5月3日、4日の1泊で行った ふじのくに⇄せかい演劇祭。 4日は昼前から雨が降る中、舞台芸術公園まで登って3本観てきました。 (3日に観た3本についてはこちら。)
演劇はもちろん映画・テレビでも活躍しているというレバノンの俳優2人による、自身の演出による舞台。 Roger Assaf 演出による Samuel Beckett: En attendant Godot 『ゴドーを待ちながら』 で Vladimir と Estagon として共演したことをきっかけに生まれた作品とのこと。 (ネットでの断片的な情報から推測するに、En attendant Godot での共演が2003年、 Page 7 は少なくとも2007年には上演されています。) 2人の浮浪者の一方は、新聞の死亡欄 (第7面) で葬式をチェックして葬式で出るご馳走のお零れを狙おうとするのですが、 もう一方がはぐらかすために、行けず仕舞いになってしまいます。 そのうち、その死亡欄に自分が載っているのを見付けて、実は自分が死んでいることに気づいてしまい、本当に死んでしまう、というストーリーでした。 死んでいるのにそれに気づかずにいる状況といい、会話の端々に 1975〜90年の内戦以降のレバノン断続的な紛争や分裂の状況や、 2011年以降の苛烈なシリア内戦の不条理な状況を背景に持つ黒い笑いのどれだけ掴めたのか自信はあまり無いけれども、 身のこなしや口調からして雰囲気が感じられ、指をV印にして明るい場所を取り合う掴みから、その雰囲気にぐっと引き込まれた舞台でした。
1977年に矢来能楽堂で初演された 太田 省吾 / 転形劇場 の『小町風伝』を、 演戯団コリペ [Theatre Troupe Georipae] 率いる韓国のイ・ユンテクが演出した舞台です (イ・ユンテク 演出 は2012年に初演のようです)。 物語は能『卒塔婆小町』を現代 (1970年代) に翻案したもので、乞食の老婆の代わりに、木造の安アパートに住む老婆が主人公となっています。 オリジナルは観たことありませんが、脚本に書かれたセリフを実際には声に出さず「黙劇」として上演されたとのこと。 今回の上映では脚本中のセリフが全て使われたとのことですが、 小野小町の若い頃、及び老婆を演じる2人がそれを発声することはほとんどなく、 (ク・ナウカのムーバーとトーカーのように) 舞台袖の朗読者が演技に合わせて朗読するよう。 セリフは全て韓国語に翻訳されたものが用いられましたが、それについては違和は感じませんでした。 若い頃の思い出の話が十五年戦争への出征にまつわるものだったり (1935年に20歳だった人が60歳なるのが1975年)、舞台が木造アパートだったり、 という所に、1970年代という時代を感じました。 暗い劇場からまだ明るい外への扉が開いて老婆が去っていくエンディングなど、強く印象に残る場面もありましたが、 全体としてはあまりピンとこないまま終わってしまいました。
今年のふじのくに⇄せかい演劇祭は「アングラ演劇50年」ということで、 『ふたりの女』 [鑑賞メモ] や『小町風伝』のような アングラ小劇場第一世代による戯曲の再解釈を試みた作品が取り上げられていました。 しかし、まさに50年前、最初期の1960年代の戯曲ではなく、 1980年代の小劇場ブーム前夜とも言える1970年代後半 (40年前) の、それもいずれも能に基づく戯曲という。 そんな所に少々釈然としなかった一方で、特に能に関連したセレクションなどは 宮城 聰 の好みかもしれない、と思うところもありました。
Maurice Maeterlinck の戯曲 Les Aveugles [The Blind] 『群盲』 (published 1890) をフランスの演出家 Daniel Jeannetau が演出したもの。日本語訳のセリフを用い、SPACの俳優によって演じられました。 僧侶に引きられた盲人の一団が森の中で (僧侶が突然死して) 置き去りにされてしまうという物語。 野外、日本平の森の中で、観客も群盲の一人となるような形で上演される、とのことでしたが、 自分が鑑賞した回は雨天のため屋内での上演となりました。 スモークを濃く焚きしめたBOXシアターの中、ランダムに配置された椅子に観客が座り、その椅子の間で演じられました。 フロアの中心の照明は付いており、スモークが濃いとはいえ数メートルは余裕で見通せました。 そんなこともあり、自分が「群盲」の一人のようになったとは感じられず、かなり物足りなく感じました。 野外での上演でも月明かりなどがあり、目が慣れてしまうと周囲がよく見えてしまった、という話は聞いていましたが、 それでも暗い森の中で体験した方が雰囲気はあったかもしれません。野外で体験できなくて残念。
今年観た6本の中では Issam Bou Khaled & Fadi Abi Samra: Page 7 『ベイルートでゴドーを待ちながら』が最も良かったように思います。 しかし、2014年の Teatro de los Sentidos: Pequeños Ejercicios para el Buen Morir 『よく生きる/死ぬためのちょっとしたレッスン』 [レビュー] や 2013年の Volksbühne am Rosa-Luxemburg-Platz / Herbert Fritsch: Die (s)panische Fliege 『脱線! スパニッシュ・フライ』 [レビュー]、 2012年の The Adventures of Alvin Sputnik - Deep Sea Explorer 『アルヴィン・スプートニクの深海探検』 [レビュー] のような大アタリと言えるような作品に出会えず、 その点はかなり物足りなく感じました。まあ、毎年続けて行っていれば、そういう年もあるでしょうか。
ところで、このような演劇の鑑賞メモを書くためにパンフレット等をチェックしていてよく思うのですが、 上演した戯曲が書かれた年や初演の年 (今回の演出での初演の年も含む) に関するクレジットをきちんと記載して欲しいものです。 特に「アングラ演劇50年」のような過去の見直しをする企画であれば、 そこは作品を理解するにあたってのかなり重要な点ではないかと思うのです……。