この週末から神保町シアターで 『戦後70年特別企画——1945-1946年の映画』が始まったということで、 松竹歌劇団がらみの映画を2本観てきました。
終戦直後の正月映画として製作された1945年12月31日公開されたレビュー映画。 気弱なコック (森川 信) とその店で働くキャバレーのプリマドンナを夢見るウェイトレス (高峰 三枝子) のすれ違う恋物語という設定はあるけれども、 それを丁寧に描くというものではなく、メインは踊りと歌、そしてコミカルな寸劇からなるレビュー。 セットの作りも映画的なリアリズムではなく舞台のよう。 松竹歌劇団によるレビューをそのまま収録したかのような映画でした。 終戦直後とは思えない豪華な舞台セットと衣装を使った、踊って歌う一時間を堪能しました。 高峰 三枝子 を目当てに観に行ったところもあって、その歌やコミカルなやりとりも楽しみましたが、 ターキーこと 水ノ江 滝子 の踊りの麗しさに目を奪われました。
これが終戦直後の正月映画だったというのも感慨深いものがありましたが、 フィーチャーされているのがターキーやディック・ミネで、 タップダンスやハワイアンを使ったり、と、終戦直後当時の解放的な雰囲気の反映というより、 良き戦前モダンの記憶を呼び起こすもの、という面も強かったのかもしれないと思ったりもしました。
終戦直後に製作されたGHQ検閲通過第1号で1945年10月11日に公開の映画。 ヒットした劇中歌「リンゴの唄」で有名な映画ですが、ちゃんと観たのは初めて。 歌手を夢見るレビュー劇場の照明係 みち が、一緒に住む楽団員たち (舟田、横山、平松、吉美) に応援され、 コーラスガールとなり、ついにスター歌手として抜擢されるまでを描いています。 レビュー劇場が舞台で、松竹歌劇団の 並木 路子 が みち を演じ、霧島 昇 や 二葉 あき子 のような歌手が特別出演していましたが、 音楽映画として楽しめたかというとそれほどでもなく、 むしろ、齋藤 達雄、上原 謙、佐野 周二といった俳優がそれらしい役どころで出演している、 戦前から相変わらずの松竹大船映画として楽しみました。 特に、みちと横山がお互い好意を抱いているのに素直になれずに衝突を繰り返すというラブコメ展開とか。
野村 浩将 (dir.) 『女醫絹代先生』 (1937) [鑑賞メモ] や 島津 保次郎 (dir.) 『兄とその妹』 (1939) [鑑賞メモ]、 清水 宏 (dir.) 『暁の合唱』 (1941) [鑑賞メモ]、 あと、レビュー劇場の照明係といえば、島津 保次郎 (dir.) 『男性対女性』 (1936) の津田 美代子 (桑野 通子) [鑑賞メモ]) など、 戦前戦中でも自立した職業女性を描いた映画も作っていた松竹大船なので、 女は台所仕事が大切、スター歌手でも結婚したら引退、という台詞や登場人物設定はちょっと意外でした。 しかし、佐々木 康 (dir.) 『新女性問答』 (1939) でも 桑野 通子 演じる女性弁護士を結末で結婚して家庭に入らせていましたし、 この監督の資質なのかもしれません。