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Françoise Hardy について

[2411] 嶋田 丈裕 <tfj(at)kt.rim.or.jp>
- 若林, 東京, Wed May 6 19:54:34 2009

さらに話は遡って。 2日土曜は夕方遅く渋谷へ。 Uplink Factory での『音樂夜噺』 第35夜 へ行ってきました。 向風 三郎 による 『もう森へなんか行かない —— フランソワーズ・アルディとフレンチ・ポップの40年』 と題したトークショーで、聞き手は 松山 晋也。

向風 三郎 といえば、1990年代前半に『ミュージック・マガジン』誌に連載していた「欧州西風東風」 がとても印象深いです。 今でこそインターネットでそれなりに容易に情報が得られるようになっていますが、 当時はインターネット前夜、フランスの音楽事情や曲の背景などを知るのはかなり大変なことでしたから。 2000年前後に運営していた通販可能なフランス音楽情報サイトYTTで買物したりすることもありました。 最近は、ブログ『カストール爺の生活と意見』 を運営しています。 もちろん、そういった面も、今回のトークイベントへ行こうと思ったきっかけです。

Françoise Hardy は1960年代に登場したフランス (France) の女性歌手。英米でもヒットし、 いわゆる「フレンチ・ポップ」の類型 (特にアンニュイな女性歌手) を作った一人と言ってよいかと思います。 僕が彼女を初めて聴いたのは中学高校時代、 当時の新譜 Quelqu'un Qui S'en Va (1982) を図書館で借りてでした。 当時はフランス語のポップという物珍しさもあって、遡ってアルバムを何枚か借りて聴いていました。 しかし、ちゃんと追いかけようという気になることもないまま、今に至っています。

今回 Uplink Factory へ足を運んだのは、Françoise Hardy そのものへの興味というより、 1960年代から1970年代初頭に関する興味から。 彼女は1960年代からイギリス (UK) 録音をしており、 イギリスの rock のミュージシャンに直接のコネクションを持っていました。 さらに、Hardy は基本的にメジャーレーベルで活動していますが、 1967-1972年の間だけ自身の独立系レーベル Asparagus / Hypopotam で活動しています。 この時代というのは、イギリスでは Island、Deram、Vertigo、Hervest といった “underground” なレーベルの全盛期 [関連発言]。 フランスでも BYG のようなレーベルが出てきた時期です [関連発言]。 実際、1970年前後に Hardy のUK盤をリリースしていたのは Liberty/United Artists UK。 アメリカ (US) 側からのマネジメントが確立される以前、 1967年に23歳でA&Rに就任した Andrew Lauder (1970年代末に Nick Rowe、Elvis Costello や The Pop Group を擁したレーベル Rader を設立) が勝手にやらせてもらえていた頃で、 “underground” のレーベルとして活動していました。 この頃の経緯は、Mark Powell 編纂のアンソロジー All Good Clean Fun: A Journey Through the Underground of Liberty/United Artists Records 1967-1975 (EMI, 2004) のライナーノーツがお薦め。 そして、彼女がメジャーと再契約する1972年というのは、 イギリスの “underground” レーベルの活動が一段落しメジャー化しだした頃。 フランスでも、1971年に BYG/Actuel がリリースを停止しています。 アメリカで Jac Holzman が Elektra を去ったのも1973年です。

Françoise Hardy の1970年代前後の独立系レーベルでの活動は イギリスやフランスの “underground” の動きをどの程度意識したものだったのか、 そしてさらにその背景ともいえる Mai '68 を Françoise Hardy はどう見ていたのか、 という興味がありました。しかし、それに関する話はトークショーでは全くありませんでした。 メジャー再契約のきっかけも Véronique Sanson に衝撃を受けてということ。 単に話の流れ上触れなかっただけかもしれませんが、 話を聞いていて、創作の動機も社会的というより私的な人、という印象を受けました。 そういう動向には興味があまり無かったのかもしれません。

今回、1960年代から現在に至る Françoise Hardy の音楽を通して聴いて (といってもつまみ食いですが)、 やはり、彼女のクリエイティヴ・ピークは Asparagus / Hipopotam 時代だったんだな、 と確認できたことが、このトークショーの最大の収穫でした。