Steve Lehman は2000年代にニューヨーク (New York, NY, USA) を 拠点に活動し始めた作曲家 / saxophone 奏者だ。 自身のグループの他、 Anthony Braxton 12(+1)tet のメンバーとしても活動している。 そんな Lehman の2管 vibes 入り 5et での新作は、 IDM的なギクシャクしたリズムと多層的な展開と jazz 的なニュアンスがうまく融合した作品だ。
vibes 入り 5tet ということで、bass の Drew Gress が参加している John Hollenbeck の The Claudia Quintet (関連レビュー 1, 2) を連想させられる。特に、ギクシャクしたリズムを細かく反覆して刻む Tyshawn Sorey (Dave Douglas や Steve Coleman のツアーメンバー) の drums、 それと対称的に残響を効かせた長い音を使うことが多い Chris Dingman の vibes が、 多層的で変化の多い時間展開の基盤を作っている。 一方、The Claudia Quintet との大きな違いは、saxophone と trumpet の2管の存在だ。 その音色が jazz 的なニュアンスを強くしている。 Lehman の saxophone とそれに対する Jonathan Finlayson (Steve Coleman & The Five Elements) の trumpet は、 小刻みに飛び回るようなフレーズとロングトーンで平板なフレーズを、 時に対比させながら一方を強調するように、時にユニゾンでテクスチャを作るように吹く。 The Claudia Quintet と Five Elements の間を狙ったかのような音だ。
このアルバムの中でも最も楽しめたのは、 ビートが細く刻みながら走り、 平板な吹き方をする2管がその上にさらに時間進行の層を重ねるような "Analog Moment" や "Curse Fraction" だ。 少しダウンテンポでギクシャクしたリズムを刻む "Haiku D'Etat Transcription" では 2管が平板なフレーズからスリリングな掛け合いのように変化する時もあり、 そのような2管の位置の移り変わりも楽しめた。
新作 On Meaning に併せて、 過去の関連作品も簡単に紹介。 On Meaning もそうだが、 Steve Lehman の主要な作品はブルックリン (Brooklyn, NY, USA) のレーベル Pi Recordings からリリースされている。
turntable も加えた electric な 5tet と、 electronic な effect を加えた saxophones と drums との duo からなる作品だ。 On Meaning を聴いてから振り返ると、 electronica/IDM 的なセンスの原点のような興味深さはあるが、 まだ多層的な展開等の面白さは無い。 1年余り前に聴いたときは、Sorey との duo も少々辛気臭くいまいちに感じていて、 次作がここまで面白くなるとは予想しなかった。
Lehman のコ=リーダー作となるが、 Demian As Posthuman より、 ほぼ同時期にリリースされた Fieldwork の作品の方が良いだろう。
piano / saxophone / drums という編成は、 Cecil Taylor / Jimmy Lyons / Andrew Cyrille や Alex von Schlippenbach / Evan Parker / Paul Lovens、 山下 洋輔 / 坂田 明 / 森山 威男 を連想させる 1970s free jazz/improv 的な bass less piano trio だ。 そして、特に、強くパーカッシヴな音を出す Vijay Iyer の piano は この trio 編成にはまっている。 その一方で、ギクシャクながらビート感じさせるようなリズムを刻みつつ その上で間合いを生かしたフレーズを吹くことにより音の出し合いの避ける展開など特に、 On Meaning に近い。 この trio の面白さは、このような伝統的な編成から新たな構造を繰り出してくるような所だ。
"Telematic"、"Inforgee Dub"、"Durations" などは Steve Lehman Quintet や The Claudia Quintet とも共通するIDM的なビート感があるし、 "Gaudi" や "Peril" のような1970s free にかなり接近した展開も良い。 しかし、ギクシャクしたビートに乗ってドシャメシャな即興に入らずに 1970s free 的な音の迫力だけを作り出したような オープニングの "Heading" が最も気に入っている。
ちなみに、現在は、drums が Elliot Humberto Kavee から Tyshawn Sorey に変わっている。 On Meaning での Sorey が良かったので、 この新編成での新録も聴いてみたい。
Pi Recordings の録音では、他に、 Liberty Ellman, Ophiuchus Butterfly (Pi Recordings, PI19, 2006, CD) にサイドメンとして参加している (レビュー)。
On Meaning や Fieldwork, Simulated Progress では 平板な吹き方も交えて jazz 的なイデオムを抑えることもあるが、 この trio での録音は Dresser / akLaff に煽られるかのように少し濁った音色で jazz のイデオムを強く出して吹きまくる free jazz 作品だ。 吹きまくるといっても、Peter Brötzmann や Ken Vandermark 程の音圧勝負ではない。 Anthony Braxton のような抽象的な展開にもなるが そんな時でも bass/drums の叩き出すリズムはスウィング感を残していることが多い。 よくありそうで無い、バランス感覚を感じる作品だ。
この作品をリリースしたポルトガルのリスボン (Lisboa/Lisbon, PT) の free jazz/improv のレーベル Clean Feed からは、もう一枚 Steve Lehman Quartet, Manifold (Clean Feed, CF097, 2007, CD) がリリースされている。 On Meaning の trumpet、 Jonathan Finlayson との2管 4tet という編成が興味を惹かれる。 まだ流通していないので未入手。
ちなみに、リーダー作としては、他に Steve Lehman Quintet, Artificial Light (Fresh Sound / New Talent, FSNT186, 2004, CD) がある。 こちらも未入手未聴。