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Review: Nik Bärtsch's Ronin, Holon
2008/05/17
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
(ECM, ECM2049, 2008, CD)
1)Modul 42 2)Modul 41_17 3)Modul 39_8 4)Modul 46 5)Modul 45 6)Modul 44
Produced by Manfred Eicher. Recorded 2007/7.
Nik Bärtsch (piano), Sha (bass clarinet, alto saxophone), Björn Meyer (bass), Kaspar Rast (drums), Andi Pupato (percussion).

1990s末にスイスはチューリヒ (Zürich, CH) から出てきた piano 奏者 Nik Bärtsch の "Ritual Groove Music" の8作目は、 前作 Stoa (ECM, ECM1939, 2006, CD) (レビュー) に引き続き ECM からのリリース。 5tet Ronin での演奏というのも Stoa と同じだ。 前作と同じ路線ながら、淡々とした前作と比べて表現的になった。 そして、それが良い。

基調となるのは、前作同様、 IDM 〜 ambient techno を人力で演奏しているかのような、 反覆感を強調した淡々とした演奏だ。 明るい piano のフレーズや平板な reeds のフレーズの反覆は classical な minimal music のようでもあるが、 bass、drums、percussion の作り出すグルーヴ感が人力 IDM 的に聴かせる。 反覆で際立つ各楽器音のテクスチャとそれが織り成すグルーヴが、 Ronin の魅力の一つであることは変わらない。

しかし、Holon で耳を捉えたのは、 後半に顕著になるのだが、そういう所から外れる部分だ。 例えば、"Modul 45" では、淡々とした反覆の上で、 saxophone が唸るような旋法のフレーズ (バルカン (Balkan) 〜オリエント (Orient) を思わせる) を聴かせる。 最後の "Modul 44" の頭でも saxophone が緩く歌うようなフレーズを聴かせる。 "Modul 39_8" の最後近くでの piano の細かく強い反覆と それに強く切り込む bass や、 "Modul 46" 後半での piano や bass のちょっと前のめり気味のフレーズにも、 叙情性を感じる (後者は The Durutti Column を少し連想した)。 そういった所に、この新作の色合いを感じた。

残念ながら行かれなかったが、 Nik Bärtsch は去る4月末に solo (with Imre Thormann (舞踏)) で 来日ライヴをしている (4/26, 27 @ 新宿 Pit Inn)。 2005年は 4tet Mobile、2006年は trio、と来日の度に人数が減っているのは残念だ。 フル編成とも言える 5tet Ronin でのライブを是非観てみたい。