ドイツからスイスへ拠点を移しつつある jazz/improv の trombone 奏者 Nils Wogram。 今まで ENJA や Intuition Music から多くのリーダー作をリリースしてきたが、 ついに自身のレーベル nwog を設立。 その第一弾のリリースは、自身の4tet Root 70 の6作目だ。 2008年の On 52nd 1/4 Street には “Conceptional Works I” と副題が付けられていたが、 Listen To My Woman はその続編、“Conceptional Works II” だ。 そのコンセプトとは、「ヴィンテージの録音方法で、オリジナルなコンテンポラリー・ジャズの音楽を録音すること」。 Root 70 の trombone にソフトな音色の alto saxophone という Dexieland を思わせる2管の編成もあって、 レトロな雰囲気とコンテンポラリーの緊張感が同居する作品だ。
On 52nd 1/4 Street では、 Wogram が好きな1950年代末の Columbia のレコーディングに倣い、 そのスタジオ (49 East 52nd Street にあった Columbia Records studio) とできるだけ同じ機材を用い、 響きが似ているとして選んだ GDR Radio Studio で録音されている。 さらに、曲はすべてブロードウェーの音楽のコード進行に基づいたもので、また、四分音が用いられている。 CD付属のリーフレットに使われているアーティスト写真は、 彼らが Columbia のレコーディングの参考に用いた Mosaic の box set での写真を真似たものになっている。 実際の音を聴くと、確かにヴィンテージ録音っぽい曲演奏ながら、 彼らならではの緩急のある演奏もちろん、 四分音使いによる微妙によれたような感じが、それを異化しているかのよう。 ただ、それ以前のアクロバッティクな展開が多かった演奏に比べると少々地味で、 コンセプト先行過ぎると感じたのも確か。
続く新作の Listen To My Woman のコンセプトはブルース。 同じくヴィンテージながら録音機材が異なり、 スタジオも On 52nd 1/4 Street と異なるので、 Columbia Records studio でない他のスタジオの録音を真似ていると思われるのだが、 どこのスタジオかまでは自分には判らない。 やはり、少々緩めの雰囲気漂う曲が多めだが、 overtone singing から始る “Hot Summer Blues”、 melodica をフィーチャーしてアコースティックながら dubwize な roots reggae 調の “Behind The Heart Beat” のような曲もあり、 On 52nd 1/4 Street よりも曲調や展開の幅は広がっている。 Penman の bass がぐいぐい主導する “How Play Blues” や、 スピード感ある展開を聴かせる “Hot Summer Blues” や “Precision” のような、アップテンポな曲の方が楽しめたのも確かだが。
この “Coceptional Works” は、今後も継続するよう。 コンセプトに対しストレートにアプローチしたかのような On 52nd 1/4 Street に比べ、 Listen To My Woman では広がりも感じられるようになった。 次にどんなコンセプトを持ってくるのか、ちょっと楽しみだ。
Root 70 の alto saxophone 奏者 Hayden Chisholm が、自身のウェブサイトで、 自身のグループ The Embassadors の2007年のライブ音源を公開している。 その編成は、Root 70 の4人に、Hayden のプロジェクトによく参加している弦楽器2人を加えたもの。 “Conceptional Work” 以前の Root 70 で録音を残している曲 “Myth” や “Dragon Pearl Massage Music” も演奏しており、 Root 70 meets strings のような内容だ。 リズムも控えめに、弦楽器に Hayden の clarinet のような音色の saxophone が絡むような展開の所など、 contemporary classical の室内楽のよう。 これも、The Cologne Philharmonic Hall に合わせたコンセプトなのかもしれない。 録音も良く、CDとしてリリースしても良さそうな内容だ。