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Review: Various Artists: Mulheres De Péricles
2013/06/25
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Various Artists
Mulheres De Péricles
(Joia Moderna, no cat. no., 2012, CD)
1)Céu: “Blues” 2)Nina Becker: “O Céu E O Som” 3)Bluebell: “Bossa Nova” 4)Mallu Magalhães: “Elegia” 5)Bárbara Eugênia: “Ode Primitiva” 6)Marietta Vital e Mairah Rocha: “Clariô” 7)Tulipa Ruiz: “Porto Alegre (Nos Braços Do Calipso)” 8)Iara Rennó: “Nossa Bagdá” 9)Anelis e Serena Assumpção: “Eva E Eu” 10)Laura Lavieri: “Quem Nasceu?” 11)Karina Buhr: “Negro Amor” 12)Juliana Kehl: “Será O Amor?” 13)Ava Rocha: “Musical” 14)Tiê: “Medo De Amar nº 3” 15)Juliana Perdigão: “Canto Maneiro”
Idealizado por DJ Zé Pedro.

Péricles Cavalcanti はブラジル・リオデジャネイロ出身ながら1950年にサンパウロへ移住、 1960年代から1970年代にかけてはロンドンやパリを拠点にしていたシンガーソングライターだ。 Gilberto Gil による Copacabana Mon Amour (1970) の映画音楽への参加が プロ・ミュージシャンとしての初めての仕事で、 1973年に Gal Costa が録音した “Quem Nasceu?” が他の歌手に曲を提供した初仕事という。 歌手・演奏家というより Gal Costa や Caetano Veloso のような歌手に歌を提供するソングライターとして知られ、 1990年代には Adriana Calcanhotto に取り上げられ再評価されている。 Mulheres De Péricles は、 2000年代以降に注目されるようになった若い世代の女性歌手たちによる Péricles Cavalcanti の曲のカバーを集めたコンピレーションだ。 Nina Becker らサンパウロのレーベル yb music やその周辺で活動しているような女性歌手たちが顔を揃えており、 サンパウロを中心に盛り上がるインデペンデントな rock/pop シーンの女性歌手のコンピレーションとしても充分に楽しめる内容になっている。

最も気に入ったトラックは Nina Becker [レビュー1, 2] の “O Céu E O Som”。 Marcelo Callado によるカポカポいう percussion の音も緩い waltz に乗って エコー強めの Nina Becker の歌声が緩く漂うような曲だ。 1980年前後の dubwise な pop reggae のようなアレンジの Marietta Vital e Mairah Rocha: “Clariô” のノンビリ明るい雰囲気も良い。 この曲をプロデュースしている Bruno Buarque (drums) と Mau (bass) は Karina Buhr のプロデュース及びバックバンドのリズム隊としても知られる。 同じ制作の Buhr の “Negro Amor” は Edgard Scandurra (guitar) も参加した indie rock 風のアレンジで、これも良い。 reggae 的なリズムではないがエコー深さも dubwise な Céu: “Blues” や、 チープなリズムボックスも軽快な pop の Tulipa Ruiz: “Porto Alegre (Porto Alegre (Nos Braços do Calipso)”、 clarinet/flute に electronica が被さるバックに低く落ち着いた声で歌う Juliana Perdigão: “Canto Maneiro” なども気に行っている。

Tulipa Ruiz: Efêmera (yb, 2010) や Juliana Perdigão: Álbum Desconhecido (yb, 2011) など、単独でのアルバムで聴いていた歌手だったが、そんなに良かったかと思わず聴き直してしまった程。 単独のアルバムよりこのコンピレーションで聴いた方が、飽きずに個性が生きるようで、良いかもしれない。

上に挙げた曲だけでなく全体としても、変に奇を衒った感じではないものの、 個性的なアレンジとポップさとゆったり落ち着く雰囲気のバランスが良く、ハズレと思うような曲はない。 現在のブラジルのインデペンデントな rock/pop シーンの厚さも感じさせるコンピレーションだ。 このコンピレーションはCDでもリリースされているが、 ウェブサイトで 楽曲の 320kbps MP3 とパッケージの JPEG を一式納めた ZIP を無料でダウンロード可能にしている。 そういう意味でも、今のブラジルの pop/rock を聴く最初の手掛かりとして、お薦めだ。

ところで、Mulheres De Péricles から話は少し離れるが、 このコンピレーションに参加している女性歌手のうち Nina Becker、Bluebell、Tulipa Ruiz、Juliana Perdigão の4人が yb music から単独でのアルバムをリリースしている。 yb music は最初期は yBrazil? (もしくは yBrasil?) として 1999年から活動しているサンパウロのインデペンデント・レーベルだ [関連発言]。 その yb music が2012年の Cannes Lions International Festival of Creativity (広告のフェスティバル) で、 Samba Matchbox というプロジェクトをプレゼンテーションした [YouTube]。 Samba Matchbox はQRコードを印刷したマッチ箱を使ったプロモーションで、 QRコードを使ってウェブサイトへアクセスすると、 マッチ箱をサンバ・パーカッションとして使う模範演奏の動画が見られたり、 yb music の音楽を紹介するフリーの DJ mix MP3 がダウンロードできたりするというもの。 そのマッチ箱が手に入らなくても、YouTube 動画に映ったQRコードで、 そのウェブサイト :How To Play Samba - Canne 2012: へアクセスすることができる。 模範演奏動画2本で演奏しているのは Trio Mocotó の Nereu だし、 DJ mix MP3 も3本で合計約2時間分もあり、かなり楽しめる内容になっている。 こちらも、今のブラジルの pop/rock の活きの良い所を伺えるという点でお薦めだ。