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Review: 畠山 直哉 (Naoya Hatakeyama), Draftsman's Pencil
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2007/03/03
畠山 直哉 (Naoya Hatakeyama)
神奈川県立近代美術館 鎌倉
2007/01/06-2007/03/25 (月休;1/8,2/12開;1/9,2/13,3/22休), 9:30-17:00

神奈川県立近代美術館の「今日の作家」シリーズ第11回として取り上げられた作家の一人、 1980年代に活動を始め、1990年代に注目されるようになった写真家の 畠山 直哉 の展覧会だ。 東京を捉えた航空写真をマトリクス状に並べた Untitled 1989-2001 から 最近の建築写真的な Untitled / Montreal (2005) や Habitat'67 シリーズ (2005) まで、 ここ25年余りの作品を2つのギャラリーを使って展示している。 グループ展でだけでなく個展もそれなりに観てきている (レビュー 1, 2, 3, 4) が、 これだけの作品を一度にまとめて観られる展覧会は東京近辺では初めてかもしれない。 ちなみに、観に行った3/3はアーティストトークがあったのだが、 展示室が人でいっぱいになる程 (150人くらいか) の大盛況であった。

画面の幾何的構造の面白さを生かした写真を撮る作家だが、 特に建築や都市が描き出す線が、今回の展覧会のテーマになっていた。 その一方で、Atmos (レビュー) や Two Mountains (レビュー) で観られたような、 不定型なものを撮った写真がほとんど無かった。 テーマから外れるので展示しなかっただけだと思うが、 かっちり線を描く人工物と雲や蒸気のような不定型なものを混在させるような写真が 面白く感じていたところもあったので、それを外したというのは少々意外に感じた。

くっきり線で描くような写真を集めたせいか、その典型のような写真よりも、 その中に非定型なものを感じる写真が逆に印象に残った。 例えば、Habitat'67 シリーズ。 モダンな建築にうっすら雪が積もっている所を捉えているのだが、 画面を描く線が微妙に線が甘くなっている所が、逆に面白く感じされた。 Atmos における製鉄所に対する蒸気ほどあからさまではないものの、 蒸気と似た役割をさりげなく雪が担っているように感じたからだ。 似たような点で、もう一つ惹かれたのは、 La Vie Immobile シリーズ (2003-2004)。 街の山際やほとんど山の中にぽつんと立った巨大な集合住宅を撮ったものなのだが、 山や木々の作り出す不規則な形状の背景に 巨大な集合住宅が描き出す明瞭な幾何図形がコントラストを為しているのはもちろん、 画面上の強さという点で Habitat'67 における建築物と雪の関係と 逆になっているように感じたからだ。

今回の展示ではほぼ除外された非定型なものを撮った写真は、 展覧会カタログに書かれた「線をなぞる」のとは違うロジックもしくは感覚で撮られているのか、 それとも共通するロジックがまた別にあるのか気になったので、 アーティストトークの際に質問してみた。 それに対し、「山に行ったときは、街のことは忘れている」と、 共通するロジックは無いと比較的はっきり応えたのが面白かった。 さらに、Atmos での製鉄所と蒸気のような 2つの要素が入り交じった写真があるが、と振ったら、 ポストモダン的な人格の多重性のような方向に話が行ってしまったが。

もう一点興味を引いたのは、 去年の Two Mountains にもジオラマ写真があったが、 今回の展示でもミニチュアの模型を撮影したシリーズが3つあったことだ。 Tokyo / Mori Building (2003)、 New York / Tobu World Square (2003-2004) と New York / Window of the World (2006) だ。 それも画面全体にピントが合ったパンフォーカスで撮られており、 特に前2者はモノクロということもあって建物の質感の情報が落ちているだけに、 よく観ないとミニチュアの模型を撮影したとは気付かない仕上りだ。 (ただし、最後のものはカラーということで、色で模型と気付かされる。 ジオラマの写真はモノクロの方が良いに思う。) ジオラマのような風景写真を撮る 本城 直季 (Small Planet, 2005) の逆のアプローチだ。といっても、もちろん、畠山 の写真の方が先だが。 アーティストトークの際にこの点についても質問してみたのだが、 まるで航空写真のようにジオラマ写真を撮ろうという意図はあまりなかったようだ。

ちなみに、アーティストトークでは、 実際の撮影に使っている 4×5 のフィールドカメラと三脚を実際に取り出し、 具体的な撮影の仕方も含めて話をした。 最近の自分の建築写真への志向を、 部屋としてのカメラ (camera obscura = 暗い部屋) と建築の相似性、 レンズを対称中心にした対称性、などを持ち出して話していたのが興味深かった。 ちょっとメタな話になりがちなところもあったが、 実際のカメラがあることで話が絶妙にバランスしていたように思う。 Tokyo / Mori Building のパンフォーカスの話でも、 具体的にどうパンフォーカスを実現したのかまでカメラを操作して説明してくれた。 そんなこともあって、アーティストトークは非常に盛り上がり、 結局15時から閉館の時間(17時)まで続いた。

[sources]