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Everything But The Girl の "Angel" について

[2325] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Thu Dec 25 0:49:42 2008

不景気のニュースが溢れるこの年末、 クリスマスの飾り付けがされた街を歩いているとつい口づさんでしまう歌の一つに、 Tracey Thorn と Ben Watt の2人を核とするイギリス (UK) のグループ Everything But The Girl が1985年末にリリースしたシングル曲 "Angle" (Angel, Blanco Y Negro, NEG15T, 1985, 12″; Love Not Money, Blanco Y Negro, BYN3, 1985, LP) があります。

イギリスでは1979年以降 Margaret Thatcher 政権による新自由主義的な政策の下、 失業者が急増し、1984年にはその数は300万人を越え、若年失業率は20%に達しました。 若者の五人に一人が失業するような状況の下、 Aztec Camera は "Walk Out To Winter" で 「君は生活保護を受ける列の中で怒ってる / だから冬に向かって歩きだそう、遅くはないよ、彼女は待ってる / 僕達の世代は、壁に向かって歩いているようなものだろう / けど僕は怒ったりしない、ギアを入れてここから抜け出すんだ」 と失業等で生活保護の列 (breadline) に並ばざるを得なくなった若者たちに頑張ろうと歌いかけ [関連発言]、 The Smiths は "Jeane" で貧困ゆえに破綻した同棲生活を [関連発言]、 "Still Ill" では失業の焦燥感を歌っていました [関連発言]。 一方、そんな1984年のクリスマスにヒットチャートを賑わしたのは、 当時のエチオピア飢饉を救援するチャリティ・ソング、 Band Aid の "Do They Know It's Christmas" でした [en.wikipedia.org]。

そして、その翌年末、Everything But The Girl は、 クリスマスに合わせるかのように "Angel" をシングルカットしました。 この歌で、このグループの女性歌手 Tracey Thorn はこう歌ったのでした (引用者対訳)。

Show me something worse / Than a child outside a church / Begging with a cardboard box / In a heartless town that hurts and mocks / And on a chair anywhere / I will sit down and cry / And close my eyes
Against the Christmas windows / Here in Christmas town / A young girl rest hear tattered head / And the festive lights shine down
And if she were a kitten / Someone would take her home / But we're no pity for our own kind / Our hearts are stone / Our eyes are blind
Show me something more / Than the wolf at the door / All the begging in the cold / To keep the wolf from the fold / Show me something more / Than an honest girl turned thief or whore / Under African sun or Dublin rain / Necessities remain the same
On the roof of the old wood shed / The moon rested its pale head / Cast a woman on a screen / Who saw some things she'd never seen / And on a chair in a hospital / She sat down and cried / And close her eyes
Show me something more / Than the wolf at the door / All the begging in the cold / To keep the wolf from the fold / Show me something more / Than an honest girl turned thief or whore / Under African sun or Dublin rain / Necessities remain the same
もっと酷いものがあるなら見せて / 傷つけあざ笑うような心ない街で / 教会の外で子供が / 段ボール箱で物乞いする姿よりも / どこかに椅子かあったら / 座って泣き出したい / そして目を閉じて…
クリスマスの飾り付けがされた窓の前 / ここ、クリスマスの街で / 幼い女の子がぼさぼさの頭を休めている / 祭りの明りがそれを照らし出す
もし彼女が子猫だったら / 誰かが家に連れて帰るかもしれない / けど私たちは同類には冷たい / 私たちの心は石 / 目は見えていない
それ以上のことがあるのなら教えて / 餓えをしのげるようにすることよりも / 寒空の下物乞いしているみんなが / 牧場の囲いから狼を遠ざけるられるように / もっと酷いものがあるなら見せて / 素直な女の子が泥棒や売春婦になることよりも / アフリカの太陽の下でもダブリンの雨の下でも / 必要とされていることは一緒でしょう?
古い木造の小屋の屋根の上 / 月が青白く光っている / スクリーンに女性が写し出される / 彼女は今まで見たことのなかったものを目にした / 彼女は病院の椅子に座り泣き出した / そして目を閉じて…
それ以上のことがあるのなら教えて / 餓えをしのげるようにすることよりも / 寒空の下物乞いしているみんなが / 牧場の囲いから狼を遠ざけるられるように / もっと酷いものがあるなら見せて / 素直な女の子が泥棒や売春婦になることよりも / アフリカの太陽の下でもダブリンの雨の下でも / 必要とされていることは一緒でしょう?

さらにこの歌の背景を知りたい方へ: 当時の Everything But The Girl がどういうことを歌っていたのかについては 「ポストパンク・ラブ・ソングについて」での "Eden" について書いた所を、 このような Everything But The Girl や The Smiths、Aztec Camera のこういった歌 が制作された背景については Rough Trade: Labels Unlimited について」 での Rough Trade の理念、政治的ポップ、女性派閥に関する所をどうぞ。