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Review: Satoko Fujii & Myra Melford (live) @ Pit Inn, Shinjuku, Tokyo
2010/08/08
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Pit Inn, 新宿
2010/08/06, 20:00-22:30
藤井 郷子 [Satoko Fujii] (piano), Myra Melford (piano); guests: 田村 夏樹 [Natsuki Tamura] (trumpet), 大熊 ワタル [Wataru Ohkuma] (clarinet, bass clarinet, toys)

1990年代に jazz/improv シーンで活動を始めた 最近はUS西海岸を拠点に活動する piano 奏者 Myra Melford の3回目の来日だ。 Pit Inn でのライブでは、duo や solo だけでなく、2管のゲストも加え、 即興をメインとしながら楽しいライブを聴かせてくれた。

前半は 藤井 と Melford の即興による piano duo 3セット。 内部奏法やプリペアトによる鈍い音による音の探り合いのような展開から、 次第に強い piano の音による演奏へ、というのが大きな流れになっていた。 藤井 が時折はっと耳を捉えるようなメロディを織り込む一方、 Melford が blues っぽい展開を封印して抽象的なフレーズを弾いていたように聴こえた。 2007年にもこの duo を見ていることもあるのか、若干新鮮味に欠けたのも確か。 コンポジションを入れた演奏も聴いてみたかった。

後半は、まず、Myra Melford のソロ。 Andrew Hill: “Images Of Time” から 続けて自作曲 “The Guesthouse” を演奏した。 “Images Of Time” は Marty Ehrlich どの duo で録音があるが (Spark! (Palmetto, 2007) 所収 [レビュー])、 そこで Ehrlich が吹くメロディを piano でなぞるような展開ではなく、 続く “The Guesthouse” と合わせ、 むしろ Hill に捧げた自作曲 “Where The Two Worlds Touch” (Where The Two Worlds Touch (Arabesque Jazz, 2004) 所収) の後半で聴かせるような piano の強い音でのフレーズの反復が印象に残った。

続いてはゲスト2人、trumpet の田村 夏樹、clarinet の 大熊 ワタル を加えて2曲。 譜面を使っていたので、ある程度、作曲された曲をやっていたのだろうか。 藤井 / 田村 のライブで時々見られるサインを出し合って展開を決めて行くゲームピースも演った。 2管が入ったためか、ある程度作曲に基づいていたためか、 一方が内部奏法しつつ、もう一方が普通に強く弾くなど、 duo で弾いていたときより piano 2台の音にも広がりが感じられた。 大熊 も Cicala-Mvta の時とは違い klezmer 的なフレーズはほぼ封印していたが、 そこはかとはなくユーモラスな所が、田村の trumpet とも合っていた。 こういう編成だったからか、田村がいつもより強い音を多用していたのも印象に残った。 この4人での演奏が今回のライブの中では最も楽しめた。 先日6月17日の なってるハウス での 大熊 - 田村 - 藤井 初顔合わせライブを見逃したのを残念に思っていただけに、 こうして Myra Melford のライブのゲストという形で 大熊 との共演を見られて良かった。

最後に duo で1曲、アンコールは4人で1曲。4人での演奏をして熟れたこともあるのか、 前半のときよりも最後の duo の方が音に広がりが感じられて良かった。

ちなみに、Myra Melford と 藤井 郷子 は、2007年以来、時々 duo でライブを行っている。 2007年にアメリカ西海岸バークレー (Berkeley, CA, USA) でやったライブの録音が、 Satoko Fujii - Myra Melford: Under The Water (Libra, 202-024, 2009, CD) としてリリースされている。

4人での演奏が良かっただけに、 Myra Melford のライブも、休暇旅行ついでの solo や duo での即興中心のセッションではなく、 Trio M や Be Bread といったレギュラーのグループで観てみたいと、つくづく思う。 もしくは、Marty Ehrlich との duo。 しかし、今回のライブも金曜晩の新宿にかかわらず40名程度。 彼女の日本での知名度、人気からすると、グループでの来日は難しいかもしれない。

ところで、今回のライブで Myra Melford が solo 演奏した曲 “The Guesthouse” はまだ録音が無いようだが、 Ben Goldberg (clarinet, bass clarinet) - Shahzad Ismaily (guitar, drums) - Mathias Delplanque (electronics) という bass less で electronics を入れた4tetでの演奏を動画を Dailymotion で観ることができる [Dailymotion]。 AFTERLFE Music Radio のアカウントには、 この 4tet による 2010/06/11 の Pannonica (Nantes, FR) でのライブを収録した動画 全15本が投稿されている。 作曲と即興のバランスもよい編成の特異さを生かした演奏が楽しめる。 この編成によるアルバムもリリースして欲しい。

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