映画 『クロッシング・ザ・ブリッジ』 (Crossing The Bridge: The Sound Of Istanbul, a film of Fatih Akin, 2005) (レビュー) の日本公開に合わせ、この映画で取り上げられた イスタンブール (Istanbul, TR) の underground/alternative シーン (関連発言 1, 2) で活躍するグループの一つ Baba Zula (レビュー) の来日公演があった。 日本のグループ Double Famous がオープニング・アクトだったが、 残念ながら、会場に着いたときにちょうど終わってしまった。 というわけで、レビューは Baba Zula についてのみ。
electric saz の Ertel はほぼ中央にマイクを構えつつ、 舞台を動き回りながら演奏した。 Akman は下手で立って機材に向かい、そのすぐ右に Kamçi が腰かけ darbuka を叩いた。 舞台上手に Oykut がコンピュータに向かって座りタブレットで live painting し、 それをプロジェクタで舞台後方に投影していた。 さらに、曲ごとに2人の belly dancer が入れ替わり登場した。 ちなみに、Nourah は日本人だが、 Baba Zula の2006年デンマーク (Denmark) ツアーにも参加している。 dancer は異なるがこのような6人編成でのライブをイスタンブールでもやっており (blog.myscpace.com/babazula, 2006/11/06)、 彼らの普段のライブでの編成から大きく外れるものではないようだ。
Mad Professor も参加した最近2作 Ruhani Oyun Havaları (Psyche-belly Dance Music) (Doublemoon, DM0019, 2003, CD) と Duble Oryantal (Belly Double) (Doublemoon, DM0027, 2006, CD) の印象から、シュールでコミカルだがぶずぶの緩いライブかもしれないと予想していたのだが、 締まった印象の演奏を聴かせてくれた。 厚く音圧すら感じる歪んだ electric saz は rock 的ですらあり、 dubwise な音処理で浮遊感も加えつつ、 打ち込みのビートと saz のカッティングでドライブ感を出すような時すらあった。 そして、なにより、 その音量に負けない細かく強く切り込むような darbuka の音が、演奏を締めていた。 意外と1作目 Tabutta Rövaşata (Sommersault In The Coffin) (Ada Müzik, no cat.no., CD, 1996) の音と印象が近く、大きく音楽性を変えているわけではないのかなとも思った。
ちなみに、上記の3タイトルの他に、Baba Zuka には Üç Oyundan Onyedi Müzik (Seventeen Pieces From Three Plays) (Doublemoon, DM0007, 1999, CD) と Original Film Müzikleri: Dondurmam Gaymak (Rh Pozitif, RH009, 2006, CD) の計5タイトルのリリースがある。
live painting の Oykut がセーラー服姿で出てきたときは、 サブカルっぽいマンガ/アニメ的な画風の絵を書くかもしれないと思ったが、 それほどでなく、むしろ、鮮やかな色を使い粗いめタッチで描く絵は半ば抽象的な画風でシュールというよりモダン。 サブカルっぽさは、むしろ belly dancer (特に タカダアキコ) が醸し出していたように思う。 一方の Nourah の方はぐっと華がある感じで、演奏への合いかたもさすがだと思った。
確かに、darbuka や electric saz の音色は drums や electric guitar のものと異なり、トルコ的と感じさせる。 しかし、3人のミュージシャンのいかにも怪しげなオリエンタル人な風貌や belly dance といった部分を伏せれば、 その electric で浮遊感とドライブ感が共存するような音は、 例えば Sonic Youth のような avant/post rock のファン (日本であれば Boredoms や Rovo のファンだろうか) にも普通に受容されそうな音だと改めて思った。 そして、僕が彼らを知るきっかけとなった雑誌記事 Jason Gross, "Global Ear: Istanbul" (The Wire, Issue 205, March 2001) で使われた Baba Zula の写真では、Ertel は鬚も生やしておらず、 むしろスマートな欧米の avant/post rock のグループかのような風貌で写っていたことを思い出した。 写真やジャケットに出ていないだけで 1990年代からライブでは belly dance 等も使っていたのかもしれないが、 belly dance や服装などあからさまにオリエンタリズムな意匠を CDのジャケットなどに明示的に出すようになったのは2003年の Ruhani Oyun Havaları 以降のことだ。 この、2000年代に入ってからの風貌の変化や、 あからさまなオリエンタリズムな意匠の利用について、 話を訊こうと思っていて、結局すっかり忘れてしまった……。
ところで、ライブの翌日の Baba Zula の歓送迎パーティで、 Baba Zula の Murat Ertel と直接話する機会を得た。 ライブとは直接関係無い話だが、以下にその話の内容を。
まず、1990年代の活動について。Ertel と Akman は Baba Zula 以前、1989年にグループ ZeN (⇒MySpace) を結成、活動していた。オフィシャルなリリースとしては、Zen として4タイトル Suda Balık (Ada, no cat. no., 1994, CD)、 Derya (Father Yod, FYPC09 / Ecstatic Peace!, E#82, / Ada, no cat. no., 1996, CD)、 Tanbul (Kod, 004, 1997, CD)、 Zen Bakırköy Akıl Hastanesi'nde (Kod, 009, 1999, CD) と、Baba Zula として5タイトルのリリースがあるのだが、 それ以外にデモやセミオフィシャルのリリースが50枚近くあると言っていた。 Derya が Father Yod / Ecstatic Peace! (Sonic Youth の Thurston Moore のレーベル) からリリースされた経緯については、向こうからリリースしたいという話があったとのこと。 Ecstatic Peace! の話を振ったら、その前から John Peel も Suda Balık を取り上げていたと。 しかし、John Peel とも Thurston Moore ともコネクションは無かったと、Ertel は言っていた。
さらに、1990年代の音楽シーンと現在とのつながりについても訊ねてみた。 Baba Zula や ZeN も収録された1990年代後半のイスタンブールの underground/alternative な音楽シーンを紹介するコンビレーションとして、 Various Artists, Aksi İstikamet: A Compilation of Turkish Alternative Music (Kod, 006, 1999, CD) と Various Artists, Sesimizi Yükseltiyoruz (Ada, no cat. no., 2000, CD) がある。まずは、これらのCDを見せながら収録されているグループが今どうなっているのか Ertel に訊ねてみた。 これについては、多くのグループはシーンから消えてしまったとのことだった。 ZeN のアルバムや Aksi Istikamet をリリースした Kod も、 やはりレーベルとしての活動を止めているとのこと。当時とはシーンはかなり変わったようだ。 しかし、いくつかのグループの近況を教えてもらうことができた。 Nekropsi (⇒MySpace) は10年ぶりの2作目のアルバムをもうすぐリリースするとのこと。 İstanbul Blues Kumpanyası (⇒MySpace) は現在は3つのグループに分かれて活動しているとのこと。その3つのグループとは、 "Asian ? electronics" のグループ Sokkur Saska (⇒MySpace)、 "Aegean Turkish traditional + composed" のグループ Kordonboyu、 そして "Aegean Turkish + Tex-Mex" のグループ Kirika (⇒MySpace) で、 Kordonboyu と Kirika はやっている音楽が違うだけでミュージシャンはほぼ一緒とのことだった。 また、こういった音楽が好きならば、と、"Turkish psyche" のグループ Fairuz Derin Bulut (⇒MySpace) と Dinar Bandosu (⇒MySpace)、 あと、"jazz +" のグループ Gevende (⇒MySpace) を薦めてくれた (psyche 寄りなのは、そういうのが好きと思われたのかもしれない)。 また、多くのグループは MySpace にアカウントを持っているので、 そこをチェックして「フレンド」を辿ることを薦めてくれた (というわけで、判った限りでリンクしておいた)。 Ada Müzik 設立10周年としてリリースされた Sular Yükseliyor: Yüksek Dinlenecek Ondö Türkçe Rock Şarkı (Ada, no cat. no., 1996, CD) も Ertel に見せてコメントをもらおうと思ったのだが、 ここに収録されたグループとなると、今のシーンとの連続性はほとんど無いとのことだった。 グループ名とスタイルは、Ertel が書いてくれたメモに基づくものである。 例えば、Sokkur Saska はグループ名としては Saska が適切とも思われるが、 Ertel の書いたとおりとした。