アメリカ (USA) の free jazz/improv の文脈で活躍する女性 piano 奏者 Myra Melford が アコースティックな piano trio 編成での新録をリリースした。 去年に活動を始めた Trio M によるもので、 bass は1990年前後の Anthony Braxton Quarttet や Marylin Crispell trio での活躍で知られる Mark Dresser、 drums は Ether/Orchestra や M.O.B. Trio で活動してきた Matt Wilson と、 やはりアメリカの free jazz/improv の文脈で活動してきた面子だ。 Melford がリーダーというわけではなく、3人が対等に曲を提供しているグループだ。 1990年代前半の Myra Melford Trio (レビュー) のような勢いはないが、音楽の幅は広がったように思う。 Melford の piano の魅力をよく引き出した free な piano trio の作品としてお薦めだ。
Melford 作曲のオープニングの "brainFire And bugLight" や タイトル曲の "Big Picture" では、 Myra Melford Trio の復活を思わせる、強力なリズム隊を従えての 強く華やかな音色での打楽器的な演奏とメロディアスな演奏が共存する free な piano trio が楽しめる。 この新作の一番の聴き所はやはりこの2曲だろう。 Wilson 作だが "Native Art" もMelford の魅力が良く出た曲だろう。 Bobby Bradford に捧げられた "For Bradford" と Ed Thigpen に捧げられた "Modern Pine" は Dresser 作で Mark Dresser Trio, Aquifer (Cryptogramophone, CG111. 2002, CD) で演っていた曲だが、少しブルース的な曲調は Melford の piano にもぴったりだ。
もちろん、Melford の演奏以外にも聴き所はある。 Wilson 作の "FreeKonomics" (Freakonomics (ヤバい経済学) のもじりだ) での 反覆感を強調した展開も気に入っている。 John Hollenbeck や The Bad Plus がやりそうな曲だ。
ほぼ同時に、Melford は saxophone/clarinet 奏者 Marty Ehrlich との duo の新作もリリースしている。 Ehrlich も自身の The Dark Wood Ensemble や Bobby Previte のグループなど、 アメリカの jazz/improv の文脈で活動している。 Myra Melford & Marty Ehrlich, Yet Can Spring (Arabesque Jazz, AJ0154, 2001, CD) 以来6年ぶりの2作目となる。 前作に比べて、ぐっとメロディを朗々と吹く/弾く展開が多く、明るくキャッチのある作品だ。 Melford と Ehrlich の書くメロディの魅力に気付かされたようにも思う。 こちらもお薦めだ。
節回しに少々 klezmer っぽさも感じる "I See A Horizon"、 インド (India) を意識したと思われる節回しの "Blue Dehli" など オリエンタルな旋法を強めの clarinet の音とパーカッシヴな piano でノリ良く演奏している曲が 特に気に入っている。 clarinet の柔らかい音を生かしたゆったり落ち着いた展開の "For Leroy" や "Night" も良い。 alto saxophone の明るい音色を生かした曲なら、 Melford の piano の華やかな音色のパルスにのって軽く舞うような "Hymn" も気に入っている。 この曲がオープニングとエンディングを締めることにより、 アルバム全体の印象が明るくなっている。
さらに上2作の他、Melford は 女性 violin 奏者 Tanya Kalmanovitch との duo もリリースしている。 Kalmanovitch はカナダ・アルバータ州 (Alberta, CA) 出身、 ブルックリン (Brooklyn, NY, USA) の jazz/improv シーンで活動する他、 ダブリン (Dublin, IE) を拠点に folk/roots 色濃い jazz/improv を演っている Ronan Guilfoyle (レビュー) との共演も多い。
こちらは、violin と piano という組合せもあって、 現代音楽 (cotemporary classical) 色濃い作品になっている。 フリーキーな音だしは多くないが、 飛び回るようなフレーズやリズムで、抽象的な音楽空間を作り出している。 華やかな piano の音色は相変わらずだし、violin との絡みも良く、 こういう作品も Melford らしいと思う。 しかし、少々取り付き辛い作品かもしれない。
過去の Myra Melford 関連レビュー: Myra Melford Exetended Ensemble (1995)、 Myra Melford The Same River, Twice (1996)、 Myra Melford & Han Bennink (1997)、 live at 伊勢屋, 横浜 (1998)、 Equal Interest, et al (2000)、 Myra Melford Trio (2002)、 live at クレモニアホール, 荻窪 (2007)