夢の城

― 登場人物 ―


海の向こうから来た男

主要登場人物

藤野(ふじの)美那(みな)
 玉井の市場町に住む少女。十六歳(数え年、他の登場人物も同じ)。事情があって、市場の老舗の葛餅屋「藤野屋」に預けられ、育てられている。剣術を浅梨治繁に指南してもらっている。馬から落ちたところを浅梨治繁の新しい弟子の池原弦三郎に救われたが、それを他の弟子たちに笑われそうになったので動転して弦三郎を殴りつけた[あばれ馬]。そのすこし前には中原村の地侍といさかいを起こすなど[春の朝]、ここのところ何かと問題(暴力事件というべきか?)を引き起こしがちである。
駒鳥屋のあざみ
 美那の隣の商家 駒鳥屋 の一人娘。美那と同い年らしく、仲がよい。
藤野屋の(かおる)
 市場の葛餅屋「藤野屋」を一人で経営している女。美那の養い親。身体が弱く、物腰も柔らかだが、気は強く、美那はこの育ての母に「意見」されることを何よりも怖がっている。
桧山桃丸(ひやまももまる)(桧山の若殿)
 港の近くに屋敷を持ち、事実上、港の監督を担当している名主。美那より三つ上というから十九歳なのだろう。桃丸というのは幼名で、元服しているから正式の名を持っているはずだが、よほど改まった場でないかぎり幼名で通している。
植山平五郎
 唐国(明)の天津に本拠を置く商人の持ち船「千歳丸」の船頭(船長)。物知りだが、どうにも軽薄な印象もある。桃丸とは仲がいいらしい。

話題としてのみ登場する人物

駒鳥屋のおよし
 あざみの母。市場の長者の縁者で、自分の代になって新しく店を始めた。面倒見がよく、薫や美那のこともいつも気にかけている。なお、夫(あざみの父)は、ほぼ一年中、麻布の買い付けに出ていて家にいないことが多い。
あざみの伯父(坂戸の長者)
 およしの兄に当たる。市場を運営する長者衆の一人。薫のいうところによると、美那が中原村の地侍と悶着を起こした件の解決に関わってくれたらしい。
中原村の地侍
 玉井の町のすぐ北に隣接する中原村に住む零細地主 兼 武士。守護代 定範 の権威を笠に着て、水を汲みに来た美那に因縁をつけたが、手下の小者たちといっしょに榎谷の志穂に打ちのめされた。[春の朝]
池原弦三郎(げんざぶろう)
 若い武士。年齢は美那と同じくらい。若くはあるけれど、玉井三郡の一つ竹井郡の池原郷の名主で、村が出水で大きな被害を受けたため、年貢その他の減免などの陳情のために玉井の町に出てきた。治繁の弟子としては数少ない越後守定範の臣下である。弟子入りしたとたんに美那に殴りつけられる(しかも助けてやったにもかかわらず...)という災難に遭遇する。[あばれ馬]
浅梨治繁(あさりはるしげ)左兵衛尉(さひょうえのじょう)
 春野家の老臣だが、いまは屋敷町のいちばんはずれの屋敷に隠居している。美那や池原弦三郎の剣術の師で、桧山桃丸とも親しいらしい。
池原宗高(むねたか)三郎兵衛(さぶろうびょうえ)
 弦三郎の亡くなった父。竹井郡の池原郷の名主。浅梨治繁の弟子だったことがある。
弦三郎の従弟(当四郎(とうしろう)
 市場に住んでいて、その家に弦三郎が寝泊まりしている。
春野定範(さだのり)越後守(えちごのかみ)
 玉井三郡の守護代で、池原弦三郎には主君にあたる。桧山桃丸にとっても、実質的にはともかく、形式上は主君である。市場の衆にはともかく人望がない。
港代官 田中山
 定範に港代官に任じられ、港の船の出入りや荷下ろし・荷積みなどを管理・監督するのが役割の中年男。しかし、港の差配はすべて桧山家(桃丸の家)が取り仕切っており、実際にはそれを追認することしかできていない。
小森健嘉(たけよし)式部大夫(しきぶだゆう)
 評定衆筆頭。単身、自分の村から玉井の町に出てきた池原弦三郎の面倒を見ている。
霍順卿(かくじゅんけい)
 唐国(明)の天津の大商人。平五郎の雇い主。玉井三郡のあたりの出身らしいという。
卯月丸(うづきまる)
 玉井三郡の沖に出没する海賊集団の首領らしい。三郡の人びとでこの人に直接に会った人はほとんどいないが、植山平五郎は何度も会っているという。
京都の公方(くぼう)さま
 室町将軍のこと。