『かみちゅ!』記念

尾道 神様の旅

清瀬 六朗


5. 住吉神社〜渡船(2)

潤い、欲しいなぁ

 いや、もう、暑いなかを坂を上がったり下りたりしたものだから、干上がってしまって……。

 尾道の中心商店街には、一部分を除いてアーケードがついている――『かみちゅ!』の舞台になった時代にもアーケードがあったかどうかは知らないけれど。

 ともかく、この日のように晴れて太陽がいっぱいに照っているときにはほんとうにほっとする。とりあえず自販機でペットボトルのお茶を買って、ベンチに座ってとりあえず潤いを確保した(こういうのを「潤い」というのか?)。

 ベンチに座って見ていると、暑いのと、昼下がりだということもあってか、人出は商店街としてはわりと少ない。そこにアーケード越しの日の光が柔らかく照るので、なんかのどかで心が落ちつく風景だ。その商店街を、中学校の制服を着て(日本関西化計画さんの「ギャラリー1「女学生・少女・幼女」」のページのいちばん上の写真の女子生徒たちと同じ制服)、3人ぐらいで自転車で走り抜けていく少女たちがいた。ヘルメットはかぶっていない。ちなみにゆりえたちの中学校と同じ配色の制服は見かけなかった。

 この商店街のアーケードが途切れるところに尾道郵便局があって、手紙を出すために寄ったら、ロビーで郵政民営化法案の参議院審議の中継を流していた。中継を熱心に見ているのはお客さんのほうで、郵便局の人たちがたんたんと仕事をしていたのが印象に残っている。

 郵便局の先はまたアーケードになって、そこに「尾道絵のまち館」というところがあるらしいが、今回はそちらには行かないで、海のほうへ出た。

 海岸沿いの通りに「つたふじ」というラーメン屋さんがある。わりと有名なところらしいので行ってみると、行列ができていた。尾道ラーメンを食べに来たのだったら並んででも食べるが、今回は違う。と言って、別の店に行ってもいいのだが、いったんようすをうかがってしまうとこの店で食べたくなって来る。とくに行列ができているのを見ちゃうとねぇ……。

 で、もうしばらく街を回ってから、もういちど戻ってきてようすを見ることにした。


住吉神社

住吉神社(38KB)
住吉神社(41KB)

 つたふじのところから海岸に出ると、住吉神社がある。住吉神社は海の神様らしく、岸壁ぎりぎりのところに建っている。

 日本関西化計画さんが訪れたお祭りはこの神社のお祭りだった。日本関西化計画さんのページでこの日の写真を見ると海岸のあたりが花火を見る人たちでごった返しているが、この日は閑散としていて、私以外に訪れる人はいなかった。

 門は閉じていて、玉垣から中には入れないように見える。しかし、閉じてあるのは犬の侵入防止のためのバリアだそうで、自由に門をくぐって参拝できる。ただし、社殿の門はかんぬきがかかっていて、社殿に上がることはできない。

 つつしまやかな小さい神社だ。海側に咲いている百日紅(さるすべり)の浅い紅色の花が、しずかに彩りを添えている。

 この神社の近くに、本編にときどき登場する岸壁のモデルになったベンチがある(日本関西化計画さんもここを訪れている。日本関西化計画さんの訪問記。海に少しだけ突き出していて、そこにベンチが置いてある。大型船の岸壁や防波堤ではなさそうだが、このあたりに並べて停めてある小さい漁船やプレジャーボートなどのための岸壁か、仕切りのための防波堤なのだろう。この突堤の先に腰を下ろしてアイスキャンディーを食うと『かみちゅ!』気分に浸れるかどうかは……とくに保証しませんが、やるんだったら夏のうちですぜ。

 ところで、この場所は、土堂小学校‐福本渡船のコースからはかなり外れたところにある。八島様を捜していたときはともかく、第6話の幕切れのところは……あれは少なくともゆりえと光恵にとっては完全に寄り道だよなぁ。ただ、来福神社が艮神社または御袖天満宮のどちらかの場所にあるとすれば、こちら側なので、祀にとっては大きな寄り道ではないのかも知れない……でも、海岸に出る必要はないので、寄り道には違いない。


しまなみフェリー

しまなみフェリー(1)(15KB) しまなみフェリー(2)(19KB)
 しまなみフェリーの尾道側桟橋。  クレーンの操縦席型(?)レトロ「赤電話」ボックス。
しまなみフェリー(3)(15KB) しまなみフェリー(4)(19KB)
 しまなみフェリーの向島側桟橋。  向島側の町並み。海に沿って倉庫・工場が並んでいる。

 で、しばらく街を回るってどこへ行くんだ?

 正直に(うしとら)神社のほうに戻ればいいのだけど、「潤い」を補給したばかりでまた坂を登るのはちょっと億劫だ。だったら、もういちど向島に渡ってやろうと思った。駅からは東に離れ、駅と尾道大橋の中間に当たるこの附近にも、2本の渡船が運航している。「駅と尾道大橋の中間」と表現したけれど、このあたりに尾道の商工会議所があり、市役所もあり、郵便局の本局もあるのだから、ここが尾道の中心地なのかも知れない。ほかにも、公会堂やおのみち歴史博物館や映画資料館がある。このあたりは今回は訪れなかったが、こんど行ったときにはぜひ訪れて知識を仕入れたいと思う(って、また行く気……?)

 この渡船に乗ると、さっきの駅前渡船・尾道渡船で渡ったところから東に小高い丘を一つ越えた江郷川のあたりに着く。行政区画でいうと、この江郷川が街の境になっていて、しまなみフェリーが着くのが向東町、尾道渡船が着くのが向島町である。現在ではどちらも尾道市の一部だ。

 渡船に乗って、もういちど向島に渡ってみることにした。

 この住吉神社の場所から尾道水道を見ると、左(西側)にしまなみフェリー、右に尾道渡船が航行しているのが見える。例によって、船の運航ぐあいを見て、先に乗れそうなほうに行くことにした。桟橋まで行く時間を考えて、渡船がまだ向島側にいるしまなみフェリーに乗ることにした。少し急ぎ足でしまなみフェリーの桟橋へ向かう。

 しまなみフェリーの桟橋には、クレーンの操作席のような(そのもの?)電話ボックスがあり、いまでは見かけなくなった「大型赤電話 電話・電報 ダイヤル市外通話兼用」の看板が出ている。「ダイヤル市外通話」ってあんた(「あんた」は二人称男性主格。アラビア語では……だそうです)……いまでも交換台呼び出して市外通話ってできるんだろうか? というより、いまどき「赤電話」とはなかなかいわないだろう。公衆電話そのものの数が減っていて、しかも赤い電話はめったに見かけなくなっているのに。

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 しまなみフェリー桟橋から尾道側を望む 中央の山が千光寺公園で、右下の天寧寺三重塔の右あたりに艮神社(来福神社のモデルとされる)がある。

 しまなみフェリーだけ名まえに「フェリー」とついているので、尾道に来る前はこの渡船だけが自動車が乗れるのかと思っていたが、そういうわけでもない。渡船のキャパシティーには大小があるようだが、どの渡船も自動車は乗れる。

 で、そのフェリーに乗って振りかえると、その「尾道の中心地」が見える。正面に大きく見えるのは尾道ロイヤルホテルで、その左に、桟橋越しに商工会議所が見える。そういう海沿いの平地の建物の向こうの山には、お寺の三重の塔やお堂が点々と散らばっていて、コントラストをなしている。第5話で幽霊化したゆりえちゃんが「なんか懐かしい」と言っていた風景だ。この当時はまだ海岸のほうがこんなビルだらけになっていなかったのだろう。

 なお、船上から土堂小学校も見えなくはないが、よほど注意していないと判別するのは難しいと思う。

― つづく ―