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Review: Michiyo Yagi, Ingebrigt Håker Flaten, Paal Nilssen-Love, Peter Brötzmann, Mats Gustafsson, Ken Vandermark (live) @ Koendori Classics, Shibuya, Tokyo; The Thing & Ken Vandermark with Peter Brötzmann (live) @ Pit Inn, Shinjuku, Tokyo
2007/09/23
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Michiyo Yagi, Ingebrigt Håker Flaten, Paal Nilssen-Love, Ken Vandermark, Peter Brötzmann, Mats Gustafsson
公園通りクラシックス, 渋谷
2008/09/21, 19:30-22:00
1st set: 八木 美知依 (Michiyo Yagi) (21- & 17-string kotos), Ingebrigt Håker Flaten (doublebass), Paal Nilssen-Love (drums); special set: Ken Vandermark (tenor saxophone), Ingebrigt Håker Flaten (doublebass), Paal Nilssen-Love (drums); 2nd set: Peter Brötzmann (reeds), Mats Gustafsson (baritone saxophone, alto saxophone), Paal Nilssen-Love (drums).
The Thing & Ken Vandermark with Peter Brötzmann
Pit Inn, 新宿
2008/09/22, 20:00-22:30
The Thing: Mats Gustafsson (baritone saxophone, alto saxophone), Ingebrigt Håker Flaten (doublebass), Paal Nilssen-Love (drums); & Ken Vandermark (tenor saxophone); guest (2nd set only): Peter Brötzmann (reeds).

9月21日から25日にかけて、都内の 公園通りクラシックスPit InnSuper Deluxe で、jazz/improv コンサート・シリーズ Tokyo Conflux 2008 が開催されている。 スウェーデン (Sweden) - ノルウェー (Norway) 混成のトリオ The Thing (Mats Gustafsson - Ingebrigt Håker Flaten - Paal Nilssen-Love)、 シカゴ (Chicago, IL, USA) の Ken Vandermark、 ドイツ (Germany) の Peter Brötzmann という Peter Brötzmann Chicago Tentet を思わせる海外組に、 八木 美知依、Jim O'Rourke、田中 徳崇、灰野 敬二 と 日本 (在住) のミュージシャンを合わせ、 様々な編成で6日間のライブを繰り広げている。 このコンサート・シリーズの初日と二日目を観た。

初日と二日目の面子のうち The Thing と 八木 - Flaten - Nilssen-Love trio は去年に観る機会があり、 Peter Brötzmann も去年はもちろん何回も観てきている。 そんなこともあると思うが、2回のコンサートを通して、 初来日の Ken Vandermark の演奏が最も印象に残った。 実は、Vandermark をCDでよく聴いていたのは1990年代半ば、 最近は遠ざかってしまっていた。 今更初来日なんて十年遅いよ、と観る前は思っていたのだが、 これらのコンサートで Vandermark の魅力を再発見した。

Brötzmann、Gustafsson も Vandermark も 歪むほど激しく強い音で reeds (saxophones, clarinets) を吹く奏者なのだが、 3人を並べてライヴで観ると、その資質の違いがはっきりわかって面白かった。 Brötzmann や Gustafsson がブォーッとロングトーンを多用する一方で、 Vandermark はババババッと細かく音を刻む傾向がある。 ロングローンといっても Brötzmann が Albert Ayler 的な 感傷的なフレーズから入りトレモロ等を用いて若干のニュアンスを付けるのに対し、 Gustafsson のそれはもっと平坦に吹かれた抽象的な轟音、という違いがある。

そんな3人の資質の違いが最も上手く組み合わさったように感じられたのは、 二日目の1stセット The Thing & Ken Vandermark だ。 リズムというよりテクスチャのように聴こえる Flaten - Nilssen Love の上に Gustafsson と Vandermark が轟音テクスチャで塗り込めるような展開の中、 次第に Vandermark の短いフレーズに Nilssen-Love の叩くアクセントが反応し始め、 その後ふっと Gustafsson が引いて、 Vandermark の前のめりに畳み掛けるようなフレーズと それを煽る Flaten - Nilssen-Love の変則的なリズムが急に浮かび上がる、 そんな1stセットで聴かせた展開が、 今回観たコンサートの中で最も感動した瞬間だった。

初日2ndセットの Gustafsson - Brötzmann の組み合わせは、 資質が近いせいか、ロングトーンの轟音競争的展開で単調になりがち。 (Gustafsson が少々調子悪そうに左耳を押えていたのも気になってしまったが。) reeds 3人が揃った二日目2ndセット (含むアンコール) も落ち着いた音で吹く展開もあり 悪く無なかったが、Vandermark の出番が減ってしまった分だけ物足りなく感じてしまった。 初日の1st/2ndセットの間に特別に行われた短い Vandermark trio のセットは、 二日目 1st で Gustafsson が引いた瞬間に浮かびあがったような 小回りの効いたスピーディなもの。 短かかったが、初日の中では最もインパクトを感じた演奏でもあった。 初日1st の 八木 trio も手数を駆使して迫力ある演奏が楽しめたが、 その後のセットを聴き進むにつれて、reeds 3人の資質の違いに興味が行ってしまい、 結局印象が霞んでしまったのは残念。

初日は「臨場感ナイト1」と銘打たれているのだが、 このような激しく強い音を使ったセッションはコンサートでないと楽しめないもの。 そういう点も楽しんだ2晩だった。 しかし、今回のコンサートで Mats Gustafsson との対比の中で Ken Vandermark のフレージングに魅力を感じたのも確か。 もし次の来日があるのであれば、このような轟音セッションではなく、 Jimmy Giuffre トリビュートとも言える Free Fall (Ken Vandermerk - Håvard Wiik - Ingebrigt Håker Flaten) でのコンサートを観てみたい。