jazz trumpet 奏者 Don Cherry の娘で 1980年前後のUK Post-punk の文脈で Rip Rig + Panic 等の歌手として活動を始めた Neneh Cherry の17年ぶりのソロ・アルバム作は、Four Tet [関連レビュー] こと Kieran Hebden の制作。 といっても、Four Tet のキラキラした electronica のトラックをバックに歌っているわけではない Four Tet との共演も多い Ben Page (keyboards) と Tom Page (drums) の生演奏 electronica duo RocketNumberNine による、飾り気の無い重めのダウンテンポのトラックを背景に、 昔よりも少々低く少々語るかのように淡々とした歌を乗せている。 20年前の trip hop 的な音作りを思い出させるような所もあるが、 歪んだ音のバックトラックといい、歌から rap 的なリズムを排除している所など、 聴き比べるとかなり違う印象を受ける。 そして、そのストイックな音作りが、気に入っている。
Rough Trade Shops 限定のボーナスディスクには、リミックスが4曲収録されている。 うち2曲は Re: ECM (ECM, 2011) [レビュー] 以来、共に活動する事の多い Ricardo Villalobos & Max Loderbauer によるもの。 ダンスフロアを意識した重めにミニマルなトラックに Neneh Cherry の語りのような歌が乗る中に 途中でビートを解体した improv 的な展開を交えたり、さすがのリミックス。 大物の共演は得てして単に揃っているだけのような内容になりがちだが、 Neneh Cherry、Four Tet & RocketNumberNine に Ricardo Villalobos & Max Loderbauer と それぞれちゃんと仕事をしていると感じさせる内容だ。
併せて、リアルタイムで聴いてきていたものの今まで触れそこねていたここ数年の関連リリースを紹介。
ソロとしては17年ぶりだが、Neneh Cherry は2年前に ノルウェー/スウェーデン混成の free/punk jazz trio The Thing [関連レビュー] と共演盤をリリースしている。 リリースは Blank Project をリリースした Smalltown Supersound の jazz レーベル Smalltown Superjazz。 Suicide の “Dream Baby Dream”、The Stoogies の “Dirt” のような post/prot-punk の曲から、 Don Cherry の “Golden Heart”、Ornette Coleman の “What Reason” のような free jazz の曲もやっている。 Neneh Cherry の歌唱は今から振り返ると Blank Project と連なる淡々と抑えたもので、 The Thing の演奏もヘビーながら free jazz/improv 的にアウトになる展開は控えめ。 中でも最も気に入っているのは、vibes の音もアクセントになっているゆったりブルージーな “Dream Baby Dream”。 このような曲はなど、特に Blank Project との連続性が感じられる。
The Cherry Thing はそれに続いてリミックス・アルバムがリリースされている。 Four Tet Lindstrøm & Prins Thomas のようなダンスフロア指向の強いリミックスもあるが、 electronica 的な要素を付け加える形のリミックスの方が多い。 キラキラした downtempo breakbeats 仕立ての “What Reason Could I Give (Kim Hiorthøy Remix)” や vibes の音を Four Tet らしく生かしつつミニマルにつんのめるようなビートの “Dream Baby Dream (Four Tet Remix)” が特に聴き所だろうか。
Blank Project で Neneh Cherry のバックで演奏している RocketNumberNine は Four Tet と共演した12″を Text レーベルからリリースしたりしていたが、 1年程前にやはり Smalltown Supersound からフルアルバムをリリースしている。 このアルバムは Kieran Hebden 制作ではないが、 Blank Project の音色使いや、ビートなど、 ここでのスタイルをそのまま生かしていることを伺わせる。 歌が無い分だけキャッチには欠けるが、演奏のドライヴ感を楽しめる内容だ。
これらの一連のリリースの先駆けとなったリリースといえるのが、このライブ盤だ。 Domino から4枚のアルバムをリリースした、 Kieran Kebden (Four Tet) とニューヨークの jazz drums 奏者 Steve Reid の duo に The Thing の saxophone 奏者 Mats Gustafsson を迎えての2009年のライブ録音。 2010年に Reid が亡くなったのを承けての追悼リリースでもあった。 Tongues (Domino, WIGCD189, 2006, CD) で聴かれるような キラキラ明るい音色の生演奏 electronica に 強く平板な Gustafsson の咆哮 sax が合うのだろうかと、リリース当時、聴く前は思っていた。 実際、CD1はとりとめなくも感じ、追悼のレア音源蔵出しという面も否定できない。 しかし、CD2になるとかなり馴染んでくるし、 “The Sun Never Sets” のような特に明るい曲に Gustafsson の sax が意外にも合うことに気付かされたりもした。 それより、こういう試みが一回性の顔合わせで終らず、Neneh Cherry も巻き込んで、 組み合わせも変えつつ The Cherry Thing や Blank Project のような作品が続いたということが、今から思うと感慨深い。