コミックマーケット66レポート

清瀬 六朗


8月14日 ― 2日め ―

 前回のコミケットのレポートの最初に私はこんなことを書きました。

 今回は本を落とさないだけで精いっぱいだった。どうしてこうなったかというとスケジュールの甘さが主原因だ。…(中略)…12月はそねっとの本の原稿執筆に集中する予定だった。ところが、12月に入って、「本業」の仕事が予想外に忙しくなってしまったのである。けっきょく、予告していた『パタパタ飛行船の冒険』の全話評もオリジナル小説も書くことができなかった。

 で、今回も最初に書くべきことはまったく同じなんですね。

 進歩せぬのう、まったく……。

 ただ、『パタパタ飛行船の冒険』については、「『パタパタ飛行船の冒険』とジュール・ヴェルヌの世界」のページを開設して書きためた文章があったので、なんとか本をまとめることができました。「継続は力」かどうかはわかりませんが、少なくとも困ったときに「継続していたこと」が役に立つことはよくわかりました。それでも以前に景気よく予告した内容からするとずいぶん内容減になってしまいましたが……。それでも78ページの本は作れたので、その内容は引きつづきコミックマーケット67以後に出す本でということで許してください。

 『パタパタ飛行船の冒険』についていえば、1話〜5話だけとはいえ、以前からオオカミ少年的に予告を繰り返していた各話評を掲載できて、著者としてはよかったと思っています。もちろん「全話分掲載」というのが私の「公約」でしたから、お世辞にも「マニフェスト達成率XXパーセント!」とか威張れる範囲ではないですけど。でも、今回の本の編集後記にも書いたとおり、やはり「全話評」というのに着手して、一話ずつ順番に見てみると、それだけ得るものはあると感じました。

 ただ、4〜5話はあまり好きな話数ではないということもあり(3話は3話で重いので別の意味で見るのが辛いですが)、しかも時間に追われて評を執筆したこともあって、あんまりきちんとしたコメントを書けませんでした。とくに、5話は揚げ足取りみたいなコメントになってしまい、4〜5話にしか登場しないバンチのことを書く場がなくなってしまいました。また、うちわ受け的「ジェーンのエンジェル隊バージョン」とか「バルザック氏とスカイの『イノセンス』」はともかく、ジェーンについてのコメントはもうちょっとまとまったものを書きたかったですね。

 あと、虚をつかれたのがフォントの問題でした。編集の段階では、「アトリエそなちね」の Sgt. Paul Zerberus さんの刺激も受けて、さまざまなフォントを使って割り付けていたのです。ところが、私が編集に使っているマシンはプリンターにつながっていません(つながってはいるのですが、プリンターが旧式で、遅いし、印字品質にも不安があったのです)。そこで他のマシンでプリントしたのですが、どうやらマシンに入っていた編集ソフト(「パーソナル編集長」Ver.6。「そなちね」をはじめ、私の周囲のサークルでは多く使われている便利なソフトです)は同じでもフォントが違ったらしく、印字に使用したマシンに入っていなかったフォントはぜんぶ「MS 明朝」になってしまいました。しかも、たまたま印字に使用したマシンにも入っていたフォントは維持されたので、一部だけ派手なフォントが使われていて他は地味という出来になってしまいました。

 こういったところは、ここのページに掲載する際や、もし改訂版を出す機会があれば、その際に補訂したいと思います。

 補訂という面では、部数が25部ということもあって、小回りが利くのがコピー本のいいところですよね。これまであんまり活かしていませんが……。

 今回は、従来とは違って、本の表紙をカラーにし、これまでの単純なホッチキス留めにかわって表紙だけはノリ綴じをしました。この効果はけっこうあったと思います。絵は拙いものでしたけれど、それでも青い海と空を描いた表紙に、一瞬、足を止めてくださる参加者の方がいらっしゃいましたから。

 涼しげな配色に見えて、そこに訴求力があっただけかも知れませんが……。

 いやもう、暑かったから。3日めは涼しく、「東京の真夏日連続記録」が途切れたそうですが、2日めは世間でも最高気温35度ということで、ひたすら暑かったんですよ。

 『パタパタ飛行船』の主人公ジェーンの服が青系なので、背後を青い空と青い海にして失敗したかなと思ったのですが(最初は夕景にしようと思ったのですが、描く自信がなかったのです)、けっきょくそれでよかったのかも知れません。

 ただ、失敗だったのは、表紙に使った紙の質でした。インクジェットのプリンターでよく色が出るようにと選んだ紙で、その点は満足でした。ところが、紙が水分を吸うとふにゃふにゃになってしまい、「糊を塗って製本」というのが非常にやりにくかったのです。だから表紙がずれている本や、よくくっついていない本がいくつもできてしまったと思います。くっつきの悪い本は出がけに糊を足しましたが、果たして十分だったかどうか……。

 まぁねぇ(とアニメ版タママのような声で)、コピー本でそうかんたんにオフセ品質を確保できるならば、印刷所は仕事なくなってしまいますよね。

 ただ、コピーする作業の段取りに問題があって、製本のプロセスがやたらと複雑になってしまいました。しかも、13日の夜明け前まで原稿を書いていたという慢性的寝不足の頭で作業をコントロールしているので、ミスが多発し、14日に日付が変わってから気づいてみると落丁乱丁の嵐――とまではいかないけれど、なんか「落丁乱丁前線」の爪痕がそこここに……。けっきょく25冊を全冊検査をするはめに陥りました。だから市場には問題のあるものは出回っていないはずですが、万一、落丁・乱丁がありましたら r_kiyose@kt.rim.or.jp までご連絡ください。

 そんなこんなで作業が遅れ、布団を敷いたときにはアテネではオープニングのいろんな出し物――自分の国の歴史からオリンピック向けの素材をいくらでも拾えるのはさすがギリシアだなぁ――が終わって入場行進が始まっており、眠りに落ちる寸前に聞いたのが「アフガニスタンでは、過去、女子選手の参加が認められませんでした……」みたいなセリフでした。

 で、目覚めてみると6時過ぎです。テレビではチュニジアの入場行進をしているところでした。6時過ぎに起きれば、間に合うけれど、ちょっと急がないといけない。しかし3時間も入場行進をしているのか……? 慌てて朝飯を食っていてふと時計を見ると、1時間早く起床したことに気づきました。目覚まし時計は6時に合わせてあったので、なんで5時に飛び起きてしまったのか、いまでも謎です。

 それよりも心配だったのが、家を出るまでに糊が乾いてくれるかということでした。木工用ボンドとしては「速乾」と書いてあるのをあてにして買った製品だったのですが、それにしても乾燥にあてられる時間が短い。でも、糊は、湿り気は残っていたけれど、ちゃんと乾いてくれてました。

 そんなわけで、前夜まで原稿書きであんまり寝ていない上に、睡眠時間は2時間を切っているという状態で、家から最寄り駅に行くあいだに気分は最悪になってきます。もうろうとした頭を過ぎったのは
「今回のコミケではぜいたくは言わない。今日のテーマは、本を売ることでも買うことでも、会場に時間どおりに到着することでもなく、生きて帰ることだ」
ということでした。

 会場に入場する際にも注意力が極端に散漫になっていて、東館に入場しなければならないのに、西館に入場する人びとの群れについて行って、大回りする結果になってしまいました。


 サークルスペースは名作系のまんなかです。しかも、左隣は『レミ』、右隣は『ロミオ』のサークルさんで、つまりカルピス〜ハウスの名作劇場系アニメのサークルでした。『パタパタ飛行船の冒険』は名作劇場の系統の作品と認識されているようです。

 実際ねぇ、子どものころに『パタパタ飛行船』の原作者ヴェルヌの作品に熱中していた私は、私は名作劇場で『十五少年漂流記』(『二年間の休暇』)とか『グラント船長の子供たち』(今回、ブッキングから再刊されました)とかをやってくれないかなとずっと期待しつづけていたものでしたが。

 ところで、ブッキングというと、ブッキングから『ロミオの青い空』のシナリオ集が正式出版されたとお隣の『ロミオ』サークルの方からうかがいました。以前、同人誌で出ていて、買おうか買うまいか迷ってけっきょく買わなかった本です。

 それにしても、名作劇場系のサークルが、私のところを入れても数が少ないのには少し驚きました。ただし、私がいる場所は「アニメ・その他」の名作劇場系のスペースで、「アニメ・少女」などで出しているサークルもある(そちらのほうが多いかも知れない)ので、いちがいに「少ない」とは言えないのですが。でも「名作劇場」放映終了からかなり経っていますからね……そうなるのかも知れませんね……。

 『ロミオの青い空』は、人身売買の話なので見ていて辛い話が多いし、シリーズの回数自体が少なかったのですけれど、キャラクターそれぞれが印象に残る話でした。とくにビアンカが好きなんですが――放映当時はビアンカのファンって少ないのかなと思っていたのですが、後でけっこうビアンカのファンという人の存在を知りました。ビアンカが主人公 または ビアンカが出てくる二次創作もそれなりに多いみたいですし。『レミ』は、途中からいろんな事情で見られない話数が多くなって残念なのですが、ていねいに作られた質のよい作品だったと思います。

 あと名作劇場は基本的に同じ会社(日本アニメーション)で作っていて、継続的にいくつかの作品に参加しているスタッフもいて(1970年代の話ですが、高畑勲も宮崎駿もそうだった)、技術的に継承されていたものもあったはずなんですが、そういう継承も途絶えてしまったかも知れません。とくに名作劇場が終わってからデジタル技術の発展でアニメーションの技術は大きく変わったはずですから。

 スタッフ・ファンともに名作劇場復活を目指す動きはあるみたいですけれど、やっぱり現在の情勢は実現しにくいところはあるみたいですね。名作劇場というのは、放映されている時代に子ども時代を過ごした人たちにはそれぞれ大きな影響を与えたとは思うのですが。そういうなかで『パタパタ飛行船の冒険』が26話つづけられたというのはそれなりに健闘したということなのかなと思います。


 売り上げはそれほど多くはなかったですが、前に出した本『L'etonnante aventure』『L'etonnante aventure 2』を買って読んでくださった方が何人か訪ねてきてくださったのはたいへん嬉しかったです。

 とくに、『パタパタ飛行船の冒険』について情報をくださったり、私の書いた内容について私の知らない事実を教えてくださったりされる方がおられて、ほんとうにありがたかったです。私は『パタパタ飛行船の冒険』はDVDが出るまで作品の存在すら知らなかったので、放映当時のことはぜんぜんわからないのですね。また、以前、「飛行船は第二次大戦では活躍する余地がなかった」というような意味のことを書いたのに対して、第二次大戦での飛行船の使用例について教えてくださった方にも感謝しています。いずれ私自身でも調べて何かの補訂を入れたいと思っています。


 本を買うほうは、今回はさっぱりで――何度も買いに出たのですが、ともかく飲料を買って日陰で座りこんでいるうちに時間が経ってしまうばかりでした。知り合いのサークルさんには何度もご挨拶に行ったのですが、ともかく本を手にとって見て買うという過程を実行するだけのエネルギーが残っていなくて……。


 来てくださる参加者の方の数もまばらになり、周囲の多くのサークルも撤収を始めた午後3時30分頃に撤収しました。

 当日は東京湾花火大会ということで、退出するコミックマーケット参加者と花火大会見物のお客さんとがかちあって駅が混み合うかと思っていたのですが、少しタイムラグがあるせいか、それほどでもありませんでしたね。しかし、花火大会に来たお客さんは、どうしてりんかい線の主要駅に「萌え」ポスターばかり多いのか、もしかすると異様な雰囲気を感じたかも知れませんね〜。


 なんとか家に帰り着くことには成功し、「生還する」という目標は果たしました。でも、家に着いたときには、誇張ではなくほんとに一歩も歩けないという状態でした。家のなかで身動きできない状態で、谷亮子が金メダル取ったところはリアルタイムで見ましたけどね。よかったです。そういえば、「たにりょうこ」ってどこかで聞いたことがある名まえだと思ったら、一文字加えて「りょう」の字を変えると「新谷良子」になるのね(^^;。

 というわけで、主宰者のコンディションが最低のなかで、当日、ご協力いただいたぺぴ様、鈴谷様には深く感謝いたします。


 なお、今年は、都合で3日めには参加できず、2日めのみの参加でした。

 冬コミケ(コミックマーケット67)にも申しこみました。今回は2日開催ということで、当選は難しいかも知れませんが、よろしくお願いします。

― おわり ―