TFJ's Sidewalk Cafe > Cahiers des Disuqes >
Review: Ricardo Villalobos / Max Loderbauer: Re: ECM
2011/08/30
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Ricardo Villalobos / Max Loderbauer
Re: ECM
(ECM, ECM 2211/12, 2011, 2CD)
CD1: 1)Reblop 2)Recat 3)Resvete 4)Retimeless 5)Reemergence 6)Reblazhenstva 7)Reannounce 8)Recurrence 9)Requote
CD2: 1)Replob 2)Reshadub 3)Rebird 4)Retikhiy 5)Rekondakion 6)Rensenada 7)Resole 8)Redetach
Produced September-December 2009
Sound structures by Ricardo Villalobos and Max Loderbauer. Developed and produced at Laika Studio, Berlin, Autumn 2009.
Pre-mastering: Rashad Becker. Mastering: Manfred Eicher.
Based on ECM recordings:
CD1-1,9;CD2-1,8) Christian Wallumrød Ensemble: Fabula Suite Lugano (ECM, ECM 2118, 2009)
CD1-2) Christian Wallumrød Ensemble: The Zoo Is Far (ECM, ECM 2005, 2007)
CD1-3;CD2-4,7) Alexander Knaifel: Steve Tikhiy (ECM, ECM New Series 1763, CD, 2002)
CD1-4) John Abercrombie: Timeless (ECM, ECM 1047, 1974)
CD1-5) Miroslav Vitous: Emergence (ECM, ECM 1312, 1986)
CD1-6) Alexander Knaifel: Blazhenstva (ECM, ECM 1957, 2008)
CD1-7) Louis Sclavis: L'Imparfait Des Langues (ECM, ECM 1954, 2007)
CD1-8) Wolfert Brederode Quartet: Currents (ECM, ECM 2004, 2007)
CD2-2) Paul Giger: Ignis (ECM, ECM New Series 1681, 2000)
CD2-3) Enrico Rava / Stefano Bollani / Paul Motian: Tati (ECM, ECM 1921, 2005)
CD2-5) Arvo Pärt: Kanon Pokajanen (ECM, ECM 1655, 2000)
CD2-6) Bennie Maupin: The Jewel In The Lotus (ECM, ECM 1043, 1974)
CD2-7) Alexander Knaifel: Anicta Sole (ECM, ECM New Series 1732, 2005)

南米チリにルーツを持つ minimal techno のDJプロデューサ Ricardo Villalobos と NSI 名義や Moritz von Oswald Trio での活動で知られる Max Loderbauer、 この2人のベルリンのDJ/プロデューサーによる、 ドイツの jazz/classical レーベル ECM 音源の remix アルバムがリリースされた。 ダンスフロアを意識した音作りでは全く無いが、 メロディやリズムが解体されている分だけ、ECM らしい音の肌理が生きた作品となっている。

このアルバムは、曲・セッションをマルチトラックのマスター音源を元に、 打ち込みのリズムパート等を加えてリミックスしてダンストラックとして再制作したようなものではない。 一旦完成した ECM 音源をサンプルとして利用して live-mixing-board-system と modular synthesizer を使って制作した作品だ。 そのために個々のサンプルの音の肌理に ECM 独特な音処理の痕跡が残る一方、 スタジオワークのリミックスというようり「演奏」という感もあり、 全体の展開としては、リズムが抑えめの Moritz von Oswald Trio や、 electronics を駆使した Rune Grammofon レーベルのリリースなども連想せられた。 そして、そういう所が気に入った。 最近の ECM のリリースにありがちなのだが、制作からリリースまで2年かかっている。 ダンスフロア向けの音作りをしていたら、もしくはスタジオワーク指向の音作りをしていたら、 リリース時には時代遅れに感じるような音になっていたかもしれない、とも思った。

ECM の中では有名な Jan Garbarek、Standards Trio や The Hilliard Ensemble のような ミュージシャンの音源は選ばれていない。 音源は初期の1970年代のものから最近の2000年代のものまで New Series のものを含めて使われているが、 メインは 2000 年代の音源。 それも、Christian Wallumrød Ensemble と Alexander Knaifel の音源が多い。 1曲の音源は基本的に1つのアルバムであり、 2つのアルバムを音源にした “Resole” (CD2-7) でも、 音源は2つとも Alexander Knaifel のアルバムだ。 多様な音が雑食的に組み合わされているというより、アルバム全体で統一感がある。 drum set の音の中では cymbal や snare drums であり、 管楽器の音は jazz 的な sax のブロウというより室内楽的な clarinet であり、 むしろ piano を含む弦楽器の響きが構成音のメイン。 そんな音選びは、jazz/improv のアルバムにしても室内楽的に感じる ECM のイメージにも 合致しているように思う。

The Wire 誌 June 2011 号の記事によると、 制作中のスタジオには Manfred Eicher 自身も足を運んでいたとのことで、 リリースには ECM のカタログ連番が付されている。 熱心な ECM レーベルのファンである [関連記事] と以前から自認していた Villalobos は、これを光栄に感じていたよう。 Max Loderbauer の参加する Moritz von Oswald Trio には ECM レーベルの piano trio Julia Hülsmann Trio の bass 奏者 Marc Muellbauer が 参加したりもしている [レビュー]。 pre-mastering を手掛けた Rashad Becker は Basic Channel 傘下の Dubplates & Mastering 所属、 Friedman & Liebezeit や Root 70 などの Nonplace のマスタリングを手がけてきている [レビュー]。 確かにこの企画に Moritz von Oswald が参加していたらとは思ったけれども、 ECM のリミックスとしてはほぼベストとも言える人選だ。 ECM 配給元の Universal Music の主導でのコマーシャルなリミックス企画ではなく、 むしろ、Moritz von Oswald Trio や Friedman & Liebezeit などの jazz/improv に近い electronica の作品と同じ文脈に乗る作品と言えるだろう。

ちなみに、ECM のリミックスのリリースはこれが初めてではない。 Nils Petter Molvær の Khmer (ECM, ECM 1560, 1997, CD) からの リミッスク・シングルCDが2タイトル、1998年にECMからリリースされている。 Solid Ether (ECM, ECM1772, 2000, CD) からも リミックスのシングル/アルバムが制作されたが、 こちらのリリースは ECM ではなく、Universal Music 傘下の Molvær 自身のレーベルから リリースされた[レビュー]。