映像を使った作品を多く制作しているスイスの現代美術作家 Pipilotti Rist が 初めて作った長編映画は、 映像作品 “Ever Is Over All” (1997) [関連レビュー] に登場する 手に持つ花で駐車中の自動車の窓ガラスを叩き割っていく青いドレスを着た若い女性像をさらに展開し、 色彩溢れる映像センスはそのままに2000年代以降に顕著になったキッチュでシュールなセンスも加え、 80分間の少々コミカルな物語に仕上げたような作品だった。
主題については、Pepperminta というより Edna の通しての女性性に関する言及など、Rist らしい。 しかし、“Ever Is Over All” では仄めかし程度だった 秩序を守る側 (警察や大学・学校など) と色彩で混乱させ解放させる側 (Pepperminta たち) のような図式は、映画では単純で少々ステロタイプに過ぎるだろう。 むしろ、色鮮やかな花や果物、明るいブルーの水中をゆるく泳ぐ人や漂う物、クロースアップで露になる肌理、 カラフルでどろっとした液体などの質感が、Rist のこだわりを感じた。 単純化された図式は、そんなこだわりの映像に変化を付けて80分間見続けられるように構成するための枠組みだ。
そして、そういった判りやすさやユーモアが、現代美術作家による映画にしては、 例えば Matthew Barney の The Cremaster Cycle や Drawing Restraint 9 といった映画 [関連レビュー] に比べ、 この映画をとっつきやすい物にしていたと思う。 また、主要登場人物の服装や小物のその色彩や形のセンスの少々悪趣味な感じや、 それによる秩序破りを描く所に、John Waters の映画を連想させられたときもあった。
映画音楽担当の一人 Anders Guggisberg は、“Ever Is Over All” はもちろん、 “I'm A Victim Of This Song” (1995) での Chris Isaak: “Wicked Game” のカバーなど、 今までもRist の多くの映像作品で音楽を手がけてきている。 その音楽も今までと同じく、 ベルリンのレーベル Monika Enterprise [関連レビュー] のリリースに近い indietronica 的なものだ。 もしくは、少々キッチュなセンスも含めて、 Chicks On Speed からDIY色とtechno色を薄めたよう。 彼女らの Visitors という映画を観たことを思い出したりもした [関連レビュー]。