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Ernesto Lechner, Rock en Español について

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[1744] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Fri Sep 8 1:01:28 2006

Ernesto Lechner, Rock en Español: The Latin Alternative Rock Explosion (Chicago Review Press, ISBN1-55652-603-2, 2006) の読書メモ。 1ヶ月以上前に読んだのですが、 やっぱり、何も書かないでいると頭に残らないので……。

この本は、アルゼンチン (Argentine) 出身で アメリカ・ロスアンジェルス (Los Angels, CA, USA) 在住の著者による、 ここ最近10年に主にラテンアメリカ諸国から出てきた "Rock en Español" (スペイン語による rock) のアーティストを紹介した本です。 全258ページという薄めの本で、 章を立ててフィーチャーされているアーティストは20 (章の数は19)。 その他に付録 "Appendix: Rock en Español" で 1990年代後半以降に限らない (1960年代からの) アーティストや 関連するムーヴメントについて簡単に紹介しています。 ちなみにフィーチャーされている20アーティストは以下のとおり (括弧内は活動拠点としている国)。

Fabulosos Cadillacs (Argentine), Café Tacuba (Mexico), Aterciopelados (Colombia), Caifanes/Jaguares (Mexico), Gustavo Cerati (Argentine), Maldita Vecindad (Mexico), Fito Páez (Argentine), Manu Chao (France/Spain), Julieta Venegas (Mexico), Babasónicos (Argentine), Molotov (Mexico), El Gran Silencio (Mexico), Orishas (Cuba/France), La Mala Rodríguez (Spain), Los Amigos Invisibles (Venezuela), Juana Molina (Argentine), Nortec Collective (Mexico), Bajofondo Tango Club (Argentine), Gotan Project (France/Argentine), Gustavo Santaolalla (Argentine).

この本の副題に "Latin alternative rock" とありますが、これは、 1998年に設けられたアメリカ (US) Grammy Award の Latin Rock/Alternative Album (Performance) 部門の名称で使われている "Latin Rock/Alternative" とほぼ同じように思われます。 "alternative" といっても、 メジャーからリリースしているようなアーティストの方が多いです。 インディのアーティストは Los Amigos Invisibles (Gozadera / Luaka Bop)、 Juana Molina (independiente / Domino)、 Nortec Collective (Palm Pictures 〜 Mil / Nacional)、 あと、Gotan Project (XL / Beggars) がそうでしょうか。 メジャーとインディの間で大きなギャップがあるわけではないですが。

章を立てて取りあげられているアーティストの数は、アルゼンチンが8、メキシコが7。 主にこの2ヶ国に焦点を当てていることがわかります。 もしくは、1990年代半ば以降この2ヶ国からアメリカ (US) にアピールする rock のアーティストが多く出てきている、と言えるのかもしれません。 ただし、あまり強く絞ってはおらず、 中南米でだけではなく欧州を拠点に活動しているアーティストを含めていますし、 スタイルも hip hop や electronica / club music のものも含めています。

この本では、Café Tacuba, Revés/Yosoy と Fabulosos Cadillacs, Fabulosos Calavera のリリースされた 1997年をこのシーンの重要な転回点としています。 この翌年に Grammy Award に Latin Rock/Alternative の部門が置かれたことを考えても、 "explosion" はこの時に始まったと考えるのはそれほど外してないように思われます。

この本を読んでいて知ったのは、このシーンのキーマンの一人が Gustavo Santaolalla であること。 僕は、2000年代に入ってから、Bajofondo Tango Club の中心メンバーとして Santaolalla の名前を意識するようになったのですが、 1960年代に Arco Iris というグループのリーダーとして活動し、 1980年代からプロデューサとしても活動してきた人だったのですね。 彼は、Fabulosos Cadillacs のようなアルゼンチンのグループだけてはなく Café Tacuba などメキシコのアーティストの制作も手掛けています。 Juana Molina のデビュー作 Rara (MCA, 1996) も Santaolalla の制作だったということも、 興味深く思いました。あまりうまくいかなかったと書かれていますが。

その一方で、同じプロデューサでも Andrés Levín の 扱いは、この本では小さくなっています。彼がアルバムを手掛けたことのある Orishas や Los Amigos Invisibles の章でも名前が挙げられてはいますが、 彼のバックグラウンド等が判るのは、Aterciopelados の章の中の "the most visionary Latin rock producer after Gustavo Santaolalla, a talented Venezuelan musician with an exquisite taste for lounge and electronica." という記述程度。Levín の率いるグループ Yerba Buena は、 付録でも言及がありません。 限られたものとはいえ僕の今までの Rock en Español への興味は、多分に Luaka Bop レーベルや Arto Lindsay / Andrés Levín 人脈に 依る所が大きかっただけに、これはちょっと意外でした。 しかし、Aterciopelados や Bloque はコロンビアのグループですし、 Los Amigos Invisibles もベネズエラのグループです。 Rock en Español の中では傍流なのかもしれないなぁ、と、 読んでいて思いました。

2000年代に入ってアルゼンチンではインデペンデントな音楽シーンが隆盛していて (関連発言)、 去年くらいからそのロゴをCDのジャケットによくみかけるようになりましたが、 Union de Musicos Independientes も設立されているようです (ブラジルにおける ABMI (Associação Brasileira de Música Independente) のような組織か。関連発言)。 この本で1章割いている Juana Molina も その文脈の中で注目されるようになったように思うのですが、 こういったインディに関する動向の記述は、この本には全くありません。 それに関する情報も期待していたので、記述が無いことは残念でした。 しかし、Molina や付録での Kevin Johansen (Los Años Luz レーベルのアーティスト) の記述に、 こういったインディのシーンとメジャー寄りの rock/alternative のシーンとの 具体的な接点が垣間見えたように思います。

中南米の rock/pop は疎いジャンルなので、 こんな感じでいろいろ興味深く Rock en Español を読むことができました。 しかし、この本を手懸りに積極的に聴き進もうかと思ったかというと、 そんなこともなかったりしましたが……。ふむ。