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Review: Filiz İlkay Balta: Vişne; Eka: Ar Lazi Oxorca
2012/05/20
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
(Colchis Müzik, no cat. no., 2011, CD)
1)Gidersen Uğur Ola 2)Artvin Kız Horonu 3)Dumana Bak 4)Verane Arvani (Yalı Horonu) 5)Denizlerin Dalgası 6)Zegerega Su Gerek (Hevek Türküsü) 7)Barhal Çayı 8)Vişne 9)Yarumi Yola Koydum
Produced by Birol Topaloğlu.
Filiz İlkay Balta (vokal ve tulum), Birol Topaloğlu (kemançe, çonguri, panduri, salamuri, dilli (karadeniz) kaval, ğuni - ritim ve eşik vokal), Türkay Nişancı (bas gitar, elektrik gitar, çonguri, bas panduri, ve eşik vokal), Burhan Hasdemir (perküsyon), Erhan Zaza (asma davul), Selçuk Saygılı (zuma, İrlanda kavalı), Oktay Büyükkeskin (yan flüt), Ömer Özışık (akordeon); bayan vokal, horon ve nidalar: Evrim Geniş, Zeynep Muslu ve Güler Topaloğlu (eşik vokal); erkek vokal, horon ve nidalar: Şükrü Hacıfazlıoğlu, Birol Topaloğlu ve Güngör Kestane (eşik vokal).

Filiz İlkay Balta はトルコの女性 tulum (黒海地方の bagpipe 奏者)。 女性の tulum 奏者は珍しく、「トルコ唯一」とも言われている。 出身は黒海地方東部リゼ県だが、イスタンブール大学経済学部を出て、 tulum 奏者 Birol Topaloğlu [レヴュー] に師事し、 Kardeş Türküler [関連発言] の母体ともいえる Boğaziçi Üniversitesi Folklor Kulübü / Boğaziçi Gösteri Sanatları Topluluğu の制作したステージに参加したこともあるよう。 そんな彼女の初リリースCDは、Birol Topaloğlu 制作イスタンブール録音で収録時間30分弱のミニアルバムだ。 タイトルの vişne はトルコ語でサクランボの意。

自作の曲と Birol Topaloğlu の曲それぞれ1曲を除き、黒海地方の民謡を演奏しているが、 彼女のバックグラウンドからも予想が付く通り、 Kardeş Türküler などの Kalan の録音の影響を感じるアコースティックながら現代的なプロダクション。 最後の “Yarumi Yola Koydum” を除き、 小編成の彼女の歌声と tulum の音を生かしたさっぱりしたアレンジに、ちょっと細く感じる彼女の歌声も可憐に感じるところも。 accordion や笛の音も軽快なアップテンポの “Artvin Kız Horonu” など歌にも茶目っ気を感じる所があるし、 frame drum や kaval、kemançe によるゆったりダウンテンポな演奏に合わせて歌う “Dumana Bak” のような曲も良い。 以前に Birol Topaloğlu を聴いたときにも感じたことだが、 ダウンテンポの曲はギリシャ島嶼部の民謡に近く感じられるところがある。 最後の “Yarumi Yola Koydum” は少々 rock 的なアレンジで新展開を狙った試みなのだろうか。これも悪くない。 これでジャケットデザインや録音・ミックスが Kalan レベルだったらとも思う。フルアルバムに期待したい。

ちなみに、今時の若いアーティストらしく、 プロモーションに FacebookYouTube を活用している。 アルバム紹介ビデオは 写真スライドショーの素朴な作りだけど、 “Yarumi Yola Koydum” などはPVらしい編集がされ、斬新なPVではないが、彼らのスタンスが伺われるようでもある。

ちなみに、このCDをリリースした Colchis Müzik は、 黒海地方の音楽をリリースすることを目的に2005年から活動する トルコはイスタンブール (İstanbul, TR) のレーベルだ。 Birol Topaloğlu のアルバム2タイトルの他、10タイトル近いリリースがある。 ちなみに、Colchis (コルキス) というのは、 紀元前6世紀〜紀元前1世紀に黒海東沿岸に存在した王国の名だ。

このレーベルからのリリースをもう1タイトル紹介。

Eka
Ar Lazi Oxorca
(Colchis Müzik, no cat. no., 2011, CD)
1)Ayva Skani 2)Moleni Sarpi 3)Mçita Parpali 4)Kva Omxaze 5)Supraş Birapa 6)Biçi Do Kulani 7)Heyamo
Prodüktör: S. Refika Kadıoğlu.
S. Refika Kadıoğlu, Türkay Nişancı (bas-akustik-elektrik gitar, panduri ve eşlik vokal), Birol Topaloğlu (duduk, salamuri, çonguri, kemençe ve eşlik vokal), Burhan Hasdemir (perküsyon), Muammer Ketencoğlu (akordion), Richard Laniepce (alto klarinet); Şina Topaloğlu, Arsima Sütlü, Arsima Keskin, Gülrt Topaloğlu (vokaller).

トルコ黒海地方東部からグルジアにかけて、 ラズ (Laz) と呼ばれるグルジア語と同じ南コーカサス語族に属するラズ語を母語とし 主要宗教をスンニ派イスラム教とする民族が住んでいる。 この収録時間30分弱のミニ・アルバムをリリースした Eka は 女性歌手 S. Refika Kadıoğlu のプロジェクトで、 ラズ語のタイトル “Ar Lazi Oxorca” は トルコ語で “Bir Laz Kadını” とのこと。 「ラズの女 (a Laz woman)」という感じのタイトルだろうか。 トルコやグルジアのラズの村々で採取した民謡を7曲収録している。

やはり、Filiz İlkay Balta のアルバム同様、 Kardeş Türküler などの Kalan のプロダクションの影響を感じるもので、 ラズの音楽の復興の中心人物でもある Birol Topaloğlu はもちろん、 バルカンやギリシャ系の音楽のプロジェクトに多く関係してきた Muammer Ketencoğlu [レビュー] も参加している。

クレジットが無いので正確なところは判らないのだが、 聴こえる音からすると acoustic guitar を爪弾きながら歌っている。 若々しい華やかなものでもないが素直でコブシも軽め。 しかし、Filiz İlkay Balta と比べると、 歌声は枯れた民謡的なもので、アレンジもいなたく感じるだろうか。 ゆったりしたテンポで淡々と歌う曲が多く、それも悪くはないが、 “Supraş Birapa” のような軽快なダンス曲がもっとあれば、 もう少しとっつきやすかったかな、とは思う。