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Review: Various Artists: Opensource Compilation #1: Russian Music Underground Creative Commons License; Various Artists: Free Music Compilation #2: Russian Files Inside Creative Commons License
2011/06/21
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)

クラスノダール (Краснодар) の Fragment/Passage (現 FUSELab) [レビュー] や イルクーツク (Иркутск) の Electronica [レビュー] など、 2000年代末近くなるとロシアにおいてもネットレーベルの活動が活発になっていた。 (ネットレーベルとは、デジタル音源をインターネットで配信するレーベル。 特に iTunes Store 等で販売するのではなく Creative Commons 等のライセンスで無料で配信する レーベルを指すことが多い。) ネットレーベルのフェスティバルとして Netaudio LondonNetaudio Berlin という フェスティバルが開催されているが、 それに倣って、ロシアにおいても2008年と2009年にモスクワ (Москва) でも NetAudio Moscow Festival が開催された。 オーガナイズは、2007年から2008年にかけて Nikita Golyshev [Никита Голышев] (aka CD-R) と Ilias Mikanaev [Ильяс Миканаев] (aka Zolotu, DJ Soothe) の主宰で活動したモスクワを拠点とするネットレーベルの連携プロジェクト NetAudio Russia だ。 このプロジェクトに関わったネットレーベルは、音楽ジャンルは何でもありというわけではなく、 techno/house, IDM, electronica, ambient/drone 等の electronic な音楽を扱うレーベルのみ。 これは、このジャンルにおいて特にネットレーベルが盛んであったということの反映という面もあるかもしれない。 (もちろん、ロシアのネットレーベルの中には、 Clinical Archives のような electronic に限らない幅広いジャンルを扱うレーベルもある。)

2008年の第一回は9月13日に、モスクワの Центр ДОМ [DOM Cultural Center] で開催された。 NetAudio Russia 傘下の4レーベル (Musica Excentrica, ElectroSound, Share My Wings, Weird Elements) からリリースしている6組のアーティスト (Mujuice, Volga, Monokle, K.D. Expression, Ambidextrous, Taiga) がライブを行った。 Николай Дмитриев [Nick Dmitriev] 設立が設立した オルタナティヴ・スペースである ДОМ は、日本では専ら jazz/improv の文脈で知られるが、 実際の活動における音楽性の幅は、このようにもっと広いものである [関連発言]。

続く2009年は10月17日に Государственный Центр Современного Искусства (National Center for Contemporary Arts) に会場を移して開催された。 参加した5つのレーベルのうち NetAudio Russia 傘下のものは ElectrSound のみ。 残り4レーベルは、 サンクトペテルブルグの Subwise、 モスクワの Tru Type Sounds、 クラスノダールの Fragment/Passage、 イルクーツクの Electronica。 参加したアーティストはレーベル毎に2組、以下のようなラインナップだった: Subwise: Raumskaya, Fuu; Tru Type Sounds: 5-40 am, P-SH; Electronica: Frunk29, Vadim Lankov; Passage/Fragment: Modul, Killahertz; ElectroSound: moroza_knozova, CD-R.

しかし、その後、このフェスティバルを組織していた NetAudio Russia は2009年で活動停止。 このフェスティバルは2回きりとなった。 NetAudio Russia のウェブサイト (www.netaudio.ru) も無くなり、 Internet Archive を使って無料配信されていた音源も含め、 NetAudio Moscow Festival や NetAudio Russia 傘下レーベルの 活動に関する情報はインターネット上からほとんど消え去ってしまった。

Various Artists
Opensource Compilation #1: Russian Music Underground Creative Commons License
(NetAudio Russia, no cat. no., 2009, DL)
1)Doyeq: “No Midi” 2)moroza_knozova: “Rosolam (Novomix)” 3)Iky Que: “10msec” 4)Dyad: “Paragliding” 5)Stud: “Liquid Fur” 6)Vadim Lankov: “Impudence” 7)Light Under Water: “Awake” 8)Monokle: “Warm Control” 9)The Kirbi: “Metronome”
Various Artists
Free Music Compilation #2: Russian Files Inside Creative Commons License
(NetAudio Russia, no cat. no., 2009, DL)
1)Feldmaus: “Put On A Magical Hood (Passage Version)” 2)Frunk29: “Alenkin Home” 3)Vadim Lankov: “Secondsun” 4)Modul: “Complete” 5)Raumskaya: “Iskrenne” 6)moroza_knozova: “rtyjd2” 7)5-40 am: “Miss You” 8)CD-R: “Solaris (excerpt)”

ほとんど散逸してしまった NetAudio Russia 関連音源だが、 2009年にリリースされた2つのコンピレーションが 1つに併せた形で Internet Archive で現在も配信されている。 2つのタイトルが微妙に異なっているが、シリーズ物の Vol. 1, 2 だ。 #1 (Vol. 1) は2009年の前半にリリースされたもので、 NetAudio Russia の特に ElectroSound レーベル関連の音源が中心となっている。 #2 (Vol. 2) は NetAudio Moscow Festival 2009 に合わせてリリースされており、 その出演アーティストを紹介する内容にほぼなっている (一組 Killahertz の代わりに Feldmaus が収録されている)。

収録された音楽は、#1 の方はフロア指向とまでは言い難いがビート感のある曲が中心。 #2 の方は ambient/drone なものが半分程収録されている。 #1 では、Doyeq の軽快な tech house、 女性歌手をフィーチャーした electronica の Iky Que、 harmonica をフィーチャーして仄かに pop/rock センスを感じる The Kirbi、 #2 では、音選びにひょうきんさも感じる minimal な Frunk29 や Vadim Lankov が耳に残った。 確かに、ロシア独特の音作りが楽しめるというというわけではない。 しかし、複数のレーベルに跨がって編まれているせいか、 Electronica や FUSELab のレーベル・コンピレーションと比較して、 レベルを保ちつつヴァリエーションに富んだ音楽を楽しむことができた。 2000年代末のロシアの electric music を知るとっかかりとして、お薦めだ。

ところで、コンピレーションのタイトルは Creative Commons ライセンスで 無料配布されている音楽であることを強調していた。 しかし、NetAudio Moscow Festival に参加したレーベルのうち Electronica と FUSELab は、 翌2010年には Beatport 等を通して販売するリリースも始めている。 そういう意味では、NetAudio Russia が活動し NetAudio Moscow Festival が開催された 2008年から2009年に、ロシアのネットレーベル活動の一つのピークがあったということかもしれない。