パリ育ちのチュニジア人で、現在はニューヨークを拠点に Afrobeat のグループ Ajoyo (Ropeadope レーベルからリリースがある) を率いて活動する saxophone 奏者 Yacine Boularès。 Bumcello [レビュー] や Ballaké Sissoko とのデュオ [レビュー] など jazz だけでなく world music の文脈での活動も目立つフランスの cello 奏者 Vincent Segal。 そして、Ralph Alessi, Avishai Cohen や Tony Malaby などのグループで活動する New York の jazz/improv の drums 奏者 Nasheet Waits。 この3人によるトリオが、フランスの world music のレーベル Accords Croisés よりアルバムをリリースしている。
アルバムのタイトルは boussadia として知られる子供を怖がらせるチュニジアの民話上のキャラクターから採られている。 そして、黒い顔をしたその griot 的なキャラクター Abu Sadiya を11世紀のチュニジアにいたサブサハラ西アフリカからの奴隷と関係付け、 Abu Sadiya はサブサハラ的な音楽や舞踊からなる儀式 stambali (モロッコの gnawa に似ている) をチュニジアへもたらし、西に jazz をもたらした、と。 このプロジェクトの音楽は、そんな物語に着想したものだという。
といっても、面子とレーベルから音が想像し難く、どちらかといえばアフリカ的な色のある world music のプロダクションだろうと予想していた。 しかし、むしろ jazz/improv の色の濃いアルバムだ。 Boularès は clarinet かのような柔らかく高い音色の sopraneo saxophone で、 時に落ち着いた音色 bass clarinet で飄々としたフレーズを吹く。 対する、Segal はベースラインというには軽いピチカートのフレーズや弓引きで、 Waits の控えめな手数の drums もリズムを刻むようなフレーズはほとんどない。 間合いの多い音空間の中で3者が淡々と落ち着いた調子で対話するかのよう。 楽器の組み合わせも同じ Michael Moore / Ernst Reijseger / Han Bennink の Clusone 3 [レビュー] を連想させるような演奏だ。 Clusone 3 ほどフリーキーになることは無いし、 Boularès のモーダルなフレーズがアラブ的というより John Coltrane 風に聴こえる時もあり、 Clusone 3 とは違った色も感じられる。そんな演奏が楽しめるアルバムだ。