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Review: 『Stitch by Stitch —— 針と糸で描くわたし』 @ 東京都庭園美術館 (美術展)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2009/08/15
東京都庭園美術館
2009/07/18-09/27 (7/22,8/26,9/9,9/24休), 10:00-18:00 (8/10-16: 10:00-20:00).
秋山 さやか, 伊藤 存, 奥村 網雄, 清川 あさみ, 竹村 京, 手塚 愛子, nui project, 村山 留里子.

東京都庭園美術館では初となる、若手の作家による現代アートの展覧会だ。 そのテーマは刺繍。といっても工芸的な刺繍作品ではなく、 刺繍もしくはそれに準じた手法も用いられているコンセプチャルな作品の展覧会だ。 少々こぢんまりした展覧会と感じたが、それなりに楽しめる作品もあった。

最も印象に残ったのは、手塚 愛子 [関連レビュー 1, 2, 3] の白い布にショッピングピンクの刺繍を施した作品だ。 施した刺繍の絵柄より、その裏から伸びた糸のボリューム感が圧倒的。 まとまれて落とされた糸の束がメインに感じられる、その逆転した感じが面白い。 トルソや黒いマントの内側に、ビーズ細工や編み物細工、造花などを仕込んだ 村山 留里子 の作品も、反転の面白さだ。 (彼女の作品を観るのは、おそらく初めて。) しかし、トルソやマントという人の思わせる形を使っていることもあり、 人の内面を暗示させているように感じさせる所もあった。

展覧会が全体としてこじんまりしているように感じた一因は、 テーマが私的というか個人的なものが主だったことだ。 今回展示されていたような現代アート作品のルーツの一つとして、 刺繍ではなくヌイグルミであるが、Annette Messager の作品が思い浮かぶ [レビュー]。 Messager のような作家が1970年代に個人的なものを作品として取り上げた背景には、 フェミニストのスローガン「個人的なことは政治的である」と共通する意識が多分にあっただろう。 Messager の “Story Of Dress” (1990) など、そういう作品の典型だ。 しかし、それから20〜30年経って、そんな主張はすっかり置き去られているように感じる。 今回の展覧会で、個人的なものを政治的に思わせる契機を作品に感じることは無かった。 それが、この展覧会がこじんまりしたものと感じた理由だ。 確かに、それが Messager などとは違う、彼ら若い作家の新しさなのかもしれない。 しかし、自己責任論や「空気が読めない」のような言葉が流行る現在、 「個人的なことは政治的なことである」ということは、 作品や展覧会としても取り組み甲斐があることではないかとも思ったりするのだ。