カナダ・ケベックの演出家 Robert Lepage の1993年の作品の再演。 1993年にパナソニック・グローブ座で上演されときは、観ていません。 その時は一人芝居だったとのことですが、今回のバージョンではセリフは無いものの Miles Davis 役を加えていました。
舞台上に、一辺5mほどの立方体の頂点を共有する3面が、3面を三対称とする軸で回転すように設置され、その上でパフォーマンスが繰り広げられました。 各面には出入り可能な扉状のものや収納ベッドが仕掛けられており、窓に見立てたりそこからパフォーマーが出入りしたり。 それらが閉じられたときの3面は白くフラットで、映像を投影するのに適した状態。 面を回転しながら場面に応じた映像を投影して、話を展開していました。
一面が下側に来た時に客席に向けて傾くような角度に、投影される映像もあって、 普通の舞台のように横から観ているように見えるだけでなく、まるで上から見下ろしているように見えるときも。 場面転換に回転を使うことが多く、回転に合わせて重力方向が変わるように感じるのも幻想的。 それに合わせてのパフォーマーの出入りもトリッキーで楽しめました。 モルヒネを打つ Miles Davis の場面、注射針の影を大写しにした象徴的に使った所や、その後の回転を使ったサイケデリックな表現も良かったし、 最後の Jean Cocteau がアメリカへの手紙を読み上げて光の中に消えていくような演出も美しかった。
しかし、結局のところ主人公の傷心に関する話であり、 それが Miles Davis と Juliette Greco の関係に投影されたり、痛みを癒すものとしての「針とアヘン」と関係付けられたり。 主人公が捨てられる経緯が描かれないのですが、それによって傷心に普遍性が与えられていたというより、そもそも傷心に対する説得力を欠いてしまったように感じました。
回転する立方体と映像を使った演出は、Robert Lepage らしくトリッキーでかっこよかったのですが、 物語に訴えかけるものに乏しく、なんとも幻惑的に感じられた舞台でした。