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Review: Meredith Monk, Impermanence
2008/06/08
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
(ECM, ECM New Series 2026, 2008, CD)
1)Last Song 2)Maybe 1 3)Little Breath 4)Liminal 5)Disequilibrium 6)Particular Dance 7)Between Song 8)Passage 9)Maybe 2 10)Skeleton Lines 11)Slow Dissolve 12)Totentanz 13)Sweep 1 14)Rocking 15)Sweep 2 16)Mieke's Melody #5
Produced by Manfred Eicher. Recorded 2007/1.
All composition by Meredith Monk; except 16) by Mieke van Hoek, arranged by Meredith Monk; 13,15) by John Hollenbeck with Allison Sniffin and Bohdan Hilash.
Theo Bleckmann (voice), Ellen Fisher (voice), Katie Geissinger (voice), Ching Gonzalez (voice), Meredith Monk (voice), Sasha Bogdanowitsch (voice), Silvie Jensen (voice), Allison Sniffin (voice, piano, violin), John Hollenbeck (percussion), Bohdan Hilash (woodwinds).

Meredith Monk は1960年代に contemporary classical の文脈で活動を始めた ニューヨーク (New York, NY, USA) 出身の作曲家/歌手だ。 new opera や music theater といった ダンスや演劇との分野横断的な (interdisciplinary) パフォーマンスの 演出家/振付家としても活動している。 そんな Monk の新作が、 1980年代から Monk の作品をリリースしてきている ミュンヘン (München/Munich, BY, DE) のレーベル ECM から6年ぶりにリリースされた。 Vocal Ensemble による演奏で、 そのメンバーも ECM からの前作 Mercy (2002) とほぼ同じ、 Allison Sniffin, John Hollenbeck, Bohdan Hilash のミュージシャン3人に Theo Bleckmann や Katie Geissinger, Ching Gonzalez といった歌手を含むものだ (このようなメンバーでの ECM 録音は Mercy から)。 Mercy は淡々とした作品だったが、 この作品はかなりとっつき易い仕上がりになっている。

Monk の作品は、その音楽だけ聴けば、 基本的に反覆でテクスチャを作り出す minimal music だ。 パーカッシヴな piano や各種 percussion もよく使われるが、 彼女の作品では抽象的なヴォイシング (extended vocal technique と呼ばれる) が そのテクスチャの主要な要素になっている。 この作品でもそれは相変わらずだ。 piano に先導されてリズミカルに舞い上がる "Particular Dance" や 声だけでソフトなテクスチャを織りあげて行く "Passage" など、 Monk らしくて気に入ってる。

しかし、最も耳を捉えたのは "Skelton Lines" と "Mieke's Melody #5"。 どちらも、民謡か童謡のようなメロディが使われているのだ。 Meredith Monk を網羅的に聴いてきているわけではないが、 こういう展開は、あまり Monk の作品の中では聴かれないように思う。 "Skelton Lines" のデタラメに歌われた童謡のような voice のソロは とてもユーモラスだ。 "Mieke's Melody #5" では 子守歌のようなメロディを優しく歌うボーカルが重ねられていき、 柔らかいテクスチャを作り出している。 minimal な中にこういう曲がぽっと入ると、 ぐっと時間が動き出したようなドラマチックな印象を与える。

ちなみに、このリリースに先立つ今年の2月15日に ニューヨークの Broadway にあるコンサートホール Symphony Space で Meredith Monk & Vocals Ensemble のコンサートが行われたのだが [公演情報]、 その6日後の2月21日に同じ会場で、 The Claudia Quintet feat. Theo Bleckmann が "Tribute to Meredith Monk" と題して Meredith Monk の曲を演奏するというコンサートを行っている [公演情報]。 The Claudia Quintet は Vocal Ensemble のメンバーでもある John Hollenbeck がやっている jazz/improv のグループだ。 Theo Bleckmann も Vocal Ensemble のメンバーだが、 John Hollenbeck や Ben Monder らとの jazz/improv の文脈での活動でも知られる。 The Claudia Quintet の今までの作品も良かったし、 それに Theo Bleckmann をフィーチャーしたというだけでも聴いてみたいが、 そんな彼らが Meredith Monk の曲をどう演奏したのかとても気になる。 是非、この企画でCDをリリースして欲しい。

参考までに、ほぼ同じメンバーで録音された 前作 Mercy についても簡単に紹介しておく。

(ECM, ECM New Series 1829, 2002, CD)
1)Braid 1 And Leaping Song 2)Braid 2 3)Urban March (Shadow) 4)Masks 5)Line 1 6)Doctor-Patient 7)Line 2 8)Woman At The Door 9)Line 3 And Prisoner 10)Epilogue 11)Shaking 12)Liquid Air 13)Urban March (Light) 14)Core Chant
Produced by Meredith Monk and Tom Bogdan. Recorded 2002/3/19,20.
Music originally composed for "Mercy", a performance work by Meredith Monk and Ann Hamilton.
All compositions by Meredith Monk except "Line 1", "Line 2", and "Line 3" by John Hollenbeck with Allison Sniffin and Bohdan Hilash.
Meredith Monk (voice), Theo Bleckmann (voice), Allison Easter (voice), Katie Geissinger (voice), Ching Gonzalez (voice), Allison Sniffin (voice, piano, synthesizer, viola, violin), John Hollenbeck (voice, percussion, melodica, piano), Bohdan Hilash (clarinets).

現代アートの文脈で活動する Ann Hamilton とコラボレーションしたパフォーマンス作品 "Mercy" のための音楽を収録したCDだ。 パフォーマンス全体の様子はよく判らないのだが、 ライナーノーツにパフォーマンスに使われたと思われる Ann Hamilton による video のスチル写真が20枚枚使われている。 それは、歌う顔を明るくソフトにぼやかして大写ししたものだ。

piano もリズミカルな "Shaking" のような曲もあるが、 ソフトなテクスチャを織るような曲が多い。 パフォーマンスを併せて観ると違うように思うが、 音だけでは淡々とした印象を受ける作品だ。