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Review: Terje Isungset & Yukihiro Isso (live) @ Pit Inn, Shinjuku, Tokyo
2007/02/20
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Pit Inn, 新宿
2007/02/20, 20:00-22:30
Terje Isungset (drums, percussion, jew's harp, ram's horn, etc), 一噌 幸弘 (Yukihiro Isso) (能管 (nokan), 篠笛, 田楽笛, 角笛, blockflöte, etc).

Terje Isungset はノルウェー (Norway) の打楽器奏者で、 Isglem のような jazz/improv に近い文脈からグループ Groupa のような folk rock に近い文脈まで 幅広く活動している。また、氷を使った楽器の演奏で知られ、 Ice Festival や レーベル All Ice も主宰している (レビュー 1, 2)。 そんな Isungset が支笏湖氷濤まつり2007 のアイスコンサートでの来日に合わせて、東京でもライヴをした。 そのうち、jazz/improv 文脈でも活動する能楽師・一噌流笛方の 一噌 幸弘 (レビュー)との共演ライヴを観てきた。

管楽器との共演ということで、Karl Seglem (saxophone, ram's horn) との duo の Isglem, Fire (NOR-CD, NORCD0343, 2003, CD) のような、微妙な音のニュアンスを聴くような展開を予想していた。 もしくは、jew's harp も使い、 Arve Henriksen、Per Jørgensen、Nils Petter Molvær の trumpet をフィーチャーした Reise (NOR-CD, NORCD9724, 1997, CD) とか。 しかし、一噌の資質もあってか、かなり違う展開になったように感じた。

まずは Isungset のソロから。 電気増幅した jew's harp をメインに使った展開と、一区切りの後、 percussion をかきならすような展開から drums ソロとなる展開まで。 肘膝から先しか動かさずリラックスするようかのように 強く手数の多い drums ソロを聴かせたのが印象的だった。

続いて、一噌のソロ。 こちらは、区切りを入れながら、 角笛、blockflöte (recorder)、能管 (おそらく) の順番で演奏した。 循環呼吸法を使って長いフレーズを吹き続けたり、 blockflöte 2本同時に咥えて演奏したりと、 特殊な奏法も駆使して強い音で音数多く吹き続ける展開が多かった。 そういう特徴は、やはり、空気をつんざくような高音が鳴り響く能管の演奏が 一番ハマっているようにも感じた。

休憩後の duo での演奏は、特に明確な区切りを無く即興的に演奏を続けた。 しかし、始まりは、強い音で音数の吹く一噌の演奏と、 微かな曖昧な音を多用しようとする Isungset の演奏が、 すれ違ってしまっているような印象を受けた。 それが、一噌の能管 (おそらく) の強い音に受けるかのように、 手数にもかかわらずリラックスしたかのようなソロのときとは違い、 Isungset が上半身を激しく動かして強烈な音を叩き出した頃から良くなった。 あと、"The Dancer On The Hill" (Reise) のような bass drums を刻みつつ jew's harp をかき鳴らして Isungset が acid がかった minimal techno のようなビートを作り出し、 それに一噌が blockflöte 3本同時に咥えて吹きまくる展開も迫力があった。 アンコールは、一噌の笛と、Isungset の ram's horn の duo で終った。

Isungset のCDで聴かれるような 様々な鈴や、枯木を吊るしたような鳴り物、石を叩いたりする 演奏とも単なる物音ともつかないような微妙なテクスチャを、 そして、風切り音のような微妙な管楽器の音とテクスチャを織り成していく ような展開も聴いてみたかったように思うが、 それは 一噌 の資質ではないだろうか。

それに、電気増幅した jew's harp が生み出すビートにしても、 ドシャメシャに叩きまくる展開にしても、CDで聴くより数段強力だったし、 それはそれでカッコよかった。 ライヴの復習で Isungset のCDを聴き直すと、 いままでとりとめなくつかみ所が無いと感じたような展開も、 楽器や演奏の具体的な様子が思い浮かぶようで、 ぐっと聴き易く面白く聴こえるようになった。 そういう点でも、ライヴを観て良かったように思う。

[sources]

ところで、 支笏湖氷濤まつり2007 の公式サイトに、 Terje IsungsetArve Henriksen による アイスコンサート (氷の楽器を使ったコンサート) の 楽器公開制作レポートコンサートレポート が載っている。写真も沢山使っていて興味深い内容で、お薦めだ。 このサイトにアイスコンサートは「日本で初めて」と書いてあるが、 2005年のさっぽろ雪祭りの際 (関連レビュー) は、 結局アイスコンサートは出来なかったようだ。

ちなみに、氷の楽器を使ったアルバムも3作目 Terje Isungset, Two Moons (All Ice, 0702, 2007, CD) がリリースされている。この作品も ice trumpet と2人での録音だ。 Arve Henriksen ではないが、同じく Reise に参加していた Per Jørgensen だ。 内容は相変わらずだ。

(2007/03/01追記)