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Review: Below The Radar Special Edition: Melting Pot
2010/11/30
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Below The Radar Special Edition: Melting Pot
Various Artists
(The Wire, no cat.no., 2010, DL)
1)Oğuz Büyükberber / Korhan Erel / Demirhan Baylan: “Improvisation 1” 2)Umut Çağlar / Volkan Terzioğlu / Korhan Argüden: “Improvisation 2” 3)Robert Reigle / Kevin Davis: “Improvisation 3” 4)Amy Salsgiver / Burçin Elmas / Turgut Erçetin: “Improvisation 4” 5)Korhan Erel / Florent Merlet / David Brosset: “Improvisation 5” 6)Özün Usta / Nilüfer Akbayoğlu / Volkan Terzioğlu: “Improvisation 6” 7)Şevket Akıncı / Giray Gürkal: “Improvisation 7”
Compiled by Yaprak Melike Uyar.

イギリスの音楽雑誌 The Wire は、 2009年9月号から年4回のペースで、 デジタル・ダウンロード限定の定期購読者向けコンピレーション・シリーズ Below The Rader をリリースし始めている。 定期購読者向けコンピレーションCDシリーズ The Wire Tapper も続いており、 それを補完するような位置付けのものだ。 現在、Vol. 4 までリリースされているが、それとは別に、Special Edition と銘打って、 レーベルや特定のシーンに焦点を当てたコンピレーションもリリースされている。 今年10月にリリースされた Below The Radar Special Edition: Melting Pot の副題は “Free Improvised Music From Istanbul”、 トルコのイスタンブール (Istanbul, TR) の free improv シーンに焦点を当てた内容だ。 The Wire 誌定期購読者でなくても Melting Pot: Free Improvised Music From Istanbul というサイトで音を聴くことはできる (ダウンロードは出来ないようだ)。

確かにスムースに聴かれるようなメロディやリズムを持つ曲を演奏しているわけではないが、 イディオムを全く感じさせないアブストラクトな演奏という程ではなく、 1970年代から現在に至るヨーロッパや北米の free jazz/improv に連なるような演奏が収録されている。 非常に個性的な演奏が収録されているわけではないが、 手数多めの演奏などは1970s-80sの free jazz/improv の動態保存のようにも感じる時もあったけれども、 最近の Doublemoon / Pozitif レーベルのリリースがスムース過ぎて面白みに欠けるように感じていただけに、 興味深く聴くことが出来た。

特に興味を惹かれたのは、オープニングの Oğuz Büyükberber / Korhan Erel / Demirhan Baylan の演奏。 Baylon (bass guitar) のグイグイと引っ張るようなベースラインに、 Erel (computer & melodica) がチャカポコいう percussion のような電子音を散りばめ、 その上で、Büyükberber (clarinet) が gypsy clarinet と Steve Lacy の間を行くようなフレーズを乗せた、 ひょうきんさが感じられる演奏が良かった。

自分はこのコンピレーションで気付いたのだけれども、このシーンは最近突然発生したものではなく、 Doublemoon / Pozitif や Kalan のような欧米へ紹介された比較的大きなレーベル [関連発言] の陰で地道に活動していたようだ。 例えば、最も耳を引いた Oğuz Büyükberber にしても、1990年代は Lodos というグループで活動しており、 BabaZula や Replikas も収録した当時のイスタンブールのオルタナティヴな音楽のコンピレーション Sesimizi Yükseltiyoruz (Ada, 2000) にも Lodos で参加していた。 Büyükberber は Ada からリーダー作もリリースしているし、 トルコ=ギリシャ混成の folk/roots のグループ Bosphorus の録音にも多くゲストに参加するなど、 Ada や Kalan の録音への参加も少なくない。 また、Demirhan Baylan も1990年代に Ada にリーダー作を残し、 Nekropsi 等が収録された1995年のアンダーグラウンドな音楽のコンピレーション Sular Yükseliyor (Ada, 1995) に収録されている。 Sesimizi Yükseltiyoruz や Sular Yükseliyor に 参加していたミュージシャンのその後が気になっていた [BabaZula の Murat Ertel に話を聞く機会があった際のレビュー] だけに、その一部とはいえ、こういう形で再びその活動を耳にすることができ、嬉しかった。

このコンピレーションの音源は、イスタンブールのコミュニティFM局 Açık Radyo 94.9 の番組 Farazi のために録音されたもので、 参加しているミュージシャンたちの拠点となっているレーベルが re:konstruKt、 2008年に活動を始めた グループ konstruKt (Korhan Argüden / Özün Usta / Umut Çağlar / Korhan Futacı) の ネットレーベル (デジタル・ダウンロードのみのリリースを行うレーベル) だ。 ネットレーベルによくあることだが、リリース頻度は高く、2010年11月末時点で42タイトルのリリースがある。 正直に言って追いきれていないけれども、最初の16タイトルまでの音源については、 モスクワ (Moscow, RU) のネットレーベル Clinical Archives からコンピレーションが4タイトルリリースされている。 Clinical Archives は konstruKt の音源もリリースしている。 フリーでダウンロード可能なので、聴き進めるのであれば、まずここから手を付けるのがお勧めめだ。 といっても、一通り聴いたが、 Below The Radar Special Edition: Melting Pot の方に比べて漠とした印象の演奏が多いけれども。 参考までにコンピレーション4タイトルの収録曲等を以下に記す。

re:konstruKt Sampler vol. 1
Various Artists
(Clinical Archives, ca176, 2008-10-17, DL)
1)Konstrukt: “G.a.l.a.t.a.” 2)Korhan Argüden / Umut Çağlar / Özün Usta: “Improvisation No. 4” 3)Limbo: “2nd Drum Tranny” 4)Umut Çağlar & Giray Gürkal: “Freundschaft”
1) taken from Maki (re:konstruKt, RE:003, 2008, DL); 2) taken from Rehearsals Part 3 (re:konstruKt, RE:001, 2008, DL); 3) taken from Monkeypussy (re:konstruKt, RE:002, 2008, DL); 4) taken from Music For Walkie-Talkie (re:konstruKt, RE:004, 2008, DL).
re:konstruKt Sampler vol. 2
Various Artists
(Clinical Archives, ca218, 2009-02-12, DL)
1)Umut Çağlar & Korhan Erel: “Form And Function” 2)The Leaugue Of Xtraordinary Gentlemen: “Mobilis In Mobili Pt. 1 (edit)” 3)Şevket Akıncı & Dirk Stromberg: “Improvisation No. 3” 4)Korhan Argüden / Umut Çağlar / Burçin Elmas / Osman Özkan: “Touche”
1) taken from Music For Walki-Talkies 2 (re:konstruKt, RE:005, 2008, DL); 2) taken from Recorded Live At deFORM (re:konstruKt, RE:006, 2008, DL); 3) taken from Essays (re:konstruKt, RE:007, 2008, DL); 4) taken from The Color Is Black (re:konstruKt, RE:008, 2009, DL).
re:konstruKt Sampler vol. 3
Various Artists
(Clinical Archives, ca288, 2009-07-18, DL)
1)Oğuz Büyükberber / Umut Çağlar / Korhan Erel / Florent Merlet: “IC Two” 2)Giray Gurkal: “This Is An Attack!” 3)Dom Minasi String Quartet: “Green! Green! They're Green!” 4)Şevket Akıncı / Umut Çağlar / Kevin Davis / Demirhan Baylan / Florent Merlet: “Hanoi”
1) taken from Twentyeight-Twelve-Twothousandeight (re:konstruKt, RE:009, 2009, DL); 2) taken from Hey People! (re:konstruKt, RE:010, 2009, DL); 3) taken from Dissonance Makes The Heart Grow Fonder (re:konstruKt, RE:011, 2009, DL); 4) taken from Q & A (re:konstruKt, RE:012, 2009, DL).
re:konstruKt Sampler vol. 4
Various Artists
(Clinical Archives, ca322, 2009-11-18, DL)
1)Volkan Terzioğlu / Umut Çağlar / Nilüfer Akbayoğlu / Amy Salsgiver: “Variation On A Random Note” 2)Kevin Davis / Korhan Erel / Umut Çağlar: “IV” 3)Selen Gülün: “Üç” 4)Limbo feat. Şevket Akıncı & Dilek Gokcen Acay: “III”
1) taken from Nava (re:konstruKt, RE:013, 2009, DL); 2) taken from 3/o (re:konstruKt, RE:014, 2009, DL); 3) taken from Selen Gülün (re:konstruKt, RE:015, 2009, DL); 4) taken from Live! (re:konstruKt, RE:016, 2009, DL).

ちなみに、Vol. 4 でピアノソロを聴かせている Selen Gülün は、 最近、Pozitif (Doublemoon の兄弟レーベル) からトリオでのアルバム Answers (Pozitif, 2010) をリリースしている (未聴だが)。

イスタンブールのミュージシャンだけでなく、欧米の free/improv のミュージシャンの参加した録音ももちろんある。 この4タイトルには収録されていないがロシアの Yuri Yaremchuk / Ilia Belorukov / Andrij Orel: Conditions (re:konstruKt, RE:024, 2009, DL) というリリースもある。 Yaremchuk や Belorukov は re:konstruKt のコンピレーションをリリースした Clinical Archives レーベルからもリリースもあり、 そういう点からも、ロシアのシーンとの直接的な繋がりが感じられる。その点も興味深い。