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インディーズ協会の世界連合について

最近 (2000年代) の欧米のインディーズレーベル界隈のその動向、 特に、インディーズ協会とその世界連合に関する話です。 リンク先のURLの維持更新は行っていませんので、 リンク先が失われている場合もありますが、ご了承ください。 コメントは談話室へお願いします。

[1340] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Thu Jul 7 1:17:39 2005

今年 (2005年) 1月にフランスのカンヌ (Cannes, France) で開催された 音楽見本市 MIDEM (The World's Music Market) において、 ヨーロッパのインディーズ協会 IMPALA (Independent Music Companies Association) の理事会 (board) の主催で世界中のインディーズの国際会議が開催され、 "Independent music companies unite in worldwide coalition" (「インディーズはワールドワイドな連携をもって団結する」) という発表が行なれました。 この連合 (coalition) の目的は独立系の音楽に影響を与える共通の商業的、政治的、文化的な問題を扱うための 国際的な戦略を提供することです。 メンバーは国・地域ごとのインディーズ協会 (association)、 創設メンバーは IMPALA の他以下のようになっています。

1月の発表の時点では今年の5月には第2回の国際会議を開催する予定でしたが、 結局6月にバルセロナ (Barcelona) で行なわれている音楽祭 Sónar (Advanced Music and Multimedia Art International Festival of Barcelona) の中で開催されました (プレスリリース)。 プレスリリースに出てくる Worldwide Coalition of Independent Associations (「インディーズ協会世界連合」といった所か) が組織名なのでしょうか。 この会議での何が議論されどういう方針が出たのかは、 まだ発表されていないのか見付けられませんでした。

このようなインディーズの連携の動きはヨーロッパが先行していて、 アメリカは後追いの状況のようです。 AIM は 1998 年に、IMPALA は2000年4月に設立されたのに対して、 アメリカの AAIM (aka A2IM) が活動を開始したのは今年の6月に入ってからのようです。 今年の CMJ Muisc Marathon の パネルに "Indies Unite" というものがあるのですが、その記述によると6月8日となっています (1月の MIDEM の国際会議に参加したのは6月立ち上げ以前の準備組織でしょうか)。 一ヶ月ほど前に "Indie labels join forces" (CNET News.com, 2005/06/07) という記事が出て、アメリカのブログ界隈で話題になっていたようです。 この記事では、このようなインディーズの連合の動きの背景の一つとして オンライン音楽配信等の音楽ビジネスの変化を挙げ、 オンライン音楽配信において独立系音楽会社がメジャーより不利な扱いを受けないように インディーズが連携し始めているとしています。 また、iTune サービスをヨーロッパで始める際に イギリスの AIM がボイコットでメジャーと同等の条件を勝ち取ったことを、 先行するヨーロッパの成功例として挙げています。 ちなみに、この AIM の iTune ボイコットの経緯に関するニュース記事としては、 「ヨーロッパに進出した『iTunes』、悩みはインディーズ・レーベルの不参加」 (『Wired News』, 2004/6/28) と 「アップル、英国の大手インディーズレーベル3社と契約--欧州iTunesで楽曲提供へ」 (『CNET Japan』, 2004/7/22; 元記事) があります。iTunes 以外の同様の事例としては、 "European Independent Record Sector Rejects MTV Divide and Rule Approach" (IMPALA のプレスリリース, 2004/3/24; 「ヨーロッパのインディーズは MTV の「分割統治」のアプローチを拒否する」) があります。 このようなヨーロッパでの活動の成功を受けて、アメリカでも AAIM が動き始めたようです。

しかし、IMPALA のサイトのドキュメントによると、 オンライン音楽配信への対応は活動の一部でしかありません。 IMPALA は取り組んでいる問題として以下のものを挙げています。

プレスリリースを読んでいても、 メジャー合併に対して反トラストの立場から、また、広くEUの文化政策に対して、 積極的に意見を表明して ポジションペーパーを出している様子が伺われます。 さらに、反トラストと文化的多様性の観点から Creativity... yes, Concentration... no という請願署名キャンペーンを2004年に始めています。 請願の内容は以下のようなものです (引用者訳)。 全面的に賛成という程ではないですが、参考までに。 文化・芸術への支援はアリだと思っていますが、 それでも第2項は表現がいささか強すぎるように感じます。

我々は以下のことを信じます:
1. 文化的多様性は生物的多様性と同様に重要です。
  • 文化的多様性は個人と社会のアイデンティティの複数性の反映です。
  • 創造性は社会的及び経済的自由に不可欠です。 創造性は娯楽/文化産業における過度の集中によって脅かされます。
  • 個人及び社会は文化的商品及びサービスの多様性を創造し、普及させ、流通させ、アクセスする権利を有します。
  • ローカルな文化と経済はグローバル化する世界に参加する権利を有します。
2. 芸術及び文化的制作における作品は伝統的な商品及びサービスの中に吸収されることはありえません。
  • 芸術及び文化的制作における作品はローカル、地域的及び国際的なレベルでの商業及び市場競争の規定の実施において特に特例措置を受けています。
  • その特殊性は国内法及び国際法において銘記されなければなりません。
  • 国の助成や優遇税制を含むローカルな文化に対する援助を目的とした政策は市場競争と貿易に関する法律の一部として認められなければなりません。
  • メディア産業における市場集中がもたらす影響は純粋に経済的な視点からだけでなく文化への影響の関連からも検討されるべきです。
3. 文化交流は文明間の対話と寛容を促進します。
  • この事は平和と安全に不可欠です。

IMPALA の活動でもう一つ目をひいたのは、今年から IMPALA Sales Award という売り上げに基づくアワードを出し始めたということです (プレスリリース)。 ちなみに、発表及び授賞式は半月程前の 6/17、 バルセロナの音楽祭 Sónar で (つまり第2回の国際会議と同時に) 行なわれました (プレスリリース)。 出演ミュージシャンは、MIA, Laurent Garnier, 2 Many DJs, Soulwax, Mayte Martin & Tete Montoliu, Muchachito, Ojos de Brujo, 08001。 なかなか面白そうな顔ぶれじゃないですか。アワードの方の結果は IMPALA Sales Award Winners - June 2005 (PDF形式) で公開されています。 月間や年間の売り上げではなくて発売時からの売り上げ総数を元にしたもので、 Double Platium / Platinum / Gold / Silver とランク分けされているだけで 順位が付けられているわけではないですが、 1980年代のUKインディーチャートを思い出すというか、 全欧版インディーチャートの趣もあるように思います。 ひょっとして、1位相当は Carla Bruni, Quelqu'un M'a Dit (Naïve, 2002) ですか。 jazz で最上位に入ってる Esbjörn Svensson Trio, Viaticum (Act Music, 2005) って 今年のリリースではないですか。とか、いろいろ興味深いです。ふむふむ。

そして、IMPALA が呼びかけているインディーズの世界連合というのは、 このようなヨーロッパでの活動を世界に広げようということなのではないかと思います。

ところで、疎くて申し訳ないのですが、日本のインディーズの状況はどうなっているのでしょうか。 ウェブを検索してもノイズが多くてよくわかりません。 日本のインディーズはオンライン音楽配信にどのように対応しようとしているのでしょうか。 IMPALA の呼び掛けているインディーズ協会世界連合には日本の協会は名を連ねていないわけですが、 とりあえず IMPALA とは距離を置こうという感じなのでしょうか。 そもそも、インディーズをまとめる協会のようなものが日本には存在しないのかもしれません。 ま、日本なりの取り組みをしているのであれば、協会を作るような欧米のやり方を真似る必要は無いと思いますが……。うーむ。

1980年代から1990年代初頭にかけての英米インディーズの隆盛と挫折 (関連発言) を見ているだけに、 そんなにいいことばかりではないだろうと思ってしまいますが、 暫くはこの界隈の動きに注意していきたいものです。

余談ですが、"Independent music companies unite in worldwide coalition" という プレスリリース のタイトルや CMJ Music Marathon のパネルのタイトル "Indies Unite" での "unite" という動詞使いのおかけで、 "Indies of the world unite!" というフレーズが頭から離れません。 やっぱり Marx のアレを意識しているんでしょうか。 そんなことはなくて、そんなことを連想してしまうのは僕だけですか、そうですか。

[1378] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Wed Aug 17 23:06:50 2005

iTunes Music Store Japan (iTMS-J) はインディーズレーベルに優しくない、という話が出てきているようです。 僕は音楽業界事情に通じているわけではないのですが、例えば、 「iTMS Japanに関しての愚痴」 (渡辺 健吾, 『a site without a view』, 2005.08.05) や 「iTMS-Jのインディー・レーベルに対する対応」 (高橋 健太郎, 『Memory Lab owner's log』, August 17, 2005) といった、自らインディーズレーベルを運営する人のブログでその様子を垣間見ることができます。

iTMS-J はインディーズに優しくないという話についてはさもありなんといったところですが、 それでは、先行した iTMS の米国版とヨーロッパ版は最初からインディーズに優しかったのか、というと、 そんなわけでも無かったように思います。 「ヨーロッパに進出した『iTunes』、悩みはインディーズ・レーベルの不参加」 (『Wired News』, 2004/6/28) とニュース記事にもなったように、特にヨーロッパのインディーズは インディーズ協会を組織しており、 協会を通して団結してボイコットを行使し条件交渉を行なっています。 そして、その結果としてメジャーと対等な条件を勝ち取った、というのが実際のところではないでしょうか。 何か根拠があるわけではないですが、むしろ、こういう欧米での経緯もあって 日本ではかなりインディーズに優しい所から始まっている所もあるのではないかと感じます。

これについては、ちょうど1ヶ月余り前に 欧米のインディーズレーベルが協会やその世界連合を組織して オンライン音楽配信に対応しているという話を談話室にしたわけですが、 その発言も消えてしまったので、発掘して アーカイヴ載せておきました。

このような欧米での動きに関する話や iTMS-J のインディーズの扱いの話を読んでいると、 オンライン音楽配信のような新しい流通が生まれれば自然と従来のビジネス慣習が壊され、 黙っていてもメジャーもインディーズもフラットになる、なんていうことは無いのだろうと思います。 (ま、当たり前といえばそうですが……。) むしろ、ちゃんと組織化して交渉してビジネスの条件を勝ち取っていかないと、 インディーズに不利なビジネス慣習が今まで通りに、 下手すると今まで以上に不利になって続くだけではないか、とも思います。