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Review: The Raincoats (live) @ O-West, Shibuya, Tokyo
2010/06/20
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
O-West, 渋谷
2010/06/16, 21:00-22:30
The Raincoats: Gina Birch (vocals,bass,guitar), Ana Da Silva (vocals,guitar), Anne Wood (violin,vocals), Jean-Marc Butty (drums).

1980年前後の London の postpunk のシーンの中から登場した The Raincoats が、 初来日を果たした。 3rd アルバム Moving (Rough Trade, 1983) の後、 一旦活動を停止、1990年代に再結成して新作をリリースしたこともあり、最近も時々ライブ活動をしている。 今回のラインナップは去年のイギリスでのライブと同じ。 オリジナルのメンバーから Gina Birch と Ana Da Silva の2人で、Vicky Aspinal はいない。 そして、Wood と Butty をサポートに加えている。

中盤に最近の曲を何曲か演奏したけれども、 ”No One's Little Girl” で始まり “Fairytale In The Supermarket” で終わったように、 最初期の曲を中心に1時間余り演奏した。 アンコールでは、曲を用意していなかったため、同じ曲をもう一度演奏した。 最近の曲になると普通に rock 的なアレンジに感じられ、 初期の拙いながら rock のクリシェを外すような曲が良かったな、と改めて思った。 Moving が好きだっただけに、そこからの曲が少なかったのは残念だった。 演奏は The Kitchen Tapes (ROIR, 1983) などから予想される程ではなかったとはいえ、 確かに拙い演奏で、緊張感を感じるというものでもない。 というわけで、とても良いライブだったとは言い難いが、和やかな雰囲気を楽しむことはできた。

正直、再結成物はあまり好きではなく、The Raincoats もいいけど、 Ana Da Silva のソロ (The Lighthouse, Chicks On Speed, 2004) のライブもやってくれれば、と思う所はあった。 しかし、それでも観に行ったのは、The Raincoats がどのように歳を重ねているのか観ておきたかったからだ。 1980年前後における The Raincoats は rock を含むエンタテインメントの音楽における女性のステロタイプ (歌姫、紅一点の歌手、女性SSW、など) を拒絶していた。 そして、キャリアを重ねても個々のメンバーば「大人の女性のSSW」のようなものに転向しなかった。 円熟したベテラン女性歌手/ミュージシャンというのでは全くなく、 普通の初老の女性の姿を自然に晒すかのようなステージからは、 彼女達の “Disorderly Naturalism” (Greil Marcus による The Kitchen Tapes のライナーノーツのタイトル) を感じられたように思う。 そして、これだけでもライブに行った甲斐があったと思った。

自分のような postpunk をリアルタイムて体験した四十過ぎの客が中心かと思いきや、そんな客は一割程度。 むしろ、その頃に生まれたような二十前後の若者の方が目立っていたように思う。 それも、会場はぎっしりと埋まっていた。 2004年の Ana Da Silva のソロなど日本では完全に無視されているに近いのに、 どういう筋で話題になってこのような集客になったのだろうか。少々、不思議に感じた。

体力温存のため遅めに会場入りしたのだが、前座2組の後半、 Phew & 向島 ゆり子 を観ることができた。1990年代後半は Phew をそれなりに観ていたとはいえ、久しぶり。 その凛々しく強い歌声は相変わらず。 「時には母のない子のように」などレパートリーもあまり変わっておらず、まさに十年一日のよう。 そして、それも楽しむことができた。 ちなみに、ライブ会場で配られていたフライヤによると、15年ぶりとなる待望のソロ・アルバム Phew: Five Finger Discount (P-Vine, 2010) が9月1日にリリースされるという。