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Review: Elina Duni Quartet (live) @ Anyo-in Temple, Tokyo
2016/09/04
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
Elina Duni Quartet
安養院 瑠璃光堂 (板橋区 小竹向原)
2016/09/04, 18:30-20:15
Elina Duni (vocal), Colin Vallon (piano), Patrice Moret (doublebass), Norbert Pfammatter (drums).

アルバニアのチラナ (Tirana, AL) 出身ながら10歳の時 (1992年) にスイスへ亡命、 スイスの jazz/improv の文脈で活動する女性歌手 Elina Duni の自身の 4tet でのコンサート。 最近の ECM からの2作、 Matanë Malit (ECM, ECM2277, 2012, CD) や Dallëndyshe (ECM, ECM2401, 2015, CD) の印象もあって、 淡々と落ち着いた雰囲気のコンサートになるかと思いきや、 Elina Duni は drums と掛け合うかのように手で拍子を取りつつ半ば踊りながら歌い、 3人もバッキングに徹することなく対等に弾き合うよう。 リズミカルでスリリングな演奏が楽しめた。

曲は Duni の出身地アルバニアの民謡に基づくもので、歌詞もアルバニア語だ。 これを彼らならではの jazz/improv 流儀の演奏でアレンジしていた。 アルバニアはバルカン半島の国だが、彼らの演奏しているのは、いわゆる Balkan brass 風、Gypsy 風の曲では無い。 その jazz/improv がかった演奏もあって、 ボスニアの Amira Medunjanin が Bojan Z の伴奏で歌う sevdah [レビュー] や、 ギリシャの Savina Yannatou & Primavera En Salonico の歌う Sephard の歌 [レビュー] に近い、憂いを感じる節回しの歌だ。 同じくアルバニア出身で jazz/improv と folk の間の文脈で活動する女性歌手 Eda Zari [レビュー] と比べると、その歌い口に加え管楽器を用いアレンジもあって、 folk 的なアクの薄いすっきりミニマルに感じる音作りだ。

歌手と掛け合っているのは主に Norbert Pfammatter の drums で、 リズムを刻むというより、まるで歌うかのように様々なフレーズを空間に散りばめていく。 Duni もそんなフレーズをなぞるかのように、踊るように手を動かし、踊るように歌っていた。 Colin Vallon の piano は、歌のメロディをなぞる時もあったが、 むしろ歌に寄り添うでなく離れるでもなくキラキラしたテクスチャーを作り出していた。 そんな中、リズムの要となったのは、Patrice Moret の bass の鈍いピチカートだ。 編成からして一見スタンダードな piano trio 伴奏の女性歌手もののようで、 各パートの役割が変則的な所もスリリングに感じられた。

会場になったのは、鎌倉中期 (13世紀半ば) に創建されたといわれる真言宗の寺院 安養院。 今回のコンサートで行くのは初めて。古刹が会場ということにも興味を引かれました。 会場となった瑠璃光堂は2015年11月に落慶した薬師如来像が安置されたモダンなお堂で、 多目的ながらコンサートも開催できるよう音響設計もされているといいます。 classical のコンサートを開いていたそうですが、音を重視した jazz のコンサートも開くようになったとのこと。 音楽専用ホールほどではないとしても音は良く、ライトアップされた境内の緑を窓越しの背景に演奏する様子も、趣があります。 少々、演奏する音楽を選ぶ箱ですが、ECMからリリースされるような jazz/improv なら合うでしょう。 ちなみに、次の jazz のライブは11月23日の Bobo Stenson Trio、ECM の piano trio です。