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Review: Compagnie DCA - Philippe Decouflé: Panorama @ 彩の国さいたま芸術劇場 (ダンス)
嶋田 丈裕 (Takehiro Shimada; aka TFJ)
2014/06/16
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2014/06/14, 15:00-16:20.
Mise en scène et chorégraphie: Philippe Decouflé.
Interprètes: Meritxell Checa Esteban, Julien Ferranti, Rémy-Charles Marchant, Ioannis Michos, Matthieu Penchinat, Lisa Robert, Violette Wanty; guest: スズキ 拓朗 [Takuro Suzuki].
Costumes: Philippe Guillotel. Coordination chorégraphie, Costumes et Décor: Éric Martin. Éclairage et Régie Générale: Begoña Garcia Navas.
Musiques originales: Karl Biscuit, Hugues de Courson, Claire Diterzi, Sébastien Libolt & La Trabant, Nosfell & Pierre le Bourgeois, Parazite Système Sonore (Marc Caro, Joëlle Colombeau, Spot Phélizon), Joseph Racaille.
Spectacle créé en avril 2012 au Théâtre National de Bretagne.

フランスのコンテンポラリー・ダンスの振付家 Philippe Decouflé が久しぶりに 自身のカンパニーを率いて来日した。 演目の Panorama は、 Concours chorégraphique international de Bagnolet (バニョレ国際振付コンクール) で 1er Prix de chorégraphie (最優秀賞に相当) を受賞した 自身の最初の振付作品 Vague Café (1983) をはじめ、 自身の過去の様々な振付を新しい若いダンサーのために振付直して再構成したもの。 以前に観たことのある振付をもう一度観ることができただけでなく、 Kaleïdoscope (naïve vision, 2004) のような 映像化されたものを通して見覚えのある動きを実際に観るのも感慨深いものがあった。 最近はコンテンポラリー・サーカスの公演を観る機会が増えたこともあるのか、 サーカス的な所を楽しみつつも、 今まで受けていた印象程にはサーカス的な動きや技を使っていないということにも気付かされた。

開演前からホワイエにバトン隊で繰り出して客寄せの賑やかしをしたり、 道化的な司会役置いて短い場面を繋いでいくあたり、全体を纏める枠はやはりサーカス的。 この全体の枠組みは おそらく Triton (2 ter) (1999) [レビュー] を意識したもので、 サーカス・テントの櫓を仮設したかのような舞台で、舞台の脇には楽屋の化粧台を見せて着替える様子を見せているのも同じ。 Triton (2 ter) の中で最も好きだった場面、 頂点の滑車を通したワイヤで繋がれた男女2人による半ばエアリアルなアクロバット・ダンスも再構成された。 重力を感じさせない浮遊感とワイヤの加減で男女が寄ったり離れたりするその加減も、ロマンチックな演出にぴったり。 Panorana の中でも最も良かった場面で、 これは Decouflé の振付の中でもベストの一つだ。

Panorama は 動きや技もーカス色濃かった Triton (2 ter) から 動きを見せる場面を他の作品でのダンス的な動きに置き換えていったかのよう。 冒頭の Jump (1984) や Vague Café といった最初期の振付の再構成など、 いかにも1980s風のカラースーツを着たダンサー達が 1980s New Wave 風の音楽に合わせて ポケットに突っ込んだまま跳ね転がるようなダンスをした所など、 初めて New Order: “True Faith” (1988) や Fine Young Cannibals: “She Drive Me Crazy” (1989) のミュージックビデオを観て、 「なんだ、この変な踊りのビデオは」を思ってハマった時のことを思い出したりもした。 サーカス的な構成や技、シルエットを使ったトリック、大仕掛けな舞台装置などに注目しがちだが、 こういうユーモラスで可愛らしいダンスも彼の魅力だったということを思い出しもした。

ワイヤを使ったエアリアルなダンスのような見せ場があったけれども、 全体としては大掛かりな舞台装置を使った演出は控え目。 ライブで映像を撮ってそれを加工投影するような演出も無かった。 シルエットを使ったダンスも、小さなスクリーンで手を使った影絵遊びとの共演程度。 このような構成だからか、ビデオゲームの格闘ゲームに着想したダンスの そのチープなユーモラスさも、浮かずに楽しめたようにも思う。 Crazy Horse や Cirque de Soleil での金のかかった派手な演出の反動で、 総合的な演出ではなく振付という所に焦点を当てたのかもしれないが、 技術的予算的制約の少ないツアーしやすい作品として制作したのかもしれない。 そんなことを思ってしまった作品だった。

終演後、映像ホールに会場を移して Decouflé 自身によるレクチャーがあったので、併せて聴講した。 レクチャーといっても、Decouflé 自身のコメント付きで過去の作品の映像を観るという程度だったが。 Petites Pièces Montées (1993) の映像を観て 1994年の日本公演を見逃したのは痛恨だったと思ったりもしたが、 やはり、気になったのは、初期の映画のオマージュという Cirque de Soleil で演出した作品 Iris (2011) [YouTube] や、 プールを使った作品 Swimming Poules et Flying Coqs (2011)。 過去の作品の再演ももちろん観たいけれども、 エンターテインメントの文脈での演出作も含めて最近の作品をもっと観たいと、つくづく思ってしまった。 (レクチャーでは観なかったが、もちろん、Crazy Horse の Désire (2009) [関連レビュー] も。)

Decouflé との質疑応答の中では、1992 Winter Olympics, Albertville の Opening Ceremony の 選考の経緯の話が面白かった (作品の理解が深まるような話ではないが)。 当時、Jean-Paul Goude のアシスタントをしていて、 1989年の革命記念日のパレードの振付を手伝った経緯もあって推薦してもらえた、という話も初めて知ったが (Wikipedia にも書かれているので、それなりに知られた話なのだろう)、 日本から戻ったばかりでニッカボッカに足袋という姿でプレゼンをしたとか、 プレゼンに New Order: “True Faith” のミュージックビデオを使ったとか、そういう逸話が面白かった。