『かみちゅ!』記念

尾道 神様の旅

清瀬 六朗


3. 渡船(1)

再び渡船のこと

 尾道大橋の東側の桑田渡船まで含めて、渡船のデザインはだいたい共通している。

 下の甲板に自動車・自転車・人が乗り、上の甲板の中央部にブリッジがあって、ここで船を動かしている。戦艦大和の艦橋(ブリッジ)は多層構造の塔型艦橋で、あまり「橋」という感じはしないけれど、渡船のブリッジはほんとうに船の上にかかった橋というシンプルな構造だ。なお、エンジンは自動車の乗る甲板の下にあるらしい。

 平面で見ると、やはり自動車用の部分がいちばん広い。横に幅の狭い区画があって、ベンチが設置してあり、そこが歩行者用の船室になっている。自転車置き場は、船室の前か後ろ、自動車甲板の脇にある。そこに自転車を置いて、人は船室に移動することになっているらしい。なお、自動車を載せられるキャパシティーは、渡船によって差があるようだ。

 両側から乗り降りできるようになっているから、船も自動車も途中で方向転換することはない。島側の乗降口から乗った自動車は、尾道市街側に着いたときには市街側の乗降口が開くので、そのままの方向で出ることができる。船から自動車がぜんぶ降りてしまうと、こんどは島側を前にして市街側から自動車が乗ってくる。

 桟橋は海に浮かんだ浮き桟橋になっている。そこに橋がかかっているという構造で、橋は車道と歩道に分かれている。自動車は停止線が決まっているようだが、人と自転車は桟橋の先端まで行って待つのが普通のようだ。

 ところで、この渡船は、海を渡ってきて着き、自動車・自転車・乗客の乗降がすんだら、すぐに出発する。だから、桑田渡船や、午後9時過ぎの駅前渡船のように、やや長い距離を一隻で運航しているばあいを除けば、あまり長い時間待たされずにすむ。私は、今回の尾道の旅で全部の渡船に乗ったけれど、ほとんど「待たされた」とは感じなかった。

 東京の電車とかではともかくいらいらして待つことが普通なんだけど……。

 運航区間が数百メートルということもあるけれど、これで運賃が60円とか100円とかだ。しかも1キロの範囲に4航路が絶えず運航しているのだから、すごくサービスがいいと思う。島と本州とのあいだを船が往来しているというより、道がつながっていて、その一部が船になっているという感じかも知れない。

 渡船のデザインはだいたい全部共通しているけれど、駅前渡船だけは、ブリッジの上にお寺の塔のような四角い屋根があり、塔の上に五重塔のいちばん上のような輪がついたデザインになっている。


福本渡船

 駅前渡船で川(だか運河だか)を少しさかのぼったところに着く。左が大和の撮影セットの入り口なのだけど、来年3月まで公開していることだし、今回は目的が違うのでパスして、川の対岸から福本渡船の乗り場に向かう。

 福本渡船は川の河口から出ているので、少し歩かなければいけない。

 駅前渡船を降りたところから川にかかった橋を渡ると、向かいに向島の中学校が見える。だから、実際には、公立中学校に行くのならば、向島に住んでいればわざわざ尾道市街側の中学校に通う必要はないわけだ(もともと別の自治体だったし)。

 川沿いの道は車通りが少ない。というより、ない。そのくせ道幅は広い。なんでこんなに道が広いのだろう、造船所関係で機械とかを運んだりするからかなと思いつつ、広い道のまんなかをぷらぷら歩いていたら、急に海のほうから車がやって来た。それも、次々に、ひっきりなしにやってくる。

 考えてみれば当然なのであって、渡船が着いたときには渡船からいっせいに自動車が下りてくるので、交通量が一気に増えるのだ。

 で、渡船が出てしまうと、向こうから来る車の流れは絶える。

日本関西化計画さんが登った崖(19KB)
 日本関西化計画さんが登った崖 でも苦労されただけのことがあっていい写真が撮れています。

 渡船から下りてくる自動車は岸辺を走ってくる。渡船に乗る自動車は途中から左に曲がり、住宅やホテルと崖のあいだを通って、船着き場まで行く。この崖が、日本関西化計画さんが登った崖である(→かみちゅ!尾道探訪 第三章「努力と根性に勝るもの」)。私は登らなかったけれど……でも、あの絵を使っているということは、升成監督もここに登ったのだろうか?

 ともかく、福本渡船の向島側の発着場である。第3話でタマが溺れたのはたぶんここだ。私もいちおう「猫」らしいので、ここに落ちて溺れかけないといけないのか……でも、そんなことをしたら地元の人に迷惑をかけるので、やめた、というか、最初から考えなかった。

 でも、翌日、尾道市街側で、ゆりえの家が向島のどのへんにあるのかを考えながら岸壁を歩いていて、危うく海に転落するところだったのはたしかだけど……。

 あと、同じく第3話で、貧乏神襲来で渡船が廃止になり、ゆりえと光恵が愕然としている場面があった。これはもちろん貧乏神を阻止できなかったので愕然としたわけだけど、もうひとつ――。

福本渡船の向島側発着場(37KB)
 福本渡船の向島側発着場 看板は尾道市街側が赤、向島側が青である。『かみちゅ!』のオープニングにも出てくる。上の看板に「ANIPLEX」とか書いてあったりして。

 このとき、ゆりえと光恵は尾道大橋を自転車で渡って学校に行ったようだ(このコースは、このエピソード放映前に日本関西化計画さんが自転車で走っている)。ところが、ここから自転車で尾道大橋を渡るとすごい大回りになる。行けない距離ではないが、尾道大橋まで直線距離で2キロ、尾道大橋から中学校のモデルである土堂小学校までやはり直線距離で2キロ、しかもまっすぐに道がついているわけではないから、実際にはもっと距離があり、しかも高低差も相当にある。

 いっぽうで、あくまで中学校が土堂小学校の場所にあるとすると、だが、中学校はこの福本渡船(日の出渡船)の向島側の桟橋から真正面に見えている。

 だから、もし第3話のようなことになれば、向島の人たちはものすごく不便になるだろうと思う。


引きつづき福本渡船

向島から見た対岸(18KB)
 向島から見た対岸 正面の右下あたりに見える白い四角い建物が土堂小学校。ゆりえたちが通っている中学校のモデルだ。

 渡船が来るまで桟橋で待っていた。海がきれいで、深いところまで青色に澄んで見える。このあいだ歩いた東京の隅田川の河口近くなんか「青く澄んでいる」というのとは違うものね……。

 船着き場の西側は造船所らしいが、途中には少し自然の海岸が残っていて、造船所は直接に見ることはできない。

 ところで、『かみちゅ!』の画面ではあまり印象がないのだけれど、尾道は造船所のクレーンがいたるところで見える町だ。高い場所から見下ろすとあまり目立たないのだけれど、海岸を歩いていたり、山陽本線の電車に乗っていたりすると、クレーンは大きいだけあってよく目立つ。すぐに慣れてしまうけれど、電車で東尾道から尾道にさしかかったときには、そのクレーン群の偉容というか異形さに圧倒された。

福本渡船尾道側(39KB)
尾道側桟橋の看板(16KB)

 渡船が来たので乗りこむ。

 先に書いたように、福本渡船と駅前渡船は航路が交差している。尾道市街側から来た駅前渡船をやり過ごして、その航跡を横切って渡船は尾道市街側へ進む。小さい渡船であっても、起こす波はそれほど小さいわけではなく、航跡を横切るときには少し揺れる。

 さて、福本渡船の尾道側の乗り場だけど……。

 ほとんどそのままですね。

 もちろん「神様御用達」とか書いた横断幕はない。あれをつけると車高の高い車が通れなくなるので、実際は無理かなと思う。

 まあ、そのかわり、「大和ロケセット公開中」ののぼりのかわりに「神様御用達」ののぼりを並べるという方法もあるが……祀ちゃんならやりかねないなぁ……。

 だれかCG合成でやってみません?

 航路表示は、「日の出‐向島」ではなく「尾道‐向島」だけど、ほぼアニメと同じで、アニメで「島へGoGo!」と書いてある看板には、実際には「自然あふれる癒しの島 向島へようこそ」と書いてある。

― つづく ―