trade Shops Box Set に関する一連の発言の抜粋です。 順番は古いものほど上になっています。 リンク先のURLの維持更新は行っていませんので、 古い発言ではリンク先が失われている場合もありますが、ご了承ください。 コメントは談話室へお願いします。

[1163] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Mon Mar 7 0:18:10 2005

去年末に Nouvelle Vague, Nouvelle Vague (Peacefrog, PFG051CD, 2004, CD) にハマって以来、 post punk 〜 indie rock/pop 物を聴く頻度がぐっと上がっています。 この手の音楽をこんなに聴くのは十余年ぶりではないかと思うほどです。

そんな勢いもあって買ってしまいました、 Various Artists, Rough Trade Shops Box Set (Mute, RTBOX1, 2004, 10CD) (フォトログ)。 post punk 期に登場した UK のレコード店 Rough Trade の選曲によるコンピレーション・シリーズ Rough Trade Shops のうち、テーマ別の5タイトル Electronic 01 (Mute, CDSTUMM203, 2002, 2CD)、 Rock And Roll 1 (Mute, CDSTUMM212, 2001, 2CD)、 Post Punk 01 (Mute, CDSTUMM224, 2003, 2CD)、 Country 1 (Mute, CDSTUMM226, 2003, 2CD)、 Indiepop 1 (Mute, CDSTUMM239, 2004, 2CD) を1つの箱に収めたものです。 去年末のプレゼント・シーズン向けに企画された限定版ですが、今でもまだ売られているようです。 箱はペラペラで無くてもいいように思いますが、 全部合わせて約 £ 40 (約 8,000円) という廉価になっています。

この Rough Trade Shops のコンピレーション・シリーズも ボックスセットが出たということは、テーマが一巡したということなのでしょうか。 それぞれの第2集も楽しみですが、 reggae や world music もテーマに取り上げて欲しいように思います。 1980年代前半の Rough Trade レーベルはこの手の音楽も取り上げていたわけですし、 今の店のカタログにも載っていますし、 普通の reggae や world music とは違ったセレクションになりそうですし。

自分の音楽趣味の原点として Rough Trade にはいろいろ思い入れがありますから、 このコンピレーション・シリーズも当然以前から存在は知っていていました。第1弾の 25 Years Of Rough Trade Shops (Mute, CDSTUMM191, 2001, 4CD) はリリース前に予約して買ったほどでした。 しかし、結局たいして聴かず仕舞だったので、その後のシリーズを買うのを躊躇していたのでした。 しかし、最近の post punk 〜 indie rock/pop マイブームもあって、 廉価だし post punk リハビリに良いかと、買ってしまいました。 と、大人買いしてストレス発散するのはいいとして、 ちゃんと聴く時間が無い……。

廉価のボックスセットは限定版なので、 中味へのコメントはするとしてもちゃんと聴いてからにして、 とりいそぎ情報提供。 このボックスセットは Rough Trade もしくは Mute のウェブ・サイトのショップで 買うことができます。 ちょっと検索してチェックした限り、amazon では売られていないようです。

ところで、 25 Years Of Rough Trade Shops 入手直後の発言が発掘できたので、以下に引用しておきます。 ちょうど、Postpunk ML 10周年記念パーティ的な呑み会のときの話ですね。

- 弦巻, 東京, Fri Jul 6 1:52:40 2001

昨晩は、Postpunk ML 方面の人と呑み。 メーリングリストを始めた最初期 (1991年頃) から参加している人ばかり、 10人余り集まったわけですが。この面子が顔を揃えたのって、ほんと久しぶり。

今年の1月に、やはり同様の呑みがあって、そのときは、 Various Artists, Pillows & Prayers (Cherry Red, CDMRED169, 2000, 2CD) をかけながらの "Invisible Jukebox" (アーティストやタイトルを伏せて、曲を聴きながらコメントする) 大会で盛り上がったわけですが、昨晩のネタは、 Various Artists, 25 Years Of Rough Trade Shops (Mute, CDSTUMM191, 2001, 4CD box)。実は、通販トラブルで入手のタイミングがズレてしまい、 届いてからも、ちゃんと聴いていなかったりしたのですが。 同時代に音を聴いてきた人たちと、「えっと、これ誰だっけ?」とか言いながら、 当時の思い出やミュージシャンや曲に対する思い入れを語り合うと、 さすがに楽しく聴かれますね。 音楽のスタイルに関係無く、年代順に収録されているのも良いです。CD2枚目の Scritti Politti → Robert Wyatt → Jim Foetus → The Smiths → Cocteau Twins → Einstuerzende Neubauten あたりの繋ぎが、自分を含めて、皆の琴線に触れていたように思います。

しかし、発掘していて気付いたのですが、Postpunk ML も来年で15周年ですか……。

[1167] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Thu Mar 10 0:32:12 2005

さて、Various Artists, Rough Trade Shops Box Set (Mute, RTBOX1, 2004, 10CD) ののフォローアップです。まず聴いたのは、 Rough Trade Shops: Indiepop 1 (Mute, CDSTUMM239, 2004, 2CD)。 いわゆる indiepop を集めたコンピレーションです。 indiepop の代表的レーベル Sarah をやっていた1人 Matt Haynes が長めのエッセーをブックレットに寄稿してます。

このコンピレーションのいう indiepop というのは、1980年前後の post punk 期の The Monochrome Set や Television Personalities のようなバンドをプロトタイプとして、 伝説的なコンピレーション Various Artists, NME C86 (Rough Trade, ROUGH100, 1986, LP) を契機に英米インディ界隈で盛り上がり、1990年代前半に実質的に展開を終えた (もちろん、それ以降もスタイルとしては生き残っていますが) 音楽を指していると考えて良いと思います。 主にインディ・レーベルから7″シングルでリリースされ、 音楽的なスタイルは、主にギターバンド編成で演奏される 7″ シングルに収録できる程度の長さのポップというものです。 日本で「ギターポップ」「ギタポ」と呼ばれたものにほぼ相当します。 これらの音楽については、特に1980年代半ばから1990年代半ばの展開について 以前にこの談話室に詳しく書いたものを、談話室アーカイブ: 音楽趣味履歴の Mon Aug 28 2:28:17 2000 の発言以降 に残してありますので、興味ある方はそちらをお読み下さい。

Indiepop 1 収録曲がこの文脈の音楽を完全に代表できるわけではないですが、 大まかな傾向を見るために、 収録された46曲のリリース年別の曲数を表1に示し、 それを棒グラフにしたものを図1に示します。 図1からも伺われるように、indiepop の旬は1986〜1988年にあって、 その後も1995年くらいまではマンネリ化しつつもそれなり展開があったように思います。 このコンピレーションのうち1985年以前のものはプロトタイプ的な音楽を、 1996年以降のものは同時代的な音楽のうち直接には文脈に乗るとは限らないものの indiepop のスタイルを継承している音楽を選んでいると考えてよいかと思います。

表1:Indiepop 1 リリース年別収録曲数
'79'80'81'82 '83'84'85'86'87'88 '89'90'91'92'93'94 '95'96'97'98'99'00 '01'02'03'04合計
収録曲数1030 1128852 111211 012001 20246
図1:Indiepop 1 リリース年別収録曲数

このタイトルの "indiepop" は、 "indie" と "pop" がこのシーンの支配的なイデオロギーだったことを表していて 良いと思います。 盛り上がりを見せた1986〜1994年にこの手の音楽を同時代的に体験したのですが、 その当時は、

レーベルをインディーズとして運営すること、そういうレーベルに在籍することは反商業主義や DIY (Do It Yourself) 主義の証であり、それが実験的、前衛的であることの条件であり、それは良いことであり重視されるべきである
(音楽趣味事始 Sat Sep 2 1:57:49 2000)

というイデオロギーが支配的だったときで、シングルズ・クラブのような売り方に、

これは、メジャー的なプロモーションの省略とも関係あったとは思いますが。 punk 以前の rock の持っていたミュージシャンの作家性を付加しない売り方が、音楽の形式的には rock のイデオムを踏襲しているにもかかわらず、 rock ではなく guitar pop と、rock band ではなく guitar band と呼ばれることが多い所以だと、僕は思っています。
(音楽趣味事始 Mon Aug 28 2:28:17 2000)

のような rock と差別化する pop の姿勢を感じていたものでした。

ちなみに、 Rough Trade Shops: Indiepop 1 に収録されている46曲のうち聴いたことがあったのは半分程度、 1996年以降のものなど知らないバンドもあったりしました。 このコンピレーションを聴いていていいなぁ、と思ったのは、 The PopgunsSomeone You Love (Midnight Music, DONG62, 1990, 12″) しか持ってないので、コンピレーションのCDくらい買ってもいいかな、と思ってしまいました。 その一方で、どうしてこのバンドが入ってないんだー、というのも。 The Darling Buds を収録するくらいなら The Primitives を入れろと……。 あと、Close Lobsters も 収録されてもおかしくないと思うのですが……。

大学に進学したのが1986年、大学院を出て就職したのが1992年の自分とって、 ここに収録されているような音楽はまさに大学時代の B.G.M. でした。 インターネットを使い始め (1988年)、Postpunk ML を始めた (1991年) 頃に 最もよく聴いていたのが、 この Indiepop 1 に収録されているような音楽でした。 もはや15年以上前こととはいえ、今の生活といろんな点で連続性が強く残っています。 そんなわけで、聴いていると、遠い昔を思い出すのとは違う、 なんともいえない気持になりますね……(多くは語らない)。

[1173] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Mon Mar 14 22:10:50 2005

Various Artists, Rough Trade Shops Box Setですが、 Indiepop 1 に続いて聴いたのは Rough Trade Shops: Post Punk 01 (Mute, CDSTUMM224, 2003, 2CD)。 ここでの post punk は、単に「punk 後」に出てきた音楽というのではなく、 1980年前後の funk や reggae のビートで punk rock を脱構築していくような 音楽を指しています。 しかし、このコンピレーションの特徴は、 The Rupture のような2000年前後に出てきた post punk リバイバルのバンドも 約2割 (8/44) 収録していることです。

Indiepop 1 に続いて Post Punk 01 についても おおまかな傾向を見るために、2つ合わせてのリリース年別収録曲数を表2に、 それを棒グラフにしたものを図2に示します。 図2からも伺われるように、オリジナル post punk な音楽は1978年に登場し、 1979年〜1980年が旬で、その後、1985年ころまで展開があったように思います。 Post Punk 01 には1982年、1983年にリリースされた曲が 収録されてないわけですが、 当時の自分の印象ではこの時に途切れたという印象はありません。 そして、1985/1986年が post punk と indie pop の端境期になるわけです。 1999〜2002年にリリースされたものがいわゆるリバイバルのものです。 post rock と入れ替わるように post punk revival が登場したように思うのですが、 このグラフからだけでは、なんとも言えません。

表2:Rough Trade Shops リリース年別収録曲数
'78'79'80'81'82 '83'84'85'86'87'88 '89'90'91'92'93'94 '95'96'97'98'99'00 '01'02'03'04合計
Post Punk 0169106 0032000 000000 000012 230-44
Indiepop 10103 0112885 211121 101200 120246
図2:Rough Trade Shops リリース年別収録曲数

Post Punk 01 収録曲のうち1980年前後のものは、 もちろん、ほぼ全部聴いたことがあります。 聴いていて新鮮味とかは期待できないわけですが、普通に楽しめました。 特に、インディではなくメジャー寄りな Magazine や XTC をちゃんと収録しているのが良いですね。 しかし、このあたりが入ってるなら、 Talking Heads や B-52's が入っていてもいいような気もします。 弱冠 US 物に冷淡な気がするのは Rough Trade Shops だからかしらん。 最近のものは Chicks On Speed を除いて聴いたことが無かったので、 参考になりました。 個別に買ってみようという程惹かれるものはありませんでしたが……。

ちなみに、WireColin Newman が ライナーノーツで昔の post punk と今の post punk リバイバルの相違を 論じているのですが、それが興味深いです。 特に、1990年代の状況認識。

"post punk" の現在の波のルーツは (引用者註:1970年代のものと) 全く異なっている。 1990年代中半に、1970年代のポストパンクの「ロック」派 (すなわち、ギターと髮とちょっとした曲のある4人組) の論理的帰結としてのインディのスタイルが、結局、 「実際の」メインストリームとなるという高みに達してしまった。 Oasis と Blur はチャートの上位を占め、タブロイド紙の娯楽面を飾った。 BBC Radio 1 の昼の番組でかかり、NMEの表紙になった。 言い換えれば、趣味の自由地帯では決してありえない「ギター・ロック」の絶対的な死 だった。 けど、僕らはそんなことは気にもかけず、 使える以上のドラムンベースのレコードを家に持って帰り、 LTJ Bukem のクラブ "Speed" に出入りした (そこは、偶然、ロンドンパンクの中心地 "Roxy" のあった場所から少ししか離れてなかった)。 無理無く推測できる限りで、 ロックという単語は「おやじ」という単語を前に付けて使うことができた。 (引用者訳)

ここの話は、以前に談話室に書いた話 (音楽趣味事始 Mon Aug 28 2:28:17 2000 の発言以降いくつか) と重なるだけに、肯くところ大です。そういう時代だったなぁ、と。 ただ、この1990年代半ばの "post rock" と、 それが死語になった (1998年) 頃に出てきた post punk リバイバルの関係が よくわからないんですよね。 1990年代半ばの話ってむしろ post rock の背景のようにも思いますし。 Colin Newman のライナーノーツは post rock については触れていないし。うーむ。

[1182] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Tue Mar 22 23:06:58 2005

Various Artists, Rough Trade Shops Box Setですが、 Indiepop 1Post Punk 01 に続いて Rough Trade Shops: Country 1 (Mute, CDSTUMM226, 2003, 2CD) を聴きました。 country といってもメインストリームの (例えば Billboard の Country Chart に載るような) ものではなく、 Rough Trade Shops が選ぶものらしく 1980年代以降の post punk な US indies (一部 UK indies) から出てきた country, roots rock, folk の色濃い音楽を集めたアンソロジーです。 いわゆる alt country (alternative country) よりは視野は広めです。 ライナーノーツを書いているのは、 Giant Sand の Howe Gelb です。

country ということであまり馴染みないかな、と聴く前に予想していたのですが、 半分までとはいかなくてもおよそ1/3は聴いたことありました。 Mekons (レビュー)、 Violent Femmes (レビュー) や Camper Van Beethoven (レビュー) のような大好きなバンドが収録されていましたし、全体としてかなり楽しめました。 実は、"indiepop" や "post punk" と違い、このコンピレーションを聴くまで、 こういうカテゴリをほとんど意識したことはありませんでした。 ここに収録されているもののほとんどは US indie rock の範疇でしたし、 indiepop との区別は意識していませんでした。

このアンソロジーを聴いていて思い出したのは、 Violent Femmes、The Dream Syndicate、Green On Red など収録バンドに重なりも大きい Various Artists, George Washington & The Cherry Tree (Rough Trade / 徳間 Japan, 25RTL-3006, 1985)。 以前に談話室に書きましたが (音楽趣味事始 Fri Aug 18 0:47:49 2000)、 自分が US indies に目を向けたきっかけでしたし、 Country 01 に収録されているような音楽を好きになるきっかけでも あったように思います。 この手の音楽を最も良く聴いていたのは1980年代後半だったように思います。

さて、恒例となりつつありますが、 Country 1 についても収録曲のリリース年別曲数から傾向を見てみましょう。 参考までに Post Punk 01Indiepop 1 も重ねて、 リリース年別収録曲数を表3に、それを棒グラフにしたものを図3に示します。 1982年以降のリリースについて、 特定の時期に焦点を当てずに収録していることがわかります。 これは、post punk や indiepop とは違い、Country 1 が、 ある時期にシーン的な盛り上がった音楽ではなく、 特に文脈を意識せずにその時々にリリースされたそれらしい音楽を 集めたものであることを示唆しているように思います。

表3:Rough Trade Shops リリース年別収録曲数
'78'79'80'81'82 '83'84'85'86'87'88 '89'90'91'92'93'94 '95'96'97'98'99'00 '01'02'03'04合計
Post Punk 0169106 0032000 000000 000012 230-44
Country 10000 1133112 132402 312211 113140
Indiepop 10103 0112885 211121 101200 120246
図3:Rough Trade Shops リリース年別収録曲数

しかし、初期の R.E.M. とか The Feelies とか Country 1 に収録されてもおかしくないと思うんのですが……。 あと、この手で大好きなのは、 Rainy Day (Rain Parade, The Dream Syndicate, Three O'Clock, Bangles のメンバーによるプロジェクト) と Cowboy Junkies。 Rainy Day, Rainy Day (Rough Trade, ROUGH70, 1984, LP/CD) と Cowboy Junkies, The Trinity Session (Cooking Vinyl, COOKCD011, 1988, CD) は、当時から今に至るまでコンスタントに愛聴してます。 The Trinity Session はメジャー RCA 盤はまだ廃盤になっていないと思いますが、 Dainy Day は廃盤になったきりのようです。うーむ。

[1215] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Wed Apr 6 1:15:53 2005

少し間が空きましたが、 Various Artists, Rough Trade Shops Box Set の話です。 今までにした Indiepop 1Post Punk 01Country 1 の話は アーカイヴにまとめておきました。

さて、Rough Trade Shops: Electronic 01 (Mute, CDSTUMM203, 2002, 2CD) を聴きました。 1960年代の電子音楽から、2000年前後の electronica まで幅広く収録しています。 あまり dance oriented なものは収録していないところが Rough Trade Shops らしいかもしれません。 ライナーノーツを書いているのは、 The Wire 誌の編集者/音楽評論家の Rob Young です。

さっそくですが、 Electronic 01 の収録曲のリリース年別曲数を見てみましょう。 参考までに今までに紹介した3タイトルも重ねて、 リリース年別収録曲数を表4に、それを棒グラフにしたものを図4に示します。

表4:Rough Trade Shops リリース年別収録曲数
-'76'77'78'79 '80'81'82'83'84 '85'86'87'88'89 '90'91'92'93'94 '95'96'97'98'99 '00'01'02'03'04合計
Electronic 015041 0102100 0000002 0222167 50--41
Post Punk 010069 10600320 0000000 0000012 230-44
Country 10000 0011331 1213240 2312211 113140
Indiepop 10001 0301128 8521112 1101200 120246
図4:Rough Trade Shops リリース年別収録曲数

1976年 (Rough Trade Shops 開店) 以前の5曲がルーツ的な電子音楽や Krautrock、 1978〜1984年の曲が post punk な音のうち techno / electronica のルーツ的なもの、 1993〜1998年の曲が techno、 最も多く収録している1999〜2001年が post techno な electronica といった所でしょうか。 興味深い点は、1985〜1992年にリリースされた曲が1曲も収録されていないことです。 "Second Summer of Love" が1987年だったことを考えると、この頃に techno / house / breakbeats 物のリリースは それなりにあったはずだと思います。 むしろ、この期間のリリース曲を収録していないということは、Rough Trade Shops から見て "Second Summer of Love" がちょっと距離感ある出来事であったことを伺わせます。 4つのコンピレーションの年別収録曲数を重ねて見ると、 この頃の Rough Trade Shops は indiepop と country の時代だったように思われます。

この変化は、2000年に 音楽趣味事始で話した 自分の音楽の趣味の変化と見事に一致しています。 1980年代前半に funk / electro と reggae / dub で rock を脱構築するような音楽を よく追いかけていたのも1986年まで、 1987年以降はその手の音楽から距離を置く一方、 indie pop (2000年に話した時は guitar pop という言葉を使ってましたが) にハマってました。 そして1992年から1994年にかけて indiepop に閉塞感を覚え始め、 「Tracey Thorn の歌声に誘われるように」techno や breakbeats を よく聴くようになったわけです。 しかし、ロンドンの Rough Trade Shops には全く行ったこともないのに 自分の音楽趣味の変遷んとこんな一致を見るとは、 自分の趣味が間接的に Rough Trade Shops (を取り巻くシーン) の 強い影響下にあったということを思い知らされました。

収録曲のうち聴いたことがあったのは1/3程度だったのですが、 最近、この手の音から遠ざかっているせいか、 正直ハマるという程ではありませんでした。 しかし、そんな中、一曲 Schneider TM vs KPT.Michi.gan, "The Light 3000" (on Binokular, City Slang, 2000) にハマりました。 The Smiths, "There Is A Light That Never Goes Out" (on The Queen Is Dead, Rough Trade, 1988) を minimal techno / deep house 以降な音の electronic pop アレンジで カバーしています。それが見事にハマっています。 Schneider TM も参加した Various Artists, Putting The Morr Back In Morrissey: A Morr Music Compilation (Morr Music, MM012CD, 2000, 2CD) という コンピレーションを思い出してしまいました。 タイトルに反して、The Smiths 時代を含む Morrissey の曲は一曲も収録されてませんが。 これをリリースしたドイツのレーベル Morr Music は、Lali Puna 等で知られるわけですが、 この界隈のシーンへの The Smiths / Morrissey の影響の大きさを伺わせます。 先日レビューした Ana Da Silva, The Lighthouse (Chicks On Speed, COSR13CD, 2004, CD) にしてもそうですが、2000年くらいから、この手の音が Rough Trade Shops 界隈で根強く支持されているのかもしれません。

実は、Putting The Morr Back In Morrissey: A Morr Music Compilation、 当時、タイトルに惹かれて買ったものの、 いまいち引っかかる所なくほとんど聴かないままでした。 久々に発掘して聴いてみましたがなかなか悪くないじゃないですか。 当時は Scala や Locust、Laika くらいの癖が欲しいと思ったんでしょうが、 今はこのくらいあっさりしたのもいいものですね (老)。 しかし、最近、この手の音がツボにハマりやすいような気がします。

[1217] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Thu Apr 7 23:33:01 2005

Various Artists, Rough Trade Shops Box Setですが、 Indiepop 1Post Punk 01Country 1Electronic 01 と紹介してきて、最後に残ったのは、Rough Trade Shops: Rock And Roll 1 (Mute, CDSTUMM212, 2001, 2CD)。 MC5 と The Stoogies に始まり今に至るラウドな rock'n'roll を収録した コンピレーションです。 ライナーノーツを書いているのは、 The Blues Explosion の Jon Spencer です。

Rock And Roll 1 の収録曲のリリース年別曲数を 参考までに他の4タイトルも重ねて、 リリース年別収録曲数を表5に、それを棒グラフにしたものを図5に示します。

表5:Rough Trade Shops リリース年別収録曲数
-'76'77'78'79 '80'81'82'83'84 '85'86'87'88'89 '90'91'92'93'94 '95'96'97'98'99 '00'01'02'03'04合計
Electronic 015041 0102100 0000002 0222167 50--41
Rock And Roll 12231 0120000 2223112 2231125 24--46
Post Punk 010069 10600320 0000000 0000012 230-44
Country 10000 0011331 1213240 2312211 113140
Indiepop 10001 0301128 8521112 1101200 120246
図5:Rough Trade Shops リリース年別収録曲数

2000〜2002年の作品が若干多めなものの、Rough Trade Shops 開店の1976年から コンピレーションのリリース年の2002年まで、 ほぼ満遍なく収録していることがわかります。 rock'n'roll は流行り廃りなく Rough Trade Shops の扱う音楽の核にあったことを 示唆しているように思います。

実際に音を聴いていると、The Fall や Pere Ubu は Post Punk 01 の方に収録されていてもいいように思いますし、 Country 1 で収録されていた X などは Rock And Roll 1 でもいいようにも思います。 今まで紹介した4タイトルに比べて、どこまで含めようとしているのか その範囲が不明瞭に感じます。 それは、Rough Trade Shops の扱う音楽が、rock'n'roll を核としてその周縁の electronic、post punk、country、indiepop のような表現を 取り込み推し広げてられていった結果のように思われます。 そして、それは Rough Trade Shops の扱う音楽に限らず、 rock'n'rock という表現がその境界的な表現をどんどん取り込み、 1990年代の post-rock に至る頃にはほとんど何でもありになってしまった という展開を反映しているようにも思います。

ちなみに、このコンピレーションに収録されている曲のうち、 以前から聴いたことがあった曲は3曲だけでした。 かといって、新鮮に聴かれたという感じでもありませんでした。 Rough Trade Shops Box Set の5タイトルの中でも、 正直に言って、この Rock And Roll 1 にはあまりのれませんでした。 「熱い」演奏がたっぷり収録されているわけですが、 どうもそれに自分のノリがついていけなかったように思います。 嫌いという程ではないのですが。 昔からそれほど rock 少年ではなくこの手の音に思い入れがなかったせいかもしれません。 単に自分が老いただけかもしれませんが……。

これで、Rough Trade Shops Box Set の5タイトルに対してコメントを 全て終えました。一連のコメントを書くにあたって、 リリース年別収録曲数の棒グラフを用いてみました。 Indiepop 1 へのコメントとして「伝説的なコンピレーション Various Artists, NME C86 (Rough Trade, ROUGH100, 1986, LP) を契機に英米インディ界隈で盛り上がり、1990年代前半に実質的に展開を終えた」 ってことを書いたときに、自分の思い込みかもしれない思って Indiepop 1 収録曲を数えて確認してみたら 予想以上にピッタリはまって面白かったというのが、 一連のコメントに棒グラフを使ってみようと思ったきっかけでした。 その後、5タイトル全てについて棒グラフを書いてみたわけですが、 どれも興味深い傾向を示してくれてとても面白かったです。 予想以上に Rough Trade Shops の傾向を物語ってくれ、 リリース年別収録曲数に基づく分析は有効だったように思います。 もちろん、どんなコンピレーションにも分析手法が有効だとは思いませんが。 しかし、この棒グラフについて全く反応が無かった ということは、あまりこういうやり方はウケが良くないということかしらん。

Rough Trade Shops Box Set は 音楽的傾向に従い5カテゴリに分けてコンピレーションが作られています。 今回の一連のコメントでわかるように、 カテゴリ分けされているからこそ見えること、判ることもあるので、 それはそれで良いと思うのですが。 こういうコンピレーションの box set こそランダムにシャッフルして 多様な音楽が併置混交する様を楽しんでみたいようにも思いました。 そういう方が Rough Trade Shops らしいようにも思いますし。 iShuffle に Rough Trade Shops Box Set CD10枚分 突っ込んでおけば、それだけでかなり楽しめそうです。

コメントを書くためということもあって、ここ一ヶ月ほど Rough Trade Shops Box Set がヘビーローテーションだったわけですが、 自分の音楽の好みの原点を確認しているような感もありました。 最近でこそ Rough Trade Shops Box Set 守備範囲外の jazz / improv. や world music の類を聴くことも多いわけですが、 やはりこういう音を通過した上での好みなんだなと。